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ラグビー コラム 2021年1月12日

【ハイライト動画あり】涙の天理大初優勝。関西勢36大会ぶりの頂点。ラグビー大学選手権決勝

ラグビーレポート by 多羅 正崇
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天理大学

頬を涙が伝っていた。

2021年1月11日(月・祝)、東京・国立競技場に、天理大学・FL松岡大和キャプテンの優勝インタビューが響き渡った。

「メンバー23人が身体を張ったこともそうですが、メンバー外のみんなが協力して、今日まで良い準備をしてくれました」

「今日の優勝は、天理大学ラグビー部員全員と、この4年間サポートしてくださった皆さんと、先輩たちが培ってきたものを、全員が良い準備をしてくれた結果、今日優勝できたと思ってます!」

2020年度の王者を決める大学選手権決勝。

2連覇を目指した早稲田大学(関東対抗戦2位)と、悲願の初優勝を目指した天理大(関西リーグ1位)が激突した。

試合は新型コロナの感染拡大で緊急事態宣言が出されたなか、すでに販売済みだった約1万7千枚のチケットに関しては観客制限措置から除外される、との政府見解を受けて行われた。

観客1万1411人が入場し、5000枚以上が使用されなかった。

約6万8000人収容のスタンドは空席が目立ち、声援も少なかったが、これが天理大にとっては追い風だったかもしれない。

2011年度、2018年度と決勝に進んだが、奈良・天理市を本拠地とする天理大は、アウェーの空気とも戦わなければならなかった。

「今までのチームは東京での大きな試合で実力を発揮できず、悔しい想いをしてきました。今日は実力を出し切ってくれました」(天理大・小松節夫監督)

過去2回の決勝戦と何が違っていたのか。小松監督は「経験値」と答えた。

「経験値が高かったと思います。1年生から3回悔しい経験をした選手が多く、決勝に懸ける想いが強かった」

天理大はこの日、まずディフェンスにフォーカスしていた。「今日はディフェンスで前に出てプレッシャーを与えようと準備していました」(天理大・松岡キャプテン)

その狙い通り、天理大は序盤に守備から2度のターンオーバーを奪う。悔しい想いをしてきた4年生のPR小鍜治悠太、LOアシペリ・モアラが、接点で激しく身体をぶつけた。

ラグビー 全国大学選手権 20/21 決勝

【ハイライト】天理大学 vs. 早稲田大学

すると一気呵成に前半5分にCTB市川敬太、前半10分にLOアシペリ・モアラが連続トライ。不動の司令塔・SO松永拓朗のキックも好調で14-0とした。

早大はFWで一歩も引くつもりはなく、「そもそもFWで行こう、ということは我々のテーマでした」(早大・相良南海夫監督)。

しかし天理大の圧力が「予想以上」(同監督)だった。

早大も前半20分、敵陣右のラインブレイクからFWで攻勢をかけ、PR小林賢太がフィニッシュ。ビハインドを7点(7-14)に縮めるが、ここから天理大は2トライと1PGを追加する。

天理大は準決勝で不安定だったラインアウトを見事に改善し、モールを組んで敵陣深くに入ると前半31分、SH藤原忍のパスからCTB市川敬太が左隅でトライ。

そして前半41分にはCTBシオサイア・フィフィタからのパスを受けたCTB市川が、早くもハットトリックを達成した。

2020年のサンウルブズ(日本)にも参加したCTBフィフィタは抜群の突進力を誇るが、この日は常にトライアシストに徹した。

2年前の決勝戦は最終盤に一人でショートサイドに突っ込みノックオン。直後にノーサイドとなり、目の前で明大が優勝を決める痛恨を味わっていた。

しかし最上級生になったフィフィタは、たびたびスタンドオフの位置にも入るスキルフルな“アシスト名手”になっていた。

天理大のFL松岡キャプテンは「サイヤ(フィフィタの愛称)は周囲を活かすプレーが(サンウルブズに)行く前よりもできています」と語り、サンウルブズでの経験が大きかったと明かした。

29-7で前半を折り返した天理大。

後半4分頃にFL松岡キャプテンが足を痛めた様子を見せるがプレーを続行する。すると同6分には強力スクラムでプレッシャーをかけ、インゴールに転がり出たボールをSH藤原がグラウンディング。36-7とした。

早大は武器である正確なラインアウトが不安定で、後半9分にはこの日2度目のノットストレート。得意のラインアウトモールでも天理大を圧倒できなかった。

しかし早大は後半12分にFB河瀬諒介が広角のステップワークで流石のトライ。その後天理大にさらに2トライを奪われるが、同27分、PR小林の独走から途中出場の河村謙尚がフィニッシュ。

21-55となって敗色濃厚な後半40分にも伊藤大祐が連続攻撃のフィニッシャーとなったが、ホーンが鳴ったリスタート後、ハーフ付近まで攻め上がったもののボールを失い、ノーサイドを迎えた。

1/11 天理大学 vs. 早稲田大学

天理大は決勝の史上最多得点となる55点を奪い、昨年度の準決勝で大敗(14-52)早大に55-28で雪辱。

連覇を逃した早大の相良監督は「今日は天理が素晴らしかった」と振り返った。

「あれくらい接点で前にもっていければと思った。(天理大に)速いボールを出させてしまった」

天理大にとっては3度目の大学選手権決勝で、3度目の正直。関西勢として1984年度の同志社大以来36シーズンぶりの優勝を成し遂げた。

ただ小松監督は、同大4年時の決勝で早大に惜敗しており「私の中で『4度目』という思いは確かにありました」。33年越しのリベンジという壮大な物語を、最高の舞台で完結させた。

小松監督は天理高校で主将も務めた元CTBで、高校卒業後に仏ラシンクラブへ2年留学したため3年遅れで同志社大に入学。

日新製鋼でも主将を務め、1993年より天理大のコーチとなり、当時CリーグにいたチームをAリーグの強豪に育て上げた。

小松監督は試合後の会見で語った。

「関西のチームとして36年ぶりに優勝して、関西の仲間でも我々が勝ったことが励みになり、目標になると思います。関西リーグのレベルが上がっていくのではと期待しています」

会見の最後、小松監督は優勝の瞬間の気持ちを問われた。落ち着いた声色でこう答えた。

「『日本一や』、と思いました」

文:多羅正崇

多羅正崇

多羅 正崇

スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。

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