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笑うマイヨ・ジョーヌの思考回路「勝ちにトライする動きができなかったら失望する」|ツール・ド・フランス 2022
ツール・ド・フランス by 宮本 あさか笑顔のマイヨ・ジョーヌ
「でもマイヨ・ジョーヌを獲る機会を、自ら拒否するなんてありえない」
昨大会は初日から最終日まで新人賞首位を貫いたポガチャルは、もしかしたら、初日から最終日までマイヨ・ジョーヌを着通すことだって可能だったのかもしれない。開幕個人タイムトライアルでは、区間3位に勢いよく飛び込んだ。第5ステージの石畳では、あらゆる不運を遠ざけるために守備的に走るのではなく、むしろメイン集団から果敢に飛び出して世界中を仰天させた。第8ステージではあわやステージ3連覇さえさらってしまうところだった。
「負けたけど楽しかった!子供の頃の僕は体が小さくて、スプリントはいつも最下位だった。それが今日は3位!もちろん悔しさもあるけど、トップスプリンターたち相手にこの成績なんだから、喜びも大きいよ」
第7ステージ終了後に、「君は誰とも勝利を分け合うつもりはないのか」と厳しく問われたこともある。1回目の休息日のオンライン会見では、第9ステージにチーム隊列を走らせたことについて、カニバル的とも指摘された。
「いつも勝ちたくない選手なんているのかな?でも、自分を『カニバル』だなんて思ってない」
カニバル(人食い)とはもちろん、エディ・メルクスのあだ名のこと。ただ「史上最強の自転車選手」に関しては、実は負けることをひどく恐れていて、だからこそ常に自ら仕掛け続けねばならなかったのだという分析もある。……「勝てなかったら失望する」のではなく、「勝ちにトライする動きができなかったら失望する」という言い回しをしばしば使う現ツール王者の思考回路は、きっと違うのだ。
ラ・シュペル・プランシュ・デ・ベル・フィーユの激坂の未舗装路では、どの選手の顔も、すさまじい努力と苦痛とで歪んでいた。ただ先頭を勢いよく突っ走るイエロージャージのポガチャルだけが、もうもうと立ち上る砂煙の中で、笑っているように見えた。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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