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その良い例が2001年に新人王とともに、MVPをさらったイチローだ。その年彼は打率.350で首位打者を獲得し、盗塁王となる56個の盗塁を決めた。加えて「レーザービーム」に象徴される素晴らしい守備も披露した。
しかし、単純にWAR(fangraphs版)だけで比較すれば、その年のイチローは6.0でリーグ5位だった。マリナーズ内でも37本塁打&141打点のブレット・ブーンは7.8とイチローを上回っていたし、リーグ1位は当時アスレチックス所属のジェイソン・ジアンビ(9.2)だった。
しかし、この年のア・リーグにおけるMan of the Yearはだれだったか、というとイチロー以外はあり得なかったと思う。前年オフに最大のスターだったアレックス・ロドリゲスがFAで流出。90年代有数のスター集団だったマリナーズはこれから下降線を辿るかもしれないと見られていた。しかし、フタを開けて見るとア・リーグ記録の116勝を挙げ地区優勝を決めた。その象徴がイチローだった。パワー全盛時代に反旗を翻すような安打製造機ぶりと、平凡な内野ゴロすらドラマにしてしまう卓越したスピードでアメリカのファンを魅了した。公式戦では圧倒的な強さを見せたマリナーズは、ワールドシリーズには進めなかったがこの年のメジャーを代表する球団で、そも象徴はイチローだった。
そして、2021年。大谷は10勝に到達しないかもしれないし、本塁打王を逃すかもしれない。それでも、今年のア・リーグで最も全米のファンのハートを捉え、議論を巻き起こし、画期的なパフォーマンスを見せたのは大谷翔平だと思う。実はWARでも、投打で稼ぐ大谷は合計7.3で、売って守る「だけ」のゲレーロ・ジュニア(6.8)を上回っているのだが、数値よりももっとエモーショナルな観点で、大谷が相応しいと思う。フラットな視点で半世紀メジャーを見守ってきたぼくとしては、正直なところ日本メディアの連日の大谷賛歌、絶賛報道にはやや辟易としているのだが、エンジェルスの低迷やゲレーロ・ジュニアも大活躍をもってしても、2021年ア・リーグのMan of the Yearは大谷翔平しかないと思うのだ。
文:豊浦彰太郎
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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