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そのうえで「日本の特性に合ったラグビーを創造していく」必要を説く。ここでの「日本」とは「自分のチーム」と同じ意味である。漠然とした創造を避けることで独自性を創造する。深い。
身の丈に合ったラグビーの成果はジャパンのみならず、所属の三菱自工京都でも顕著だった。1971年度、早稲田大学出身の横井ら5人を除いて、あとは高校卒業の無名選手の陣容で、各大学の有名実力者をこちらは14人並べたリコーを22ー11で破って社会人日本一となった。もっと称えられてよい快挙である。
かの大西鐵之祐監督のジャパンにあってキャプテンとして「バックスの練習法を考案していた」(2001年のインタビュー)。借り物ではない具体的な練習を自分の頭で考え、組み立てられるコーチは少ない。選手はもっと少ない。それをできる人の著書はもっともっと少ない。
競技ルール、トレーニングの知見、環境は変わる。しかし「身の丈に合ったラグビー」はどんな時代にも求められる。トレンドを超越する一冊である。
いよいよ大学ラグビーの開幕。自由な研究を許される学生と指導者に求められるのは、戦法、理論、技術の開発である。「いま正しい」方法を知識としてはつかみ、なお模倣を避ける。研究室やミーティング部屋で吟味、練習試合で実験を繰り返し、身の丈に合わぬならバッサリと棄てる。世のどこにもない攻撃陣形を3部リーグの知られざる「頭脳」が設計したら痛快ではないか。
独自の方法を掲げ、究める。すると刻々と変化する攻防にあっても判断の軸が定まり「表か裏か」に集約できる。
スタイルとは熟考と決断の産物である。自分のチームにふさわしい戦法は、そこにいる構成員ひとりひとりの資質や個性を観察、それを洞察へ高める意思によって築かれる。
先日、日本代表と近鉄の偉大なロック、ここも敬意をこめつつ敬称略で、小笠原博が亡くなった。横井章の盟友であった。日本ラグビー史のオールタイムベストの文句なしのひとりである人物は21年前、みずからの以下の逸話を教えてくれた。
師と慕う大西鐵之祐監督の去った後のジャパン、ある指導者が「オールブラックスはいまこういうディフェンスをしている」と解説した。
小笠原博が手を挙げた。
「それを日本人の我々がやるんですか」
横井章がその場にいたら黙ってうなずいたはずだ。
文:藤島 大
藤島 大
1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。 ラグビーマガジン、週刊現代などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。
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