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吉田広樹(No.52 Green Brave GR Supra GT) 写真左は吉田広樹。中央は丸山恵介監督、右はチームメイトの野中誠太。
第3戦マレーシア・セパンでのレースが延期扱いになったことで、今シーズンのSUPER GTは第2戦富士からおよそ3ヶ月という長いインターバルを経て、再び富士での第4戦を迎えた。GT300クラスでは、ピット戦略が功を奏したNo.52 Green Brave GR Supra GTがシーズン初優勝。チームとしては、3年ぶりの歓喜に湧いた。
チームドライバーのひとり、吉田広樹は2019年にチームへ加入。今では、コンビを組む野中誠太やチームスタッフらを牽引する立場だ。富士戦の前週には大分・オートポリスでのスーパー耐久に出場し、そのあと実家がある熊本へ戻っていたが、7月28日に発生した「令和8年熊本地震」に見舞われた。家族と車で移動中で、実家まであと1〜2分の距離だったという。「信号待ちをしていたんですが、緊急地震速報のアラームが鳴ってすぐ大きな揺れがきました。横断歩道にいた人が倒れそうになる様子も見えて……。強くて長い揺れでした」。幸い、実家は比較的被害も少なく、別行動だった父親の無事も確認できた。その一方、被害の大きい地域に住んでいる同級生もおり、連絡を取ったり、テレビやSNS等で情報を追うなかで、気持ちは滅入っていたという。もともと、翌日に帰京予定だったが、不測の事態にそのまま居残ることも考えた。だが、「レースに集中したらいい」と家族が背中を押してくれた。「気持ちを切り替え、戦いに挑むしかない」。吉田の心も決まった。
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迎える富士戦は、チームにとってある意味リベンジ戦でもあった。前戦の3時間レースでは、トップ争いのなかFCYの導入と予定していたピット作業のタイミングが重なる不運に遭い、ガス欠を避けるためピットインを余儀なくされた。その代償は大きく、60秒のペナルティストップが科され、勝機を失う。吉田としては、熊本への想いと相まって、是が非でも結果を出したいという思いが強まった。
52号車は、予選で6番手を獲得。クラス2番手は狙えるパフォーマンスがあったというが、「Q2ではアタックを始めていないクルマの集団に最終コーナーで追いついてしまったんです。その影響が大きかった」と悔しい結果に。一方、決勝に向けてはどのような見立てをしていたのか。「今回はBoP(性能調整)が変更され、他車との相対的な力関係が読みにくい状況でした」と吉田。だが、彼らには頼れる存在があった。それが足元を支えるブリヂストンタイヤだ。
「僕らには、ブリヂストンタイヤという武器がある。とはいえ、前戦と季節も違うので、今回はちょっと違うタイヤを選んでいたし、それがどうなるか多少不安はありました。それでも、公式練習の時点でロングランのペースがいいことは確認できていました」。たとえ条件が厳しくなっても、装着するタイヤのパフォーマンスに信頼を置くことができれば、戦略の幅が広がる。そのなかで、52号車はあえて4輪のタイヤ交換を予定していた。そう、今回採った戦略は、“予定外”だったのだ。
「4輪替えることを前提に、どこまで(ピットインを)引っ張るかを考えていました。僕らはアンダーカットを狙ってピットインすることもあるし、逆に前回は失敗しましたが、引っ張ることもある。とくに今回はそのタイミングが難しかったです」。レースでは、スタート進行中に短時間ながらまとまった雨が降ったことで、フォーメーションラップに代わってセーフティカー先導によるスタートが採用された。また、レース中も降雨の可能性があり、気まぐれな天気の行方を予想すること自体難しかった。結果として、52号車はライバルよりピットインのタイミングを引っ張り、41周終わりで野中から吉田へと交代した。
作業を前に、ブリヂストンタイヤの担当者は、無交換でも問題ないと回答。レース前に雨が路面を濡らしたこともあり、タイヤへの負荷が思いのほか少なかったようだ。そこでチームは無交換へと作戦変更を決めたが、コース上の野中は「フロントタイヤがキツい。前2本は替えたほうがいい」と提案。レースウィーク中にシミュレーションをしておらず不安もあったが、チーム、そして吉田は優勝の可能性に懸け、“ぶっつけ本番”の2本交換を敢行した。
前後でコンディションが異なるタイヤをコントロールしつつ、追い上げてくる後続車の動きを牽制するという大きなミッションに挑んだ吉田。クラスポールのNo.45 PONOS FERRARI 296 EVOと激闘が数周続くなか、45号車の動きをミラーで見つつ「絶対に(トップの座を)譲らない」という気持ちで走ったという。フロントタイヤが温まると、ペースも復活。逆に45号車は後続車方から怒涛の追い上げに遭い、2位争いバトルに飲み込まれていった。
終盤は2位以下に6〜7秒と大きなマージンを築き、あとは確実にチェッカーを目指すことになった吉田だが、その脳裏には、2021年の第8戦富士での苦い思い出が浮かんだという。「今回と同じような状況でした。あのときは周回遅れの車両に接触し、タイヤがバーストして優勝を逃したんです(苦笑)。なので、周回遅れを抜くときには距離感を意識したり、四輪脱輪でペナルティを受けないようにとか、気が抜けなかったですね」。チームスタッフからの無線で逐一状況を把握してはいたが、プレッシャーから解放されたのは、残り3周を迎えた頃だった。
こうして52号車は3年ぶりトップチェッカーを受け、コンビを組む野中はGT300クラスでの初勝利を果たした。また、6度目の優勝となる吉田自身も、被災した地元の熊本に捧げる勝利に涙した。
文:島村元子
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島村 元子
日本モータースポーツ記者会所属、大阪府出身。モータースポーツとの出会いはオートバイレース。大学在籍中に自動車関係の広告代理店でアルバイトを始め、サンデーレースを取材したのが原点となり次第に活動の場を広げる。現在はSUPER GT、スーパーフォーミュラを中心に、ル・マン24時間レースでも現地取材を行う。
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