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野球 コラム 2018年10月14日

【中日好き】荒木雅博、23年分の笑顔

野球好きコラム by 森 貴俊
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クライマックスシリーズが始まった13日。台風の影響で延期になった今季最終戦。中日vs.阪神がナゴヤドームで行われた。

チケットは完売。荒木雅博の最後の雄姿を目に焼き付けようと多くのファンで埋まるスタンド。1番セカンドでスタメン出場した荒木は最後まで全力プレーでスタンドを沸かせた。

試合数、安打数、守備、走塁。どこをとっても一流。そんな荒木が生涯こだわり続けた物がある。それは荒木の代名詞といってもいい盗塁だ。

引退会見、「あと1つ走りたいね」と悪戯っぽく話した荒木は、その宣言通り、最終戦ヒットで出塁し、2塁へのスタートを切った。結果はアウト。

しかし、その姿に多くのファンは惜しみない拍手を送った。結果は度外視だ。ドラゴンズファンはその姿に荒木雅博の歴史を感じ取ったはずだ。

数年前、荒木はこんな事を話してくれた。「みんな、ホームランはすごく価値を感じるのに盗塁は、どこか当たり前というか、簡単に思われているのが残念なんだよね。僕はホームラン1本と盗塁1個の価値は同じだと思っている」。

入れば必ず点の入るホームラン、点に繋がるかもしれない盗塁。しかし、荒木はそこで価値を測らない。荒木のものさしは、成功させる難しさだった。

1個の盗塁を成功させるため、荒木は努力を惜しまなかった。そして、その努力を荒木は決して人に見せなかった。

亀澤恭平はこう話す。「観察力がずば抜けているんです。誰よりも早く投手の癖を見抜く。癖というか特徴ですね。膝の曲がる角度、呼吸する際の肩の上下動からユニフォームのシワまで」。

「ほとんどの選手はタイミングをとる事で必死なんですが、荒木さんはもう1つ2つ上のレベルの観察をするんです。そしてこの動きをすれば、ほぼ間違いなく打者に投げるって答えを導き出すんです」と明かした。

それは荒木が積み上げてきた経験に他ならない。そしてそのプロセスを京田陽太が説明してくれた。

「荒木さん、試合に出ようが出まいが、試合が終わったらクタクタになるんです。試合に出ている僕なんかより疲れていることもある」。

「最初は分からなかったんですが、荒木さん、プレーしてなくても野球やっているんです。ベンチでもただ座っている事がないんだなって思いました」と話す。

静と動を時間で比べれば、野球は圧倒的に静が長い競技だ。ゆえに考える時間が生まれる。荒木はベンチにいながら静の時間を無駄にしてこなかった。常に観察し自分の答えを探していた。

亀澤は「荒木さんは、質問しても決して答えを教えてくれないんです。そこにたどり着けるようなヒントをくれるだけ。こっから先は自分で答えを出せって事かなと思います」と話す。

同時に京田も「荒木さんは答えを言いません。不調の時、阪神の福留さんや色んな方を紹介してくれて食事もさせていただきました。恐らく、選手それぞれの考え方を聞いてお前なりの答えを出してみろって意味だと思います」と明かした。

荒木は「答えを教えるのは簡単でしょ。答えを出すまでの過程を自分で踏めば次に繋がるから。そうしないと若い選手は準備を大事にしなくなるから」。

一流こそ準備を怠らない。そして、この時間の使い方こそ、荒木が多くの後輩達に残したい物だ。

引退セレモニー、同級生の阪神福留孝介から花束を贈呈された時、荒木の目から思わず涙がこぼれた。しかし、マイクの前では切り替えて、自分の言葉を丁寧に並べた。最後まで胸を張り現役生活にピリオドを打った。

「最後までユニフォームを泥だらけにしてダイヤモンドを走り回って、そして笑って現役を終わりたい」。

マイクの前でも、ナゴヤドームを駆け抜ける荒木雅博と何一つ変わらなかった。

通算盗塁は球団最多の378個 通算2045安打。記録以上に荒木のプレーは心に刻まれた。スタンドからは「ありがとう」「おつかれさま」の声が鳴りやまなかった。

そして、多くの涙が流された。23年間、来る日も来る日も笑顔で声援に答え続けた。2018年10月13日、目じりの皺が深くなった41歳の最高の笑顔をドラゴンズファンは決して忘れない。

荒木選手、多くの感動をありがとう。そして本当にお疲れ様でした。

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森 貴俊

1976年愛知県出身。東海ラジオ放送スポーツアナウンサー。ドラゴンズ戦中心のガッツナイターをはじめJリーグ、マラソン等スポーツ実況を担当。原点回帰を胸に、再び強き竜の到来を熱望する43歳。日々体力の衰えを感じるがドラゴンズへの喜怒哀楽は衰え知らず。今年もマイクの前で本気で泣いて怒って笑います!

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