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今年も残すところ数日。「2019年のさようなら」を2回に分けてお届けしたい。まずは、引退選手編だ。今季限りでのフィールドを去った数多くの選手の中から、以下の4人のそれぞれの引退を紹介したい。
ジョー・マウアー (ツインズ)
地元球団にドラフト全体1位指名で入団し、期待通りスターに成長。15年のキャリアを移籍なく全うした生粋のフランチャイズプレーヤーだった。成績的には余力を残しての35歳での引退だった。
8年契約が満了する今季限りでの引退が噂される中、最終戦で9回に1球のみだが、2013年以来の捕手を務めた。11月に公式に引退メッセージを発表した。その後、背番号7は欠番となることが決まった。
早い引退の要因は契約の満了だけではない。2013年のファウルチップによる脳震盪の後遺症に悩まされた。今季5月にはファウルフライを追っての衝突で再び悪化。これが引き金となった。
稀代の打てる名捕手だった。長いメジャーの歴史でも首位打者3回は捕手としては彼のみ。MVPに選出された2009年には、いわゆるスラッシュライン(打率/出塁率/長打率)での三冠王に輝いたが、これも捕手としては史上ただ1人だ。ただし本塁打は少ない。高い位置での大きなフォロースルーを持つため、2ケタ本塁打6度のみは意外だった。
キャリア最終の5年間となる2014年以降は、脳震盪の再発を避けるため一塁手として出場した。しかし、長打には欠けるため、一塁手としては2300万ドルの年俸に対し物足りなさは拭えなかった。
スモールマーケット球団のツインズにとって、2010年3月にマウアーと翌年からの8年契約を結んだのは大きな転機となった。同年にオープンするターゲット・フィールドによる増収効果に賭けた乾坤一擲の判断だったが、その後マウアーはやや精彩を欠き、新球場効果が薄れると客足も遠のいた。一方で、マウアーの高年俸が足かせになり補強もままならなかった。良くも悪くも、球団の盛衰に大きな影響を与えたプレーヤーだったのだ。
チェイス・アトリー (ドジャース)
7月に今季限りでの引退を表明していた。
2007~2011年のフィリーズ地区5連覇の中心選手としての印象が強いが、2015年途中以降に在籍したドジャースの本拠地LA郊外のパサデナ出身で、UCLAで学んだ生粋のウェストコーストボーイだ。球宴選出は6度で、2009年にはワールドシリーズでは史上タイの5本塁打も、MVPはシリーズを制したヤンキースの松井秀喜に譲った。
レギュラー定着は20代後半だったため通算安打は1885本でしかないが、通算WARは65.6で殿堂入り二塁手の平均69.5に比較しても遜色ない。強打に加え、守備も秀逸。そして攻撃的な走塁でも知られた。2015年ナ・リーグ・チャンピオンシップシリーズのメッツ戦での併殺崩しの走塁はその典型で、ピボットマンのルーベン・テハダを故障欠場に追い込み、翌年からの危険スライディングを禁止する新ルール設定のきっかけのひとつとなった。
2016年まではレギュラー二塁手として活躍したが、翌年以降はプラトン起用が中心。特に今季は7月の引退表明以降は、自身の故障やフラッグディールでのブライアン・ドージャーの加入で出場機会がめっきり減ってしまったのは残念だった。
エイドリアン・ベルトレー (レンジャーズ)
6月に3090本目の安打を放ち、イチローを抜いて外国生まれの選手としての通算安打記録を樹立した。9月に8本塁打と来季以降にも大いに期待を満たせる形でシーズンを締めくくったが、11月に引退を表明した。39歳だった。21年のメジャーキャリアで、最終的に積み上げた安打数は3166本。三塁手としては史上最多で、将来の殿堂入りは間違いないとことだ。
1998年に19歳でドジャースでメジャーデビュー。その後、契約時の年齢が規定の16歳に達していなかったことが判明。代理人のスコット・ボラスはドジャースの規定違反で契約無効、FA化を主張(これで高く売り込もうという戦略)したが受け入れられなかった。そもそも年齢を偽ったのは本人側の落ち度だと思うが、当時は「これがボラス戦法か」と妙に感心したものだ。その後はやや伸び悩みの感があったが、FAイヤーの2004年に突如大爆発。48本塁打&200安打と、大袈裟に言えばバリー・ボンズとイチローをミックスしたようなモンスターシーズンを送った。
FAとして5年契約を結んだマリナーズ移籍後は、打者不利の本拠地の影響を受けたか終始低空飛行。しかし、この頃から守備に磨きがかかり名三塁手としての名声は高まった。その後1年だけ在籍のレッドソックスを経て、レンジャーズでキャリアを終えた。早熟のラテン系選手はその分衰えも早いケースが目立つが、彼の場合は30歳を過ぎてから本格的な長い全盛期を過ごした感がある。
デビッド・ライト (メッツ)
9月29日のマーリンズ戦で、メジャーでは珍しい引退試合を行った。脊柱管狭窄症に苦しめられていたため、スタメン戦出場は一昨年5月以来だったが、大観衆に見守られ2打席をこなして姿を消した。
彼は、その実力とリーダーシップ、さらには屈託のないキャラでチームの精神的支柱だったが、近年は故障に悩まされ2016年5月以降は引退試合の前日まで公式戦出場がなかった。35歳という若さでの事実上の引退は無念という他ない。
「事実上の」という表現を用いたのは、本人も球団も「引退」とは明言していないからだ。それは、保険適用のためだ。ライトには2012年に締結した8年総額1億3800万ドルの契約が、あと2年2700万ドル分残っている。もしここで「引退」を正式に表明すると、それは放棄することになる。しかし、来季以降は「本来現役続行の意思はあるが、単に体調が許さないだけ」ならそれを享受する権利がある。そして球団は保険金を受け取ることになる。
感動的なだけでなく、メジャーの冷徹なビジネスの側面も垣間見せた「事実上の引退」だった。
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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