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野球 コラム 2018年11月7日

Heart & Soulのカーショウを、彼のメンツも立てて引き止めたドジャース

MLB nation by 豊浦 彰太郎
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ワールドシリーズが終わると、ストーブリーグの幕開けだ。今年、2018年のオフは数年前から空前の大物FA発生ラッシュの年と見做されており、各球団も来たる時期に向け「貯金」に勤しんでいた?との噂すらあった。

当時、具体的に名前が挙がっていたのは、ブライス・ハーパー、マニー・マチャド、クレイトン・カーショウらを筆頭に、ホゼ・フェルナンデス、マット・ハービー、ダラス・カイケル、ジョシュ・ドナルドソン、アンドリュー・マッカッチェンなどだ。当時はとてつもないメンバーと思われたが、その後フェルナンデスは事故死し、ハービーはフィールド内外で評価を落とした。ドナルドソンは故障で輝きを失い、マッカッチェンも衰えを隠せない。「2018年問題」の最大の目玉だったハーパーも、ややパワー一辺倒の打者になってしまった感もある。

カーショウもどちらかと言うなら「失速組」に入れるべきかもしれない。彼は、2014年からの7年総額2億21500万ドルの契約を、2年6500万ドル残してこのオフにオプトアウトする権利を要していたが、近年は故障がちで今季は故障者リスト入りが2度あった。

ドジャースとカーショウの交渉期間はワールドシリーズ終了後3日間ということになっていたが、実際には2日間延長された。結局、彼はFA市場に打って出ることを見合わせドジャースと新たに3年契約を結んだのだが、日程の延長はそれだけ両者間で真剣な交渉が行われたことの表れだろう。

注目の新たな条件は3年総額9500万ドル。年平均ではそれまでの3250万ドルから3150万ドルへ若干下がったが、その分1年期間が延長された。また、年平均額でのマイナス分は、先発回数を中心に設定された出来高払いで取り返し、従来以上の額を手にすることも可能な設定になっている。

正直なところ、この条件はぼくにはちょっと驚きだった。なぜなら、史上有数の名投手と評価できるカーショウだが、メジャーで11年を過ごした30歳の現時点ではその全盛期の終盤にあり、これから少しずつ衰えて行くというのがフェアな見方だからだ。

ビジャネスライクに割り切れば、ドジャースとしてはカーショウが大きな故障に見舞われる前に自ら出ていってもらい、浮いた資金でそこれこそ同じ左腕のFAパトリック・コービン(2~3年前の時点では、18年オフの目玉の1人ではなかった)らを狙ったほうが賢明であるとの見方は十分成り立つ。

いわんやドジャースの編成上の最高責任者は、レイズGM時代に乏しい資金で強豪チームを築き上げた倹約上手のアンドリュー・フリードマンだ。

しかし、ドジャースはそうしなかった。今回の条件は、ワイズ・スペンディングよりも、ドジャース一筋の在籍、3度のサイ・ヤング受賞とその内一度はMVPとの同時受賞というカーショウのこれまでの貢献に敬意を評し、生涯ドジャースを貫いてもらうことを念頭に置いたものだ。

そもそも、これはカーショウがオプトアウトの権利を行使するか否かの問題だ。彼が、FA市場で2年6500万ドル以上の条件を手にすることが可能と考えればそうすれば良いし、それは難しいと判断するなら元々の契約条件で残留すれば良い。そして、近年は球速の低下が指摘されワールドシリーズでも打ち込まれたカーショウは、オプトアウトしない方が賢明との見方が主流だった。

しかし、今回はそのどちらでもなかった。カーショウが自らの身の振り方を考えただけでなく、ドジャースもカーショウに彼のメンツが立つ残り方をオファーしたのだ。

「メジャーリーグ・ベースボールはビジネスと呼ぶにはあまりにスポーツで、スポーツと呼ぶにはあまりにビジネスだ」と言ったのは、かつてのカブスのオーナー、ウィリアム・リグレーだが、その後1970年代のFA制度導入を経て、現在のメジャーは「ビジネス一色」だ。ファンがメジャーデビューから精一杯声援を送ってきた地元のスター選手は、FA権を得ると好条件を求めてあっさり他都市の球団に移籍する。また、球団はその前にトレードする。

多くのファンはそれを時代の流れとして受け入れながらも、フランチャイズスターが存在した昔を懐かしんでいる。そして、ドジャースはチームのHeart & Soulを繋ぎとめることを重視した。もちろんそれは、ドジャースが潤沢な資金を有し、すでに十分すぎるほどの戦力を備えているからこそ可能なのだが、口さがないメディアも概ね肯定的に捉えている。そのことは、ぼくにとって驚きであるとともに、アメリカの人たちのベースボールへのノスタルジーを再認識させるに十分だった。

代替画像

豊浦 彰太郎

1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]

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