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僅差で優勝を逃した岩佐歩夢(TEAM MUGEN)
今年も3月に開幕を迎えた全日本スーパーフォーミュラ選手権。昨年以上に注目が集まっている2025年シーズン初戦は「0.197秒差」という超僅差での決着となった。
新フォーマットにより、通常より4周短い27周で争われた開幕戦は、レース中に3度もセーフティカーが導入される波乱の展開に。このレースでは10周目以降にタイヤ交換義務の消化が可能となるが、その直前にセーフティカーが出たということで、全車ピットインという異例の展開に。これによりポールポジションから2番手を走行していた野尻智紀(TEAM MUGEN)や4番手を走行していた牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)はダブルピットストップで後に作業する側となり、大幅にタイムロス。優勝争いから脱落した。
これでトップ争いは岩佐歩夢(TEAM MUGEN)と太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)の一騎打ちに。お互いにオーバーテイクシステムをどこで使うかがキーポイントとなった“一進一退”の攻防戦となった。
今回のレースでひとつめのターニングポイントとなったのが、13周目のレース再開時。タイヤのウォームアップに苦しんでいた岩佐は、セーフティカーがピットに戻った後の加速を最終コーナーまで粘った。
「タイヤのウォームアップが自分自身ポジティブな印象がなかったので、コールドタイヤでシケインを攻めて走っていくことに対してポジティブ(なイメージ)ではなかったので、あそこまでスタート位置を遅らせました。ただ、あのスタートも完璧だったかと言われると、まだ改善点はあるのかなと思います」(岩佐)
再開後に太田が仕掛けてくることを意識したのか、岩佐はディフェンス目的でOTSを発動。しかし、後ろの太田は使っていなかった。SFgoで公開されているチーム無線を聴くと、小池エンジニアから太田がOTSを使っていなかった旨の無線が飛び、岩佐は2コーナー立ち上がりでOTSを切るが、そこから100秒間のクールダウンタイムに入る=次のメインストレートでOTSが使えない計算となる。
その情報は後ろの太田にも伝わり、スプーン手前で「前の岩佐はインターバル50秒、後ろのサトレン(佐藤蓮/PONOS NAKAJIMA RACING)はインターバル56秒」という無線が入る。
すると太田はスプーン立ち上がりからOTSを発動させて、岩佐との距離を縮めていき、翌周の1コーナーでオーバーテイクを決めた。
「冬場ということなのか、ストレートではドラッグ(空気抵抗)が大きいので、(前のクルマの)後ろにつくと1秒くらい差があっても次のコーナーで抜きにいけるくらいスリップストリームが効きます。チャンスは多くないなと思いつつも、オーバーテイクするチャンスはあるのかなと思っていました。序盤から見ていても岩佐選手のペースはありそうだったので、正直チャンスとしてはSCが明けてタイヤが温まり切る前のところだろうと思っていました」(太田)
太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)
太田がトップに立った直後に後続でアクシデントが発生して再度セーフティカー導入された。19周目の再開から、2人の攻防戦が始まった。
この時点でのOTS残量は太田が119秒に対して、岩佐が186秒。お互いに逃げるため、近づくために何度か使用するが決め手を欠く展開が続いた。
そうしてレースは残り2周。この時点で太田は78秒、岩佐は125秒を残している状態。ここで小池エンジニアからターン14(スプーン2つ目)を過ぎたところでOTSを使って、最後まで使い切るようにという指示が出る。計算上は最後までOTS発動状態のまま走れることため、余すことなく使い切って太田を攻略する作戦だ。
もちろん、この情報は吉田則光エンジニアから太田にも伝えられ、ファイナルラップに入ったところでOTSを発動。しかし、78秒しか残っていないため丸々1周は使えない。
千載一遇のチャンスに、岩佐のF1ステップアップを見据えていつもは英語で無線のやりとりをしている小池エンジニアも、「Ohta is using. Ohta is using. 太田は途中で(OTSが)切れるからね。チャンスだよ。使い切って!」と、急に日本語で話し始め、その後の無線も日本語で岩佐を鼓舞した。
逆バンク:小池Eg無線「太田はバックストレートの途中までしか使えない。使い切って、使い切って。途中からチャンスあるよ」
立体交差下:小池Eg無線「太田はあと30秒しかない、30秒しかない。アユ(岩佐)はあと60秒ある。チャンスだよ」
200R:小池Eg無線「太田あと15秒、あと15秒」
スプーンカーブ:小池Eg無線「太田(のOTS)切れるよ、太田切れた!太田切れた! いけるよ!」
残るオーバーテイクポイントはAstemoシケイン。岩佐も可能な限りブレーキを遅らせたように見えたが……太田に並びかけることはできず。それでも、フィニッシュラインまで諦めることなく追いかけ続けたが、0.197秒差の2位。その瞬間、無線からは岩佐が悔しさを爆発させるような叫び声が聞こえた。
そしてパルクフェルメでのインタビューでは、込み上げてくる悔しさを必死に堪えながら、こうコメントした。
「悔しいですね。まずは、これだけ良い環境を整えてくれたチームとエンジニアに感謝なんですけど、それをしっかり結果にできなかったのは悔しいですし、正直自分としては情けないなという部分があるので……」
「もちろん、終わってしまったものは仕方ないですけど、色々反省点は多いですけど、応援してくださっている皆さんに本当に申し訳ない気持ちは、今日だけではなく昨年から続いていることなので。とにかく、結果で早く恩返しができるように、(気持ちを)切り替えて明日がんばります」(岩佐)
岩佐歩夢(TEAM MUGEN)
翌日の第2戦。予選ではまたしてもチームメイトの野尻に敗れて2番手スタートとなるが、ここでもホールショットを決めてトップに浮上した。このレースではピットウインドウの制限がなくなり1周目からタイヤ交換が可能。野尻と太田が1周目にピットインしたのを見て、岩佐も2周目にピットインした。
「後ろの野尻選手が1周目に入ったことで、アンダーカットに対してのカバーだったので。あそこで引っ張ることが良かったかもしれないですけど、あの状況からすると、あの判断は間違いではなかったのかなと思います」
これでタイヤ交換を済ませたメンバーのなかではトップを走っていたが、途中に太田の先行を許すことになったほか、レース後半までコース上に留まり続けた牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)や坪井翔(Kids com Team KCMG)に逆転され、最終結果は3位。またしても初優勝はお預けとなった。
「それ(早めにピットインしたこと)よりも問題だったのは純粋にペースがなかったので、仮に引っ張っていたとしても今日優勝した牧野選手と同じようなパフォーマンスで走れたかと思うと、ちょっと怪しいところはありました」
「昨日は色々なミスがあって取りこぼしましたけど、今日は純粋にペースが苦しいレースになってしまいました。その中でもしっかりと表彰台ということで、今日持っていたパフォーマンスの中では最低限の結果をとることができたのかなと捉えています。パフォーマンスとしてはまだまだ足りない部分が細かいところであります。次戦以降に向けて分析して、さらに速く強くならないといけないなと感じた週末でした」(岩佐)
ただ、この大会では唯一2戦連続で表彰台を獲得したことでドライバーズランキングは首位に立ったが、岩佐自身としては“それよりも優勝がほしい”といった様子。
改めて振り返ると鈴鹿の開幕大会では第1戦の太田、第2戦の牧野とダンディライアンの強さが際立ち、今年も彼らが一歩リードしているなという印象を受けたが、そこに果敢に立ち向かっていきながら、一歩及ばず悔しさをみせた岩佐の表情が……個人的には一番印象に残った。
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文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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