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スキー コラム 2023年3月27日

フライングの期待感

鳥人たちの賛歌 W杯スキージャンプ by 岩瀬 孝文
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終盤戦でスパートをかける小林陵侑(土屋ホーム)

ようやく戻ってきた。
個性派の飛ばし屋が揃うノルウェーチームの面々と、北欧のノルディックスキーファンが待ちこがれたW杯大会「RAW AIR(ロウエア)」が久しぶりに開催されたのだ。

歴史的にとても親しい間柄の日本とノルウェーは、日本選手へ大きな応援を寄せてくれる。
かつて幾度も訪問したオスロ市内の北西部に艶やかに構えるホルメンコーレンの丘には、オスロ中央駅前からプレスシャトルバスに乗るか、のんびりと地下鉄のホルメンコーレン駅で降りるか。駅からてくてくと歩いていくと伝統あふれるクロカンスキー50kmと30kmコースに周回コース、バイアスロンの射場さらに扇形に広がるホルメンコーレンシャンツェが見えてくる。それこそ各所で観戦しやすさに富んでいるノルディックスキーの聖地である。

観客たちはジャンプ台の階段状に作られたエリアで、日向ぼっこしながら選手たちの熱い飛びを眺め、そこから隣にあるクロカンコースサイドへ歩いて、すぐに声援に出られる。
ある時ジャンプ取材終了後にそのコース奥に行こうとしていると、コースそばにある雪山テント前で焚火をしている人々に呼び止められ「これ食えよ、あれを飲め、元気が出るから」と、渡されたのがシュナップス(濃い蒸留酒)と缶詰。匂いがきつ過ぎる魚でおやと思ったが、意外といけるではないかいとお代わりまでした。たいそう喜ばれ、その勢いを借りて山奥へとずんずんと進んでいった。濡れ雪だった身体がポカポカして取材がはかどった。

観客がコース沿いから後方にかけてたくさん集まり、文化としてノルディックスキーが根付いている地を歩き回るのも、なかなか憧憬が深くなりであった。
あの頃は、連戦連勝のシュリレンツアウナー(AUT)のノルウェーの英雄ヤコブセンが、ジャンプ台のサッツ横で談笑していたのを、とても仲が良いのだなあと見つめていた。

続く五輪開催地の小さな町リレハンメルでは、ジャンプ台の改修が済み2025世界選手権を待つ北部港湾都市トロンハイムの代替え1試合が組み込まれた。
そして最後はオスロからバスで3時間以上かかるビケルスンのフライングがRAWAIR最終戦。各国の選手たちは、オスロ市から南にある湾岸都市のドランメンに宿泊、そこから1時間余りをかけてビケルスンへ通う。ここでは男子W杯とともに、女子トップ15人による初めてのフライングジャンプが行われ、クリネツ(スロベニア)が最長226mを記録して優勝。ロングジャンパーで名高い伊藤有希(土屋ホーム)は200.5mで3位となった。
このRAW AIRのチャンピオンはグランネルー(NOR)、彼のW杯個人総合優勝もこのシリーズ内において決定した。

日本勢では、あくまでマイペースにW杯で一桁入りを重ねる小林陵侑(土屋ホーム)が、もうスーツ違反などにはならないと、無理をせずセイフティなマテリアルでコンスタントに好ましい飛距離を出している。いつも風が荒れがちな三連シャンツェで有名なラハティ(FIN)を無難にこなし、なんと1本目に136.5mを記録。そのまま乱れた強風により、試合は1本勝負となって、ついにW杯30勝目を遂げた。この先の狙いは得意とするプラニツァ(SLO)のフライングにおける超ぶっ飛びジャンプであるから、これを見逃す手はない。

最終戦プラニツァともなれば、そこまで厳密なチェックがある意味イージー(!?)になり「さあ行け、どこまでも」状態となる。それがシーズンエンドの爆発的な盛り上がりでプラニツァ音頭が鳴り響き、たくさんのビールが消費され、みんな幸せな表情になり帰路につく。

苦難を乗り超えようとする佐藤幸椰(雪印メグミルク)

中村直幹(フライングラボラトリー)はビケルスンで良い風に乗り11位を記録。佐藤幸椰(雪印メグミルク)にはようやく希望の光が見えて今後の体力トレーニングにその浮上がかかってきそう。加えて敏腕な鈴木サービスマンによる心が込められたスキーワクシングとスキーチューンナップが後押しする。

身体の調整を終えた小林潤志郎(雪印メグミルク)がW杯に戻り、腰を据えて各国のジャンプ台を飛びこなした佐藤慧一(雪印メグミルク)、高名なシャンツェで試合経験を積んだ二階堂蓮(日本ビール)、W杯出場のチャンスを得た竹内択(チームタク)が勇躍した。
ラハティとプラニツァでの団体戦ではひとえに5、6位からの脱却を目指していきたい日本チームだ。

また、今シーズン限りで引退するW杯選手が2人いることを忘れないで欲しい。世界選手権で銅メダルを獲得した栃本翔平選手、ケガから復帰した原田侑武選手の雪印メグミルク戦士だ。

左から雪印メグミルクの岡部孝信監督、原田侑武、栃本翔平

3月18日に札幌大倉山で行われた伊藤杯ファイナルでそれぞれがラストジャンプを飾った。
特に2007札幌世界選手権団体戦で銅メダルを獲得した栃本選手は、若き精鋭の登場で将来を嘱望された。それを見送るファンの皆さんの姿は、実に感慨深かった。

文・岩瀬孝文

岩瀬 孝文

ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。

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