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6月10日(日)、いよいよ長い長いル・マン24時間レースの序章が始まる。ル・マン市内、リパブリック広場で行われる2日間の公開車検。これを前奏曲として、次第にイベントは盛り上がりを増して行く。6月16日(土)午後3時から17日(日)午後3時までの24時間に、果たしてどんなドラマが待っているのか。それは、参加しているチームやドライバーですら予測できない。だからこそ、人々は毎年ル・マンに戻ってくるのだ。
さて、その24時間レースに先立ち、6月3日(日)には、本番の24時間レースで使われるのと同じコースを使用して、テストデーが行われた。当初の予定では午前9時から午後1時、午後2時から午後6時と、セッションは8時間が設定されていた。だが、1回目のセッション、残り約1時間というところで、アストン・マーチン95号車に乗るマルコ・ソレンセンと他の複数台が絡むアクシデントが発生。インディアナポリスコーナーのバリアが損傷し、修復のためにセッションはここで終了した。95号車は全損。ドライバーはメディカルセンターに運ばれたが、幸い大きなケガはなかった。この他にも、複数回の赤旗、午後からは3回立て続けのセーフティーカーピリオドと、実際にレーシングスピードで走れた時間は約6時間ほどだろうか。その中で、“ル・マンルーキー”のフェルナンド・アロンソが総合トップタイムとなる3分19秒066をマークしている。
だが、トヨタが圧倒的に有利かというと、そんな雰囲気でもない。総合順位でトヨタ8号車に続いたのは、レベリオン・レーシングの3号車。しかも、8号車とのタイム差は、わずか0.6秒だった。同じコンディションではないので単純比較はできないが、昨年のテストデーでポルシェがマークしたタイムは3分21秒から22秒台(トヨタは3分18~19秒台)。それを考えると、いかに今年のLMP1ノンハイブリッド勢が速いか分かる。WEC開幕戦・スパではトヨタが全ノンハイブリッド車両を2周遅れ(7号車に至っては、1周遅れからスタートして、ノンハイブリッドを2周遅れにした)にするという圧倒的な力の差を見せたが、ル・マンではかなり様相が違ってきている。
実際、コース上でLMP1ノンハイブリッドの車両と一緒に走る機会があった中嶋一貴や小林可夢偉は「コーナーもストレートも、ノンハイブリッドの方が速い。僕らにアドバンテージがあるのは、加速だけです」とコメント。加速に優位性があるトヨタではあるが、ストレートエンドではフューエルカットが入ってスピードが大きく落ちるため、そこもノンハイブリッド勢が有利になるのだと言う。あとは燃費の部分のアドバンテージ。LMP1ノンハイブリッドの1スティントは10周、トヨタは1周多い11周になると見られており、24時間何事もなく走った場合、トヨタの方がピットストップは4~5回ほど少ない計算になる。 しかし、ル・マンで“何事もなく”などということは絶対にない。思わぬアクシデントやセーフティーカーピリオド、天候の急変など、瞬時の判断を迫られる場面が多々現れる。それがル・マンだ。予想外のハプニングに、いかに正しく対応できるか。それが勝敗を分ける鍵となるだろう。LMP1ノンハイブリッド勢には、耐久レースを知り尽くしているオレカがオペレーションするレベリオン、耐久経験はそれほど豊富ではないもののプロのレース集団であるARTがオペレーションするSMPレーシングと、強敵が居並んでいる。下馬評では“トヨタ楽勝”というムードだったが、どうやら楽勝という状況ではない。
テストデー午後のセッションでは、トヨタ7号車に乗るホセ・マリア・ロペスがフロントのボディワークにダメージを負ってスローダウンしながらピットに戻るという場面も見られた。これはロペスが縁石を跨いだ結果起こったことだと思われるが、例えばそういう小さなミスの積み重ねが致命傷となる。悲願の初優勝を果たそうと思ったら、トヨタはドライバーたちがミスしないだけでなく、トラブルを起こさず、他車のミスやアクシデントに巻き込まれることもなく、判断ミスもなく、24時間を走り切らなければならない。つまりかなり“綱渡り”のレースを強いられることになる。“唯一のワークスだし勝って当然”と思われているトヨタには、今まで以上の重圧があるはずだ。その重圧に耐えられるかどうか、そこが今年のレースではひとつの焦点となるだろう。
(著者:貝島 由美子)
J SPORTS 編集部
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