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7月13日・14日に富士スピードウェイで開催された2019全日本スーパーフォーミュラ選手権の第4戦。雨模様となったレースウィークでTCS NAKAJIMA RACINGのアレックス・パロウだ。参戦4戦目にして初優勝を飾るとともに、チームに9年ぶりの勝利をもたらした。
今シーズンは開幕前のテストから好調な走りを見せていたパロウ。開幕戦の鈴鹿でもチームメイトの牧野任祐とともに予選ワンツーを独占。この時は中嶋悟総監督も満面の笑みをみせていた。しかし、決勝レースでは2台揃ってトラブルが出てしまいリタイア。「名門復活」の吉報はお預けとなってしまった。その後も、第2戦オートポリス、第3戦と思うように結果を残すことができなかったが、今回の第4戦富士ではパロウが予選で見事な走りを見せポールポジションを獲得した。
チームとしては今季2度目のポールポジションに対して中嶋総監督は「素直に嬉しいです」と言いつつも、決勝に向けては「レースのこと(勝敗の行方)は神様が決めることなので……」と慎重な姿勢を見せていたのが印象的だった。やはり開幕戦の一件があり、最後の最後まで気を緩めてはいけないという雰囲気が漂っていた。
その“最後まで油断しない”という姿勢は、決勝でも垣間見えた。レース序盤から一気に後続を引き離す走りをみせたパロウ。10周目の段階で2番手の坪井翔(JMS P.MU/CERUMO・INGING)に対して早くも5秒の大差をつけた。しかし、ここでチームはパロウに対し燃料を徹底的にセーブするように指示した。これは、ピットストップを行わずにチェッカーを受けるためには徹底的に燃費走行をする必要があり、そのための指示でもあったが、もうひとつの狙いがあった。それはパロウが勢いに乗って攻め過ぎないようにするためだった。
「あまり頑張りすぎて走りすぎちゃうと不味いですし、燃料が余ったら(攻めて)いっちゃうじゃないですか。それが嫌でした。だから我々はタイムレースになったこともパロウには伝えず、最終ラップの時に『これで終わりだよ』と言いました」と中嶋総監督。
色々な情報を与えることで、逆にパロウのペースを乱す要因になるかもしれないと考え、最後まで“攻め過ぎないように”と燃料セーブの指示を出し続けていた。かつてF1ではウエットコンディションで活躍を見せ「雨のナカジマ」と言われた中嶋総監督。まさに彼の経験が存分に活きたパロウへの戦略指示だったように感じた。
そして、トップチェッカーを受けたパロウのマシンがパルクフェルメに戻ってくると、中嶋総監督はようやく笑顔をみせた。「久しぶりにこの場に来られたことを嬉しく思います」と語ると、ここまで苦労をかけてきたスタッフを労っていたのが印象的だった。
「実は9年前に優勝した時のスタッフは今はほとんどいなくて、数名のみが残っている状況です。だから若いメカニックやエンジニアたちにとってはスーパーフォーミュラでは初めての優勝でした。彼らの喜ぶ顔を見ることができたことが、一番嬉しかったです。今年になってピット作業も含め今までにない緊張感を持ってやってきたと思いますが、それが報われたことが何よりですし……『この喜びをもう一度』という気持ちで、また仕事に励んでくれればなと思います」
改めてチームオーナーとしての懐の深さ、チームスタッフを思いやる気持ちを感じた瞬間だった。
この勝利でパロウはドライバーズランキング3位に浮上。チームランキングも3位に浮上した。中嶋総監督は「この感じをもう一度味わいたい」と2勝目に向けて意気込みを見せ、チームも活気付いている。それだけに、TCS NAKAJIMA RACINGは後半戦もライバルを脅かす存在になっていくことは間違いなさそうだ。
文:吉田知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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