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ゴール地点が激坂なので当然のように有力選手は色めき立っていた。アルベルト・コンタドール、エヴァンズ、アンディ・シュレク、ジルベールなどが最後の瞬間に備えて神経戦を展開。コンタドールは初日に落車で遅れていて、そのロスを挽回するべく必死だった。
5選手は次第に差を詰められていくが、残り7.4kmでイサギレが他の1選手とともにアタック。隊列が崩壊したことで、後続集団が一気に襲いかかり、残り3.7kmで全選手を吸収した。
そして壁のように立ちはだかるミュール=ド=ブルターニュの激坂へ。残り1.3kmでコンタドールがアタック。ジルベールとエヴァンズらがこれに追従。逃げ切れなかったコンタドールはそれでもゴールスプリントに挑み、区間優勝を確信してガッツポーズした。
しかしその横につけていたエヴァンズがゴールラインまでペダルを踏みきっていて逆転。幾度となく苦汁をなめ続けてきた男のしたたかさが出た。これが勝利へのあくなき執念だと思った。
ツール・ド・フランスのヴィラージュでもバグパイプ演奏
エヴァンズは2007、2008年と総合2位になり、2008年にはマイヨジョーヌを5日間、2010年にも1日着用している。ところが区間勝利の表彰台に上るのはこの日が初めてだという。記録上は2007年のタイムトライアルで勝っているが、これは薬物違反による事後の繰り上がり優勝だ。
「コンタドールが勝利をねらっていたのはわかっていたが、ボクはゴールラインに前輪を届かせることに精一杯だった。誰が勝ったかは成績が出るまでわからなかった。終盤にメカに違和感を感じたとき、経験豊かなヒンカピーがマシンを交換しろとアドバイスしてくれた。そしてチームメートが集団に戻してくれた。この勝利はチーム全員のものだ」とエヴァンズ。
一方のコンタドールはゴールライン上で勝利を確信し、右手でガッツポーズをしたが、写真判定ではエヴァンズに届かなかった。
「勝てなかったのはチームに申し訳ないが、やる気がでてきたのが幸いだ。総合優勝をねらうにはいい位置じゃないことは確かだ。でもここは我慢。チャンスは必ずやってくる」とコンタドール。フランスのアンチファンから浴びせられるブーイングに動揺を隠せないでいるのだ。
その年の大会はラルプデュエズでアンディ・シュレクがマイヨ・ジョーヌを着用するが、その翌日、言い換えると最終日前日の個人タイムトライアルでエヴァンズが逆転。エヴァンズが涙の初優勝を決めたのである。
文:山口和幸
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山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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