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野球 コラム 2019年6月25日

ホームラン・バッターとは。 新人最多記録を狙うアロンゾ

Do ya love Baseball? by ナガオ勝司
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ホームラン・バッターが打席に立つと、注目度がぐっと高まる。

ファンだけではなく、相手チームの選手やメディアだって同じだ。

当たり前かも知れないが、日本プロ野球のように親会社ではなく、チーム名からして地域社会との繋がりが強いことが分かるメジャーリーグでは、ビジターチームの打者が登場したところで、それほど極端に注目度が上がることはない。

彼らはあくまでも「敵の一人」であり、「ほら、あいつだぞ」と誰かに促されて注目することなど、そうそうないことだ。

だが、ホームラン・バッターは違う。

6月22日の午後、シカゴ・カブスの本拠地リグリーフィールドもそんな感じだった。

記者席で、誰かがこう言うのが聞こえた。

”Here comes Alonso(ほら、アロンゾだよ).”

ニューヨーク・メッツのスーパー・ルーキー、ピート・アロンゾのことだ。

マウンド上のホゼ・キンタナは、アロンゾに対し「おい、新人。俺のカーブ打てるのか?」とばかりにカーブを連投し、見逃しのストライク、ファールで簡単に2ストライク・ナッシングと追い込んだ。

ベテラン投手に新人が軽くあしらわれているように見えた。

だが間もなく、風向きが変わる。

『追い込んでいるんだから、ストライクなんて投げないよ』という感じの「誘い球=低めに外れるカーブ」を見逃したアロンゾは、高めに来た4球目の速球にこそバットを出してファールにしたものの、5球目、6球目の低めのボールになるカーブをきっちり見極めた。

フルカウントとなって形勢は逆転。キンタナが投げた7球目はこの打席で唯一と言っていい「ストライクゾーンに来たカーブ」だった。

ただし、決して簡単ではない外角低めのカーブである。

アロンゾは体を開かず、ギリギリまで待ってバットを出し、強く振り切った。

カンッ! と乾いた音がする。打球がセンター後方、やや右中間寄りに飛ぶと同時に、4万人を超える満員の観客が一斉に顔を上げる。

今季26号本塁打が右中間スタンドに跳ねた。

それはアロンゾが、1983年にダリル・ストロベリー外野手が打ち立てて以来、何人たりとも打ち破れなかったメッツのルーキー最多本塁打記録に並んだ瞬間だった。

「正直、気にしてなかったけど、ホームランを打ったら騒がしくなるものだし、ソーシャルメディアでもいろいろ言われていたことだから、(記録は)知ってるよ」

と試合後のアロンゾ。新人どころか、ナ・リーグ屈指の一塁手と言ってもいい成長株は、「なんてことないよ」とでも言いた気に微笑んだ。

球団タイ記録の一発は、今季のナ・リーグ打撃タイトルを総なめにしそうな勢いで打ちまくっているコディー・ベリンジャーが2017年に打ち立てた前半戦のナ・リーグ新人最多記録の25本塁打を上回る一発でもあった。

新人最多はアーロン・ジャッジが同年に記録した52本塁打だ。

「ジャッジでしょ? 52? どうかなぁ」

どうかなぁ、でニヤリと笑ったところをみると、まんざらでもない。

ナ・リーグ記録は前出のベリンジャーが打ち立てた39本塁打で、同選手が92試合で26本塁打だったことを考えれば、77試合目で26本塁打のアロンゾが記録を更新する可能性は高い。

ベリンジャーの名誉のために追記しておくと、彼は記録を樹立した2017年、チームにとっての21試合目でデビューしているので、本塁打量産ペースはベリンジャーのほうが高い。

意外だったのはメッツの球団最多本塁打記録で、それは1996年のトッド・ハンドレーと2009年のカルロス・ベルトランによる41本塁打だというから、ナ・リーグの新人記録はもちろん、球団記録が更新される可能性は高い。

面白いのはやはり、周囲の反応だ。

その打席以来、シカゴの観客やメディアはアロンゾが打席に立つ度に、他のメッツの選手にはない反応をするようになった。もちろん、そこにはブーイングを含まれているが、『こいつ、また打つんじゃないか?』とでも言うようなざわついた雰囲気を出すようになった。

その期待(?)に応えて、アロンゾは翌日の試合でも左腕コール・ハメルズが得意とするチェンジアップを、今度もまた外角低めの決して簡単ではない球を、またしても右中間スタンドに叩き込んだ。

これで今季27号。

26号本塁打の時にはそれが新人記録だとは気づかず、メッツの広報に促されて『マジ?』とばかりに記録を発表していたカブスの広報が、今回ばかりは誰に促されることもなく、自然とこう付け加える。

「今のはアロンゾの今季27号本塁打であり、ナ・リーグ新人の最速記録を更新しました」

ホームラン・バッターとは、人を動かす存在なのである。

ナガオ勝司

ナガオ勝司

1965年京都生まれ。東京、長野、アメリカ合衆国アイオワ州、ロードアイランド州を経て、2005年よりイリノイ州に在住。訳書に米球界ステロイド暴露本「禁断の肉体改造」(ホゼ・カンセコ著 ベースボールマガジン社刊)がある。「BBWAA(全米野球記者協会)」会員

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