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今さらながら、噂の「野球本」を日本から取り寄せて読んだ。
「素人がナニを偉そうに言うとんねん」という斜めに傾いた気持ちで。
「そもそも『お股ニキ』ってなんやねん? 『お股ニキ』って」と突っ込みながら。
結論からいうと、「脱帽した」。
いや、それも、単に帽子を脱ぐとかいうレベルではなく、ハゲになってしまうんじゃないか、と感じてしまうぐらい、思いっきり。
帯に書かれている宣伝文句は、「プロ選手にもアドバイスする独学の素人が、野球界の常識を覆す」である。
野球界の常識というのはつまり、伝統主義に則った偏見のようなものだ。
たとえば「とにかく走れ」にあまり根拠がないのと同じで、「本格的に野球をやったことのない素人が、野球を語るべからず」も実は、あまり根拠がない。
そもそも、私を含め圧倒的多数のスポーツライターや新聞記者諸兄は高いレベルで野球をしたことがない。
逆に高校野球や大学野球を経験した人々がすべて、優れたスポーツライターや記者になれるわけでもない。
出版業界で野球界を語ったり、書いたりしている人たちのほとんどは「素人」であり、たとえばSNS上で変化球の効力を語る人々と、実はそう変わりない。
メジャーリーグにおいてはとくに、昔は一部の人にしか与えられてなかった情報がネット上で溢れていて、「プロ」と「アマ」の「書き手」の境界線などないに等しくなった。
大事なのは「情報」を伝達する能力であって、出版物の場合、「書き手」としての才能である。そして、本書の著者にはそれが、ある。
確かに著者は元プロ野球選手どころか、元高校球児でもなかったかも知れないが、第1章に登場する以下の文を読んだだけで、同氏が「野球を見る目」と「それを簡潔な文章で表現できる」能力を持っているのが明らかになる。
「データをもとに最も効率的な野球を展開するのはマネジメント・経営サイドとしては当然だが、本当にファンが求めている野球とは何なのか、エンターテイメントと結果重視のバランスを再考する段階に来ている」
そこにあるのは野球に対する確かな「愛情」であり、それはあたかも、かつて缶詰工場の警備員をしながら、現在のセイバーメトリクス(野球の統計分析学)の祖となった「Baseball Abstracts」を執筆したビル・ジェームズ氏のごとき、熱量を持っている。
本書の魅力は、第3章に登場する「万能変化球「スラッター」」や、第4章の「フライボール革命とバレルゾーン」など、「誰がどう読んだって面白い」部分にあるのだが、それが「変化球論がもめるわけ」や「動くボールは前で打て」といった「対」になる部分に繋がることで、読みやすい「最適バランス」が生まれている。
そして、それらを理解した上でさらに読み進めていくと、第6章の「監督・采配論」、第7章の「球団経営・補強論」、第8章の「野球文化論」がとてつもなく、面白く感じてしまう。
これはたとえば、マイケル・ルイスの著書「マネーボール」のように万人受けーそれがハリウッドで映画化された理由だろうーする「読み物」ではないかも知れないが、それゆえにある程度、野球に対する知識がある人、今教えられている野球に疑問を持つ人々にとっての「参考書」になり得る。
そして、これは本質的に「既成概念を払拭する楽しみ」を発見できる、野球を愛する人々のための、とてもマニアックな「娯楽の書」ではないかと思う。
かつてのジェームズ氏がそうであったように、著者にはまだまだ書きたいことがあるらしいが、それは歓迎すべき事態だ。
著者が言うように「野球は日本社会の縮図」ではあるが、そこに閉塞感を持っている人たちは確実にいて、既成概念を打ち壊そうと実際に行動しているところが頼もしい。
プロの素人、プロウトの次回作に期待したいー。
ナガオ勝司
1965年京都生まれ。東京、長野、アメリカ合衆国アイオワ州、ロードアイランド州を経て、2005年よりイリノイ州に在住。訳書に米球界ステロイド暴露本「禁断の肉体改造」(ホゼ・カンセコ著 ベースボールマガジン社刊)がある。「BBWAA(全米野球記者協会)」会員
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