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カルチュラル・スタディーズとは | 町田樹のスポーツアカデミア 【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 ~ポスト・スポーツの先を見据えて~
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部M:なるほど。スポーツの世界で「スポーツと政治的な思想や主張と分離すべきだ」みたいな考え方が固着している。だからこそ炎上したり、アスリートの取り組みも無視みたいなことにつながっていくケースが多々見られるんですけれども、スポーツ・政治分離のこの考え方は、いつからそんなことを誰が言いはじめたのでしょうか。
Y:アスリートが、人種差別撤廃とか女性差別に反対するとか、競技以外の関心を持って発言すると、スポーツと政治は別なんだから、スポーツ選手は政治に口出しをするなと言われる。アーティストとかミュージシャンたちは、とかく政治的な話題に踏み込む人たちもたくさんいて、それほど非難されることもないんだけど。
M:むしろそういうアート作品はたくさんありますもんね。音楽も含めて。
Y:スポーツはやっぱりそういう政治領域にタッチすると、必ず非難される。でも突き詰めていくと、じゃあなんでスポーツと政治は一緒にしちゃいけないのということを、きちんと整理して言える人って、あまりいないと思うんですよ。はじめてポピュラーにスポーツと政治が混同されること、政治的なモードが関わっていると多くの人が感じ取ったのは、1936年かなと思います。ベルリンオリンピックの頃ですね。ナチスが政権を奪取して、オリンピックをプロパガンダの道具にしていく。そんな時代があって、それに対してスポーツと政治は切り離すべきだという論調がそこで登場してくる。
M:ナショナリズム暴走の抑制剤ということですね。
Y:そうですね。ナチスのような排他的なナショナリズムを取るような政治体制が、スポーツというユニバーサルなものを自分たちの道具にして政治宣伝していく。これに対抗するために、「いや、スポーツはそんな政治の道具じゃないよ」という対抗言説が一つ生まれてきたと思うのです。これは町田さんがおっしゃるように、ナショナリズムの暴走。これを一つ食い止めていくための策として、「スポーツと政治は切り離すべきでしょう」という議論が出てきた。近代スポーツというものが誕生してはじめて、そこをみんなが気にするようになった。逆に言うと、スポーツはそれだけの大きなパワーを秘めているということに、みんなが気づく時期でもあったと思うんです。一番大きな変化が生まれてくるのは1960年代後半ぐらいだったと思いますね。例えばメキシコオリンピックの陸上の表彰台で2人の黒人アスリートが、黒いグローブをつけて顔はうつむくんですけど、拳を突き上げるアクションを起こすわけですよね。そうやってスポーツが人種差別に反対しようとする。黒人たちにとってのとても大事なフィールドだと考えられはじめていくのが60年代の後半。それはナショナリズムという大きな政治じゃなくて、もっと自分が自由に生きていくための生活を、差別によって脅かされないような安心した暮らしをという意味で、自分のアイデンティティや実存に関わるレベルでアスリートたちが主張しはじめていく。それを今度は、大きなスポーツの組織が弾圧していくということがはじまった。
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