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清風、初の全国制覇
2セットを奪われ、負ければ終わり。1-2で迎えた第4セット、中盤に差し掛かる頃、誰が言うでもなく、自然に清風ベンチの中で声が響いた。
「3年が頑張ろう。最後、勝たせるのは3年の力やから」
今年1月の春高でもフルセットの末に勝利した準決勝の終盤に、同じように「2年(現3年)が頑張ろう」と声をかけたのは、セッターの森田陸(3年)だった。森田だけでなく、当時2年生の田原璃晟、石川叶真、伊藤匠太朗、2年生が多くコートに立つチームだからこそ、「自分たちがしっかりしなければ勝てない」と、自らへの鼓舞も含め、森田はベンチで声を張った。
初の全国優勝がかかったインターハイでは、春高以上にその言葉に力が入り、より強く「自分たちが頑張らなければいけない」と意識した。森田はそう振り返る。
「(2年の西村)海司や(1年の田中)杏侍、後輩が頑張ってくれて、助けられてきたので、春高で越えられなかった壁を越えるためには、絶対僕たちがやらないといけない。本気でそう思っていたので、僕だけじゃなく周りの3年も、自然にみんなが言葉にしていました」
有言実行、とばかりに3年生たちが躍動した。中盤の連続得点でリードを得ると、田原、石川の速攻や伊藤のスパイク。最後は石川のブロックで第4セットを奪取し、第5セットも石川、田原のセンター線からの攻撃が冴えた。
優勝を決めた清風
中盤に逆転されたがそこでも焦りは見せず、昨年から磨いてきた田原のバックアタックや石川のサーブで再逆転し、最後はレフトの西村へ。2枚ブロックに当てたボールが落ち、15点目を決めると、選手たちは文字通り、コート上で涙しながら崩れ落ちた。
2日続けてのダブルヘッダーで森田の疲労はピークに達し、痛みが生じたふくらはぎをガチガチにテーピングで固め、痛み止めを飲んでプレーした。「めっちゃきつかったです」と言いながらも、ようやくたどりついた日本一。
多彩な攻撃陣が揃う中、なぜ最後に西村へトスを上げたのか。森田の答えは明確だった。
「最後は海司に託そうと決めていたので、試合中から『持って行くから』と伝えていました。違うシチュエーションだったら、また別の選択肢もあったのかもしれないですけど、あそこは海司で決めたかった。それができたら、僕もチームも成長できたと言えるんじゃないか、と思っていました」
2年生エース・西村海司(清風)
アウトサイドの西村や田中だけでなく、ミドルの田原や石川、オポジットには伊藤もいて、それぞれが単独で攻撃を展開するのではなく、さまざまな場所から連動して動き、相手のディフェンスを攪乱する。
ミドルの攻撃といえば前衛の速攻、というイメージも強い中、清風では2人のミドルがともに後衛からもバックアタックに入るため、状態が整えば4枚どころか5枚攻撃も展開できるのが強みだが、個の能力に長けているのは長所である反面、それぞれの個性とクセも強い。
攻撃陣は自分が思うタイミングでトスを上げてほしいし、セッターの森田には自分が描くゲームプランもある。うまく重なれば理想に近いゲーム展開ができるが、1つ噛み合わなくなればガタガタと崩れる。インターハイもまさにそう。予選リーグ初戦の松江工業、大会3日目の準々決勝の武相戦を終えた直後、森田は同じ反省の弁を口にしていた。
「自分が緊張して、全然ダメだから周りにも伝染する。自分を含めた3年が、引っ張らなきゃいけないのに相手のペースや勢いに押されてしまう。やってはいけない試合をしてしまいました」
春高で準優勝、しかも主軸を担った2年生たちが最高学年になって多く残るとなれば、当然周囲からは「優勝候補」と注目される。「強い」と言われることは悪いことではないが、勝負がかかった場面で強くなりきれない。山口誠監督も練習時から、選手たちに「甘い」と言及してきた。
どこで変わるのか。決勝トーナメントに進出し、2回戦では埼玉栄に勝利した。徐々に調子を上げていく中で、1つのターニングポイントになったのが3回戦の東福岡戦だった。
闘志をむき出しにして戦ってくる相手の、勢いや熱量を受けてしまえば勝機はない。アナリストの分析に基づき、どう戦えばいいのか。戦術を確認するミーティングの最後に、マネージャーでアナリストの尾﨑多喜(3年)が選手たちに向けて訴えかけた言葉が響いた、というのは主将の澤田侍弦(3年)だ。
「『東福岡は1球1球に全力で気持ちを込めて、1点獲ったら全力で喜ぶ。そういう姿を見て感動したし、自分たちにはその熱量も緊張感もない』って言われたんです。多喜も勝ちたいから、僕たちを変えようとして一生懸命熱く話してくれた。多喜の分まで、自分たち3年が本気で頑張らなきゃいけない、って今までで一番強く思いました」
熱い言葉で「変わらないといけない」と思ったのは、森田も同じ。それまでは自分のゲームプランがあっても周りに伝えたり、求めることはあまりなかったが、東福岡戦を前に、森田は西村に伝えた。
「東福岡は海司の力が絶対必要だから、海司をたくさん使うけど、ダブルヘッダーの2試合目は3年が頑張って勝たないといけない。だから、海司にはあまりトスを上げないけど、それは上げたくないからじゃなくて、そういう考えがあるからだってことをわかっていてほしい、って言いました。
今までは、海司もトスがほしいとわかっていても僕は僕の考えがあったから、言わなかったし、それで雰囲気が悪くなることもあったんですけど、そのままじゃダメだと思ったから、試合中に、海司に対してあえて言葉で伝えました」
森田の考えと思いを西村も受け取った。
「陸さんにそう言われたから、自分にトスが来なくても不満はなかった。むしろ絶対大事なところで来るから、そこで絶対決めてやろう、って思いました」
優勝メダルをかけ喜ぶ清風の選手たち
優勝を決めた、決勝の1本は、まさにその象徴だった。3年が頑張って、流れを変えて、最後は3年を頑張らせてくれた後輩エースに託す。最後の瞬間を「ほとんど覚えていない」と笑いながら、山口監督が噛みしめるように言った。
「全員が、自分のやるべきことを意識して、全力を尽くす。コートに立った選手たちだけでなく、それぞれの場所、役割で助けてくれて、支えてくれた人たちがいたから、勝つことができた。全員の力で、日本一をつかむことができました」
これまでは、敗れた悔しさを力に変えて、強くなってきた。
そしてこれからは、勝つことの難しさを味わいながらもつかみ取り、歓喜の涙と共に得た自信が、またチームを強くする。
個の力を結集させて、強く、愛されるチームであり続けるために。また、新たな挑戦の始まりだ。
文/写真:田中夕子
田中 夕子
神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。WEB媒体、スポーツ専門誌を中心に寄稿し、著書に「日本男子バレー 勇者たちの奇跡」(文藝春秋)、「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。「夢を泳ぐ」「頂を目指して」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」、凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること」(カンゼン)など、指導者、アスリートの著書では構成を担当
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