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サイクル ロードレース コラム 2019年9月17日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ 2019】スキージャンプから転向後、僅か6年での快挙。祖国スロベニアに歓喜もたらしたログリチェ「また次のレースで会いましょう!」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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表彰台の中央に立つ、プリモシュ・ログリチェ

「なんて言ったらいいのか分からないけど……本当にありがとう。また次のレースで会いましょう!」

いかにもプリモシュ・ログリッチェらしい、そっけないほどに短い言葉で、3週間の戦いは締めくくられた。ライトアップされたシベレス広場に、国のシンボルであるトリグラウ山が描かれた白青赤の国旗が、きらきらとはためき、「祝杯」という名の国歌が、夕闇の空に鳴り響いた。史上初めて、スロベニア人がグランツール総合覇者に輝いた。

ビニールプールの水が溢れたせいで……阿鼻叫喚のスタートを切った2019年ブエルタ・ア・エスパーニャは、3週目には文字通り、嵐が吹き荒れた。

例えば今大会最長の第17ステージ。2度目の休息日の翌日の、単なる「移動ステージ」になるだろう……という大方の予想をまんまと裏切って、平地で総合争いが勃発した。なにしろ時速50.628kmというあり得ないほどのスピードで、つまり219.6kmをたったの4時間20分で駆け抜けたのだ!

フィリップ・ジルベール

J SPORTS放送情報

きっかけはドゥクーニンク・クイックステップが、風を味方につけ、プロトン分断を決行したこと。集団をズタズタに切り裂きつつ、自らは8人中7人を前方集団に送り込んだ「クラシック精鋭軍」は、まんまとフィリップ・ジルベールを勝利へと導いた。

しかも総合6位ナイロ・キンタナが先頭集団に飛び乗ってしまったから、さあ大変。後方に取り残された総合上位たちは、死にものぐるいの追走を強いられた。そこでは仁義なき駆け引きも行われた。マイヨ・ロホ擁するユンボ・ヴィスマの、アシストたちが疲れ果てた頃に……アスタナは突如として高速牽引に切り替えた。ログリッチェが集団内で孤立した途端に……モビスターとアレハンドロ・バルベルデは引き千切りにかかった。前方にキンタナが逃げているのも構わずに。

ただしログリッチェは全方向からの総攻撃を、極めてクールに耐え切った。総合2位以下に対するリードは、2分48秒から2分24秒に縮まったに過ぎなかった。

モビスターのナイロ・キンタナ

第19ステージには再び、横風を利用して、モビスターがマイヨ・ロホを罠にはめようと企てた。しかしタイミングが悪すぎた。「レース前に決めた戦術に則って」スペイン軍団が加速を試みたその頃、集団落車のせいで、ログリッチェが後方に取り残されていたのだ!

あっという間にログリッチェは1分近く引き離され、真剣な追走を余儀なくされた。幸いにも、15kmほど追いかけっこを続けた先で、モビスターが自ら減速。「ライバルの落車を利用しようという意図はなかった」と、プロトンの「紳士協定」に反する行為を取り止めた。マイヨ・ロホは正しい居場所を取り戻し、25kmの独走勝利を果たしたレミ・カヴァニャの背後で、総合ライバルたちと揃って1日を終えた。

平地での危機をきっちり乗り越えたログリッチェは、山では、最後の最後まで危なげない強さを発揮し続けた。

タデイ・ポガチャル

むしろ3週目に組込まれた2つの山岳ステージは、20歳タデイ・ポガチャルと25歳ミゲールアンヘル・ロペスの新人賞(と総合表彰台)を巡る争いで活気付いた。大会初日から新人賞首位を守り続けてきたロペスは、第13ステージに、白いジャージをポガチャルにむしり取られた。すでにグランツールで新人賞を3度(2017年ブエルタ、2018・2019年ジロ)……だけでなく2018年にはグランツール総合表彰台を2度を手にしてきたGCライダーは、2週目から連日、がむしゃらな反撃体制に突入した。

22歳ネオプロのセルジオ・イギータが、初のグランツール挑戦で初のステージ優勝を手にした第18ステージ、同じコロンビア人のロペスが、まんまと新人賞ジャージを取り戻す。メイン集団で、自らが先頭に立ち、激しく攻め立てた成果だった。

ところが第20ステージ、つまりマドリード到着前夜に、再び状況は入れ替わった。イベリア半島には秋の空気が流れ込み、山岳地帯には、冷たい雨が断続的に降っていた。いつも通り、繰り返し、アスタナのチームメートに支えられたロペスが果敢なアタックを試みた。ところが状況が少し落ち着いた一瞬の隙を突かれた。フィニッシュまで残り39km、今大会最後の1級山頂まで残り約4km。ポガチャルがたったの加速一発で、全てをひっくり返した。しかも山頂でライバルたちにつけた1分40秒差を、ほとんど減らすことなく、フィニッシュまで全力で先頭を駆け抜けた。

ミゲールアンヘル・ロペス

昨夏に「U23のツール」であるツール・ド・ラヴニールを制したポガチャルは、この夏は20歳の若さで、グランツール区間3勝を叩き出した。ロペスに対する32秒の遅れをも、あっさり1分43秒リードに変えた。こうして純白のジャージを手に入れたのはもちろん、1974年ジロ・デ・イタリアのジャンバッティスタ・バロンケッリ以来となる「21歳以下」のグランツール総合表彰台=総合3位さえも射止めた!

「この3週間に起こった出来事は、まるで信じられない」と、記者会見で難度となく「incredible」というセリフを発したポガチャルの隣では、約18歳半年上のバルベルデが、39歳にして総合2位の座を確保した。昨秋38歳で世界の頂点に上り詰めた大ベテランにとっって、ブエルタでは6度目の、グランツールでは通算8度目の総合表彰台だった。。

新城幸也

マドリードの高速スプリントフィニッシュでは、グランツール出場12回目の新城幸也がエースとして全力でもがき(区間15位)、初出場ファビオ・ヤコブセンが早くも2勝目をさらいとった。前夜すでに総合優勝を確実なものとしていたログリッチェは、生まれて初めての栄光を悠々と満喫した。前日までは「こっそり」笑っていたそうだが、この日はようやく、人目をはばかることなく満面の笑みを見せた。

「タフな3週間だった。ようやく終わりが訪れた。本当に嬉しい」

5月のジロ・デ・イタリアではマリア・ローザ獲りを失敗したログリッチェは、待望の生まれて初めてのグランツールタイトルを手に入れた。ついに……とは言えないかもしれない。なにしろスキージャンプから自転車競技に転向して、たったの6年目の快挙だった。

プリモシュ・ログリチェ

むしろ祖国スロベニアにとって初めてのグランツールタイトルであり、同時にユンボ・ヴィスマ……1984年に誕生したオランダチームにとって、実に初めてのグランツール総合制覇だった。おそらく、これは、オランダチームにとって新たな栄光の歴史の始まりに過ぎない。なにしろ同チームはブエルタ期間中にログリッチェとの契約を2023年まで更新し、この夏のツールを総合3位で終えたステフェン・クライスヴァイクに加えて、来季からは2017年ジロ覇者トム・デュムランも仲間入りする予定だ。フルーム、トーマス、ベルナルを要するイネオスと、来夏フランスで、対等に渡り合う姿が見られるかもしれない。

第74回ブエルタ・ア・エスパーニャは秋の訪れと共に幕を閉じた。しかし2019年自転車ロードレースシーズンは、まだまだクライマックスを迎えてはいない。マドリード到着の2週間後には、次なる「アルカンシェル」世界チャンピオンジャージの持ち主が決まる。さらに約15日後には、2020年のツール・ド・フランス@ニース開幕のコース全貌も明らかになっているはずだ。もちろん日本でのビッグイベント×2も……ファンたちを待っている!

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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