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カージナルスのマイク・マシーニー監督が解任された。7月14日のゲーム終了後のことで、オールスターブレイクまで1試合を残すのみの段階でのことだった。その時点で、同球団はナ・リーグ中地区の首位カブスから離れること7ゲームの3位。球団上層部からすると満足できる戦績ではなかったと思われるが、47勝46敗と辛うじて勝ち越しており、地区優勝はもちろんワイルドカードも含めるとポストシーズンへの望みは十分残っている。しかも、カージナルスはマシーニーの監督就任以降の過去6年間、リーグ優勝1度を含み地区優勝3度で負け越しは一度もない。なのに、なぜこの段階でマシーニーは監督の座を追われることになったのか。
マシーニー解任のキーワードは「現代の管理者としての資質」だ。この欠如が最終的にジョン・モゼラック球団社長をして、彼は監督として不適との烙印を押させることになった。戦績以上に選手の掌握、正に現代のメジャーリーグの監督に求められているものを象徴する出来事だった。デンと君臨し、選手に異論を挟む余地を与えないのが当然だった専制君主型がスタンダードだった数十年前とは違う。
「現代の管理者としての資質の欠如」の具体例を挙げよう。まずはデクスター・ファウラー外野手への対応だった。5年契約8250万ドルという破格の条件でFA入団し2年目のファウラーは、今季は開幕から不振で打率は1割台に低迷。出番も減少した。
すると、起用法への不満を露わにするようになり、モゼラック自身がメディアに対し「全力を尽くしていない、奮起が足りない」とコメント(管理者や上層部が第三者に選手への不満を語るのはいただけないが)、それに対しファウラーが放送禁止用語を用いて反論する一幕があった。
また、ファウラーに関しては、彼の怠慢プレーとも取れるエラーに対しジャーナリストが“swag"なプレーぶりのせいと評し、ファウラー夫人のアライヤさんが「人種差別的」と噛みつく場面もあった。ぼくは、最初はどうして「差別的」なのか理解できなかったのだけれど、調べてみると"swag"にはスラングとして「ヒップホップ的なカッコ良さ」を示す意味もあるのだそうだ。アフリカ系のファウラーによる「横着なプレー」を「あんちゃん風でイカシてんじゃん」と皮肉った表現だと言うのだ。アライヤさんは「これが白人選手のエラーだったら、swagなんて言葉使う?」とカンカンだった。ファウラーの不振・ハッスル不足問題は、結果的にアメリカでもっともセンシティブな人種差別論争にまで発展してしまったのだ。
しかし、これらの事態にもマシーニーは特に沈静化に向けたアクションは取っていない。それどころか、「マシーニーとファウラーとほとんど口を利かない関係」という報道まで飛び出した。プライドの高い個性的な25人の選手をまとめ上げなばならないメジャーの監督として、そもそもコミュニケーションを怠っているということは致命的だった。
「管理者の資質」に疑念を持たれる出来事は他にもあった。カージナルスには今季彗星の如く登場した話題のルーキーが居る。105マイルの速球を誇るクローザーのジョーダン・ヒックスだ。しかし、彼は才能は豊かだが、遅刻が多いなど集団行動にはやや問題があったようだ。
そして、ベテラン投手バド・ノリスのヒックスに対する執拗な教育的指導が「イジメ」の領域に入っているとの指摘も一部にはあった。しかし、マシーニーはノリスの対応に肯定的で、球界も「やわになったものだ」(progressively gotten a little softer)とコメントしたとの報道が流れた。となると、マシーニーによる間接的イジメとも取れる。彼の、球界に古くから伝わるクラブハウスの規律(球界の常識、世間の非常識的な面もある)や(日本ほどではないにせよ)先輩・後輩関係の重視は古臭いとして非難に晒されたのだ。
ここに紹介した2件は、ともにマシーニーに決定的な非があったわけではない。しかし、チーム内が騒ついている中で、球団フロントとしては、マシーニーをクビにすることによって収束を図るしかなかったということだろう。
マシーニーは現役時代はゴールドグラブ賞を4度受賞の名捕手で、その理知的な風貌もあり、「知将」のイメージがあったが、今回の一件を見る限り、「オールドスクール」(古臭い)のそしりを免れない印象だった。
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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