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モーター スポーツ コラム 2025年2月10日

~スーパーフォーミュラとFIA F2似て非なるもの~ 宮田莉朋の“今”を取材しにカタールへ。そこで感じたスーパーフォーミュラとFIA F2の違い(後篇)

モータースポーツコラム by 吉田 知弘
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FIA F2に参戦している宮田莉朋

前回、宮田莉朋を追いかけてFIA F2のカタールラウンドを取材した時の話をご紹介したが、海外の現場に行くと新たな発見の連続だった。

以前から何かと比べられがちなスーパーフォーミュラとFIA F2。特に昨年はスーパーフォーミュラ王者の宮田がFIA F2に挑戦を開始したということもあり、その流れが加速した感がある。

FIA F2はF1直下のカテゴリーとして2025年は4人のドライバーがステップアップするが、ストフェル・バンドーン、ピエール・ガスリー、リアム・ローソンなどスーパーフォーミュラを経験してF1参戦のチャンスを掴んだドライバーもいる。そのため、立ち位置としては非常に似ているものの、実際には“比べる意味はないな”と、今回の取材を通して感じた。

■FIA F2は“F1の前座レース”だけど、“F1に最も近いカテゴリー”

FIA F2のカート

FIA F2はF1のグランプリ期間中に開催されるもので、立ち位置としては前座レースのひとつ。メインのピットビルディングはF1のために使用され、FIA F2のガレージは他の場所に設けられる。

ヤスマリーナやシルバーストンなど一部のサーキットはサポートレース用のパドック&ピットガレージがあるが、レースによっては日本のSFライツやFIA F4などで見られるテントタイプ。関係者の話によると、バクーがスペース的にも一番手狭だという。

カタールの場合は、最終コーナーの外側に併催レースのF1アカデミーとポルシェカレラカップミドルイーストのパドックも設置されていて、ここからコースインしてF1ピット側へ移動。各チームに移動用のカートが用意され、そこにスペアパーツや使用するタイヤ、機材を満載してF1ピットへ移動。セッションが終わると、機材をカートに乗せてFIA F2側のピットに戻っていく。

また、FIA F2関係者は基本的にサポートレース用のクレデンシャルパスとなるため、普段はF1のパドックに入ることができない。同じサーキットで開催されるF1とFIA F2だが、しっかりと区分けされている。

実際にF1のメディアセンター内をみていても、ほとんどジャーナリストがF1に関する記事の執筆をしているか、取材のためにF1パドックへ出かけており、FIA F2を熱心に追いかけている人は少ない。こういうところからも“FIA F2はF1の前座”だということを強く感じた。

それでも、世界最高峰のフォーミュラカーレースが目の前で開催されているというのは、ドライバーたちにとっては「自分もいつかあそこに行くんだ!」とモチベーションとなっている。実際に宮田も「F1と同じ週末に同じサーキットで開催されることで勉強できるところもあります」と実体験を語っていた。

対してスーパーフォーミュラは、その週末のメインイベントとして設定されており、サーキットにより大きさは異なるがピットガレージも1台あたり1つ設けられており、セッション中にセッティング変更をする際も様々な機材を使うことができる。

昨年、宮田の担当エンジニアだったロディン・モータースポーツのマット・オーグルも「僕の経験上、スーパーフォーミュラの方が(セッティング変更をする上で)たくさんのツールを使うことができる。そこが大きな違いだと思う」と語っていた。

さらに1台あたりに関わるメカニックの数も違う。今のスーパーフォーミュラはチームによって異なるものの、多いところは2名以上のエンジニアが1台を担当し、メカニックも6~7名いる。対して、FIA F2は1台あたりエンジニアとメカニックで4名程度。比べて良いのか分からないが、FIA F2におけるチームスタッフの規模感は日本のスーパーフォーミュラ・ライツと同じような印象を受けた。

■実は、こんなところも違う

FIA F2のピット

各セッションが終わると、エンジニアとともにデータを見ながら次に向けた対策を練るというのはFIA F2でも行われていることだが、ここでもスーパーフォーミュラと違うところがあると、ロディン・モータースポーツ(2024年に宮田が在籍したチーム)のチームマネージャーであるベン・ハンティングフォードは「もちろん(同じチーム内で)データはシェアするけど、オンボードカメラはテレビ放送専用だから、我々はそのデータを持っていない。その中で合わせ込んでいかないといけないのが、また難しいところなんだ」と語る。

ご存知の方も多いと思うが、スーパーフォーミュラには今『SFgo』というアプリがあり、シーズン中の全セッションに加えてテストでの車載カメラ映像が公開され、今は各チームがそれを活用してレースを戦っている。

最近ではドライバーもライバルの走りをチェックするために活用しているケースが増えており、もともとレースを観戦するファンに向けてリリースされたアプリが、今はレースを制するために欠かせないモノとなった。

ライバルの走りだけでなく、自身の走りを映像で振り返ることができるか否かというのも、スーパーフォーミュラとFIA F2の違いでもあるのだ。

■スーパーフォーミュラにあって、FIA F2にないもの

コーナリングスピードはF1に次ぐ速さを誇っているスーパーフォーミュラ

ここまでの内容を読むと「レベルはスーパーフォーミュラの方が低い」と思い込んでしまう人もいるかもしれないが…筆者自身は全くそう思っていない。これまで日本にやってきたFIA F2経験者の話も含めて、“スーパーフォーミュラ(日本のトップフォーミュラ)にあって、FIA F2にないもの”があるなと、改めて再確認できた。それが“F1に次ぐ速さ”だ。

スーパーフォーミュラの車両は2014年からイタリアのダラーラ社が製作するシャシーで争われており、その当時から「クイック&ライト」というコンセプトでマシン製作されてきた。車体重量はFIA F2と比べても軽いだけでなく、走行中に発生するダウンフォースの量も非常に高い。それもあって、コーナリングスピードはF1に次ぐ速さを誇っている。

それが魅力のひとつであるようで、特にヨーロッパで経験を積んできた外国人ドライバーがスーパーフォーミュラのマシンに乗ると、「すごくダウンフォースがあるクルマだ」だと真っ先に言うことが多い。

これに関しては、熱心に毎回レースを観ているファンからすれば当然のことのように感じるだろうが、コーナリングスピードが高いマシンに乗れることがいかに重要であり難しいことなのか。いくつかエピソードを紹介したいと思う。

まずは、サッシャ・フェネストラズ。2024年まではFIA管轄の世界選手権レースのひとつであるフォーミュラEに参戦していたが、2025年からスーパーフォーミュラ復帰が決まった。早速、昨年末の合同テストに参加したが、自身も経験のある鈴鹿サーキットとスーパーフォーミュラのマシンに乗ったものの…「これだけのハイダウンフォースなクルマとグリップの高いタイヤに慣れるのに時間がかかったし、ハイスピードコーナーに飛び込んでいく自信をもう一度築き上げていく必要があった。2日目になってある程度感覚を取り戻すことができたと思うけど、最初は思っていたより難しかった」と、大苦戦している様子だった。

その話を聞いて思い出したのが、2003年から2017年まで国内トップフォーミュラで戦い続けたアンドレ・ロッテラー。2012年からはFIA世界耐久選手権(WEC)にアウディチームから参戦しながらも、スーパーフォーミュラでのレースを継続し続けた。「ここでレースをするのが大好きなんだ」と本人も当時語っていたが、スーパーフォーミュラのようなコーナリングスピードの高い車両で0.001秒単位のシビアな戦いをすることが、おそらくWECでのパフォーマンス発揮にも役立っていた部分もあるようだ。

そして。2023年にチャンピオン争いを繰り広げたリアム・ローソンもFIA F2にないスーパーフォーミュラの魅力を感じている1人だ。

「ヨーロッパにあるほとんどのカテゴリーはF1と大きなギャップがあると思う。だからFIA F2からF1 に上がるというのもビッグステップになるんだ。車両のエアロダイナミクスもそうだし、技術面ではとても高度だし、他のカテゴリーにはないシステムもある。何より非常に多くの人々とともに仕事をしながらレースに臨むという点が大きく違う。(FIA F2とF1では)たくさんのエンジニアとやり取りして、クルマをセットアップしていく」

「僕がスーパーフォーミュラに来て感じたのはチームと共にセットアップの作業をしていく過程はF1に近いところが。1台にたくさんの人が関わっていて、皆プロフェッショナルな仕事をする。そういう環境がF1に近いなと感じた」

このようにスーパーフォーミュラにしかない魅力があるというのは確かなのだ。

■結論:FIA F2とスーパーフォーミュラは“似て非なるもの”

スーパーフォーミュラ

2023年のスーパーフォーミュラ最終戦前にローソンに取材した際、「FIA F2とスーパーフォーミュラを比べて、どちらがハイレベルなのか?」と質問に対して「絶対に比べられない。全く別のモノなんだ」と即答された。その時は筆者も分かっているようで分かっていないところがあったが、改めてFIA F2の現場を見たことで、ようやく彼が言っていた意味が理解できた。

そしてカタール現地での取材で色々なことを話してくれたマット・オーグルも日本とヨーロッパ・中東の違いが分かるコメントをしていた。

「日本の若いドライバーたちにとって、どのようなキャリアを歩みたいかを決めるのは彼ら自身。もちろん日本にはSUPER GTやスーパーフォーミュラという素晴らしいカテゴリーがあり、そこで大成功すればとても幸せで素晴らしいキャリアを積むことができるが…僕自身はこう思う。もし本気でF1を目指すのであれば、ピレリタイヤで走り始めるのは早ければ早いほど、そしてヨーロッパや中東などのサーキットのことを学び始めるのも早ければ早いほど良い」

スーパーフォーミュラでやっていることのレベルは非常に高く、いきなりやってきてチャンピオンを獲るということはかなり難しい。その分、スーパーフォーミュラで活躍することで、海外のレース参戦など“次の可能性”がどんどん出てきてもおかしくないカテゴリーであることは確か。しかし、現在のF1に限った話をするのであれば、日本国内での経験だけで果たして通用するのかというと…正直そう簡単な話ではないのだなと、今回の取材で感じた。

F1に近い速さを誇るマシン、複数のエンジニアやメカニックとともにマシンを作り上げて勝利を目指していくという点は活きる部分があるかもしれないが、FIA F2などでヨーロッパ/中東のコースとピレリタイヤを学ぶということも欠かすことのできない重要な要素であることは間違いない。

直近10年を振り返るとスーパーフォーミュラを経験してF1でレギュラー参戦を果たしたのはバンドーン、ガスリー、ローソンの3人だが、いずれもヨーロッパで経験を積んだことに加えてスーパーフォーミュラでの経験をプラスしたという印象だ。

トヨタがハースと業務提携したことにより、昨年の途中あたりから「スーパーフォーミュラ(日本のカテゴリー)からF1へ!」という機運が急上昇している。それと同時にスーパーフォーミュラでチャンピオンを獲得した宮田のFIA F2での結果に対して様々な意見が出てきている。

ただ、ここまで記してきた通り、スーパーフォーミュラで結果が出たからと言ってFIA F2で通用するというのは別の話で、その逆も然りなのだ。

“スーパーフォーミュラは他のカテゴリーと似て非なるもの”

それが、魅力のひとつでもあるということも、筆者個人としては今回両カテゴリーを取材したことで理解することができた。改めて、こういう素晴らしい経験をするきっかけをくれた宮田には感謝を伝えたい。

2025年はARTグランプリに移籍して2シーズン目を戦う宮田。これまで彼が経験してきたカテゴリーでも1年目よりも2年目の飛躍に注目が集まることが何度もあった。

もちろん本人としても1年目の結果に満足していないことは確か。勝負のシーズンから目が離せない。

J SPORTS オンデマンド番組情報

文:吉田 知弘

吉田 知弘

吉田 知弘

幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ

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