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MLBポストシーズンたけなわだが、ここで取り上げるのはその初っ端のワイルドカードゲームでヤンキースに敗れ去ったアスレチックスだ。
昨季まで3年連続ア・リーグ西地区最下位のA’sは、今季開幕時の年俸総額が30球団中最低で、開幕後も6月15日時点では借金2で地区4位に低迷していた。しかし、そこから快進撃が始まり、最終的には前年から22勝増しの97勝。見事にワイルドカード2位の座を確保した。今季最大のシンデレラチームといえよう。また、その過程でも、先発投手の故障者続出という事態を、ビリー・ビーン副社長やデビッド・フォーストGMは他球団でお払い箱のロートル達を駆使し乗り切った。自慢のデータ分析で投球パターンを変更させるなどの対処で、彼らをそれなりに再生したのだ。人々はこれらを「四球重視」などの新理論で野球観に革命を起こした21世紀初頭の躍進に擬え「マネーボール2」と呼んだ。
しかし、ワイルドカードゲームでは一敗地にまみれた。これでプレーオフは、2000年以降の9度の出場で8度勝ち進みなし、だ。かつては、「マネーボールはポストシーズンでは通用しない」という説がまことしやかに流れた。マネーボールは効率戦術なので、ペナントレースのような長丁場ならともかく、ランダム性が高い一発勝負では成果を発揮し難い、というのだ。しかし、その短期決戦もサンプル数が9回ともなれば、そろそろ結果が出ても良い頃ではないか。
しかし、今回のワイルドカードゲーム単体で考えれば、敗退も致し方なし、とも思える。
何せ、先発投手がリアム・ヘンドリクスだ。彼は6月には一旦戦力外となり、メジャー登録の40人枠から外れている。その後マイナー契約から出直し、何とかメジャー復帰を果たしたが、主力級ではない。アスレチックスは今季レイズなどが採用し注目を集めた「オープナー」(救援投手を先発させ、1イニングのみ投げさせること)として、彼を9月に8度先発で起用した(8先発で計8.2イニングスだ)。それを大事なワイルドカードゲームで踏襲したのだが、いきなりアーロン・ジャッジに特大の一発を浴びてしまった。
救援投手を「オープナー」起用するなら、勝利の方程式(陳腐な表現だが)の1人であるジューリス・ファミリア(メッツ所属の16年にセーブ王)あたりを起用する手もあったと思う。しかし、正捕手のジョナサン・リクロイが地元紙「サンフランシスコ・クロニクル」に語ったところによると、「投手というのは、本来の役割以外の起用を強いられるのはハッピーではないんだよ」ということになる。確かにそうだ。現時点ではまだ「オープナー」は「貧乏人の知恵」であり、「奇策」の域を出ない、ということなのだろう。思わぬ劣勢のもと6回から起用した、クローザーのブレイク・トライネン(レギュラーシーズンではサイ・ヤング賞ものの大活躍だった)が2回3失点と、今季唯一とも言って良い背信投球に終わり、敗戦を決定的にしてしまったことがそのことを象徴していた。
今季のA’sはメジャー3位の227本塁打を叩きだした長打力と、これまた同3位の防御率3.35を記録した強力ブルペンが原動力だった。しかし、まともな先発投手が8月に加入のマイク・ファイアーズ以外はほぼ皆無の状態では、仮にワイルドカードゲームをクリアしたとしても、その先の強豪たちとのし烈な戦いを勝ち抜いて行けただろうか。やはり、このあたりが奇策の限界だったのかもしれない。
来季の展望は判断の分かれるところだ。打線はクリス・デービス(30歳)、マット・チャップマン(25歳)、マット・オルソン(24歳)ら若い選手が中心で、彼らにはまだ伸びしろがありそうだ。しかし、3年連続40本塁打&100打点を記録し、自身初の本塁打王(48本)に輝いたデービスはすでに年俸調停権を取得しており、引き止めには今季1050万ドルの年俸に更なる上乗せが必要だ。また、ビーン副社長お気に入りの3番打者ジェド・ラウリーとリクロイはこのオフFAだ。
先発投手陣も根本的に再編成しなければならない。トレバー・ケイヒルやブレット・アンダーソン、エドウィン・ジャクソンら他球団で見切りをつけられたロートルの「意外な健闘」が来季も再現されるとはチト思えない。今季ノーヒッターを達成しながら、左肩の故障で離脱し手術を受けたショーン・マネイアの復帰は来年後半のことだ。
しかし、残念ながら貧乏球団のアスレチックスには王道を行く補強など望むべくもない。今季、これほど旋風を巻き起こしながら、観客動員は1試合平均1万9427人で30球団中27位。前年の1万8446人からほとんど上乗せがない。強くなっても、客は入らなかったのだ。
そして、もっとも深刻なのは約1年前に頓挫した新球場建設問題(近隣のレイニー・カレッジ所有の敷地が一度は建設予定地として発表されたが、その後カレッジ側から一方的に交渉打ち切りを宣告された)に全く進展がないことだ。新しいマーケットや球場がない限り、勝っても増収は見込めない。今後も「隙間狙い」の苦しいやり繰りは続くのだ。ワイルドカードゲームでの敗戦は、そんな同球団の閉塞感を示していたように感じられた。
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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