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8月8日、「ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズ メモリアルセレモニー」が開催される。2016年のスーパーラグビーに参戦して5シーズン。応援し続けてくれたファンへの感謝を伝えるセレモニーだ。今年限りでスーパーラグビーから離れることが確定しており、このセレモニーをもって、サンウルブズは解散となる。
選手、観客が一体となって盛り上がり、歌い、踊る。日本ラグビー界に新風を吹き込んだサンウルブズの挑戦は、最初から最後まで理想と現実の狭間で揺れ続けた。日本代表強化のため、日本選手の国際舞台での経験値を高めるため、世界最高峰のプロリーグ「スーパーラグビー」が拡大する好機に立候補して参戦が決まった。ほぼ日本代表メンバーのプロチームを編成し、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカの強豪クラブと戦い、2019年のラグビーワールドカップ(RWC)で飛躍する。それが当初描かれた理想だった。しかし、現実は違った。トップリーグ、日本代表の練習、試合での負担、契約条件などで参加を拒む選手が多く、選手派遣に難色を示すチームもあった。
それでも世界最高峰リーグへの参戦は多くの選手、ファンの夢だ。日本ラグビー初のプロチームのスーパーラグビー参戦を実現させるため、堀江翔太、立川理道、真壁伸弥ら日本代表のベテラン選手たちが立ち上がり、プロ契約第1号となったエドワード・カーク(オーストラリア)はじめ海外からスーパーラグビー経験者が集まってサンウルブズは始動した。日本ラグビーの聖地・秩父宮ラグビー場で世界最高峰のプロラグビーを見ることができる。ファンの盛り上がりは予想以上だった。
サンウルブズの初戦は2016年2月27日、秩父宮ラグビー場に19,814人の大観衆を集めた行われた。相手は南アフリカ代表選手を多数含むライオンズ。プロの興行らしく、演出もこれまでの日本ラグビーでは考えられない華やかさ。観客は狼の遠吠えのように「Awoooon!」の声援で選手を後押し。こうした応援スタイルは、2015年RWCの日本代表の活躍でラグビーに関心を持った新規ファンを惹きつけ、ラグビーの新しい楽しみ方を根付かせた。
日本代表強化を目的としながらのプロチーム強化は簡単ではなく戦績は振るわなかった。2016年から4年間の戦績は、8勝1分け53敗。しかし、多くの選手が強豪国の代表選手と戦うことで、個々のレベルアップを実現し、それが2019年RWC日本大会のベスト8進出の一因になった。2019年3月、5年の契約が満了する2020年シーズンでスーパーラグビーから離脱することが決まる。
最後の2020シーズンはトップリーグの日程と重なったこともあって、チーム編成はさらに難しくなった。だが、スーパーラグビーでは日本人初の指揮官となった大久保直弥ヘッドコーチ、沢木敬介コーチングコーディネーターら日本ラグビーの精鋭がスタッフ入り。スローガン「KEEP HUNTING(キープハンティング)」を掲げ、最後まで戦い続ける意思を表明した。2020年2月1日、初の福岡県開催となった開幕戦ではレベルズの戦い方を緻密に分析して勝利。開幕戦に勝つのも、レベルズに勝つのも史上初という歴史を作る。「この試合に向け、テストマッチ(国代表同士の試合)のつもりで準備してきました。選手がやるべきことをやり切ってくれました。我々は(単なる)寄せ集めのチームではないと分かってもらえたら嬉しいです」(大久保ヘッドコーチ)
しかし、その後は、ニュージーランド、オーストラリアのチームに大敗が続いた。その中でシオサイア・フィフィタ(天理大学)、齊藤直人、中野将伍(早稲田大学)など若い選手や、トップリーグに出場せず、サンウルブズを選んだ谷田部洸太郎、布巻峻介、森谷圭介(パナソニック ワイルドナイツ)らが貴重な経験を積んでいく。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大が水を差した。3月8日、初の大阪開催になるはずだった東大阪市花園ラグビー場でのブランビーズ戦はオーストラリアでの戦いとなり、3月14日、秩父宮ラグビー場で開催予定だったクルセイダーズ戦も中立地のブリスベンで行われることになる。14-49で敗れたこの試合がサンウルブズのラストマッチとなった。その後、シーズンの打ち切りが決まる。覚悟を決めて最後のシーズンに集ったスタッフ、選手には、切ない終わり方だった。
大久保直弥ヘッドコーチは、短期間で強く結束したチームを称えた。退路を断ち、夢を追いかけた選手、スタッフたちの奮闘は、それまでの4年よりも短期間だが濃密だった。その日々を今一度振り返り、2016年に始まった日本初のプロチームの挑戦を記憶に刻み込んでおきたい。
J SPORTSは、8月8日のセレモニーを中継し、ドキュメンタリー番組【ラグビー ヒトコム サンウルブズ 最後の挑戦 後編】を8月9日午後11:30より放送する。
文:村上晃一
村上 晃一
ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。
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