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大谷翔平の所属するエンジェルスのマイク・ソーシア監督が今季限りで勇退するようだ。彼は同球団の監督を2000年から務めており、球団史上最長の政権だ。寂しさは禁じえないが、ベースボールの、そしてマネージャーの在り方が変わりつつある現在、致し方ないとも思う。
実は、正式にはソーシアは辞意を表明していない。先日、『アスレチック』のケン・ローゼンタル記者が「今季限り」と報道したところ、ソーシアは即座に否定している。もっとも、「辞任決定」を否定しただけで、「来季もやる」と表明した訳ではない。エンジェルスは苦戦を強いられているが、シーズンはまだ2ケ月近くも残っている。最後まで務め上げるためにも雑音はシャットアウトしておきたい、ということだろう。
ぼくはソーシアには2度話を伺ったことがある。最初は2005年のアナハイムでのことで、その年エンジェルスでサイ・ヤング賞を獲得するバートロ・コロン(現レンジャーズのあの“ビッグ・セクシー"だ)が素晴らしい投球を見せた後の共同会見でのことだった。2度目は2014年で、クリーブランドでのインディアンス戦の試合後だった。いずれも、こちらの質問に丁寧に答えてくれた。また、(メジャーの監督は概ねそうなのだけれど)、常にメディアに対しては選手を褒める、守る、というスタンスでコメントする人だった。
2005年のホワイトソックスとのア・リーグ・チャンピオンシップ・シリーズ(ALCS)では彼の人柄を象徴する出来事があった。敵地USセラー・フィールド(現ギャランティード・レート・フィールド)での第2戦でのことだ。1対1のタイで9回裏2死走者なしの場面で、ホワイトソックスのAJ・ピアジンスキーは2ストライクからエンジェルスのケルビン・エスコバーの低めのタマを空振りし三振。試合は延長に・・・だれもがそう思ったが、ピアジンスキーは猛然と一塁へ走った。
ホームプレートアンパイアのダグ・エディングスは、捕手のジョシュ・ポールが捕球する前に、投球はワンバウンドしていると判断したのだ。これは大変微妙な判定だった。命拾いしたホワイトソックスは、鈍足のピアジンスキーに代走を起用。それが当たり、ホワイトソックスはこの回サヨナラ勝ち。対戦成績をタイとすると、その勢いを駆ってそのままシリーズを制覇。最後はワールドシリーズをも制した。
ぼくが感銘を受けたのは、問題のALCS第2戦試合後の会見でのソーシア監督の態度だった。いわば「疑惑の判定」で大事な試合を落としたにも関わらず、会見ではその判定について一切触れなかった。「ベースボールでは、審判が下した判定こそ正」という姿勢を貫いたのだ。怒りをブチまけても仕方ないようなシチュエーションだったのに・・・こういう時に人間の本質が出る。「ああ、出来た人物なんだな」と感じた次第だ。
しかし、その後判定にビデオリプレーが用いられるようになったように、プレーの在り方も時とともに移り変わる。当時は、ソーシアやトニー・ラルーサ(カージナルス)らのバントやスティール、その他の駆け引きを多用する監督が「知将」ともてはやされた。しかし、今は「フライボール革命」の真っただ中で、打球の初速や投球のスピンが細かく分析され、野手は打者によってとんでもない場所を守ることが常識の時代だ。統計分析に拒否反応を示し「勝負のアヤ」に拘るソーシアのような「元知将」は、残念ながら時代遅れの典型になってしまった。
ソージアはもうじき60歳になるし今季限りで10年契約が満了するが、「キリが良いから」ということではなく潮時だと思う。彼のようなタイプの監督が求められる時代ではなくなりつつあるのだ。人はだれでも最後は時代遅れになる。だから、ソーシアを非難したくはない。人心掌握に長け、揺さぶりや駆け引きという定量的には説明不能な戦い方に拘る監督の時代は、終焉を迎えつつあるというだけのことなのだから。
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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