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ツール・ド・フランスと巡る、フランスワイン12の旅 〜プロヴァンス〜 セミ時雨の鳴り止まぬこの地で人情に泣く…
ツール・ド・フランス by 山口 和幸[写真](c) Pressports/Kazuyuki Yamaguchi
ラベンダー畑が象徴的なプロヴァンスは、ローマ時代の古代劇場や円形闘技場などが点在する魅力あるエリア。セザンヌ、ゴーギャン、モネ、ゴッホ、ルノワールなど多くの画家もこの地を愛したことで知られている。ノストラダムスの大予言で有名な占い学者もこのプロヴァンス出身だ。
ただし7月のこの時期はあまりにも暑いこと、あまりにもバカンス客が多いことからツール・ド・フランスはなかなか訪問したがらない。それでも卓越したロゼワインはこのエリアの名産で、コース脇のラベンダーとともにつかの間の癒やしをボクたち取材陣に与えてくれる。
2006年は第13ステージでプロヴァンスを通り、モンテリマールにゴールした。その年の最長距離に加えてとにかく暑かったのを記憶している。多くの有力選手がアルプスのために体力を温存させようとする中、こういった状況を利用してステージ優勝しようと、17km地点からフォイクト、ペレイロ、シャヴァネル、クインツァート、グリブコの5人が飛び出した。
この中で総合成績が最もいいペレイロでさえ28分50秒遅れで、マイヨ・ジョーヌのランディスを擁するフォナック勢は後続集団のペースメークをするが、吸収する意志はなかった。タイム差は173.2km地点で26分、200km地点では28分にもなった。
逃げた5選手のペースは落ちることなく、一時は30分以上の大差をつけた。
残り4kmでフォイクトとペレイロが2人で抜け出してゴールを目指した。最後は2人の一騎打ちとなり、フォイクトがペレイロを制した。マイヨ・ジョーヌのランディスを含む大集団は暑さのため戦意を喪失し、29分57秒遅れでゴール。
ペレイロはここでマイヨ・ジョーヌを獲得するものの、結局はランディスに逆転され、それでもそのとき稼いだタイムで総合2位に。そして大会最終日から2日後、ランディスがドーピング違反で失格となり、ペレイロが最終的な総合優勝者となる。
ボクが取材した四半世紀の中でも合計9大会の覇者が事後に総合優勝をはく奪された。たいていのスポーツイベントならそんな汚名が連続すればその歴史は簡単に終止符が打たれるだろう。しかしツール・ド・フランスは「コンペティション」だけで成り立っているイベントではない。そこにはフランス経済が付随し、庶民や地域の社交があり、あるいは観光大国フランスの産業が渾然一体となって100年の歴史を刻んできた。
「勝った負けたも面白いが、まずはツール・ド・フランスがやってくるこの夏を楽しもうよ」
この大地に生きていることを最大限に楽しむ。そこに必要なのはワインであり。夏になればツール・ド・フランスだ。この2つの共通点は、フランスの歴史と文化が育て上げてきたということにほかならない。
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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