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準優勝のメダルをかけた一ノ瀬 漣
準決勝も決勝もフルセット。膝につけるサポーターを足首まで下ろし、時折足首をグルグル回す。連覇を目指した鎮西の主将、一ノ瀬 漣の身体は限界を迎えていた。
「3セット目ぐらいにはもう脚に来ていて。去年、おととしも片脚どちらかは攣りそうだな、と感じながら決勝を戦っていたんですけど、今回は下半身全部が攣りかけていた。ジャンプするたびに攣って、着地したら少し治って、という繰り返しだったので、身体の面は少し、しんどかったです」
真夏の京都で、第1シードとはいえ鎮西は大会2日目の決勝トーナメントから、3日間で5試合を戦った。チーム内で最も打数が多く、レシーブの回数も多い一ノ瀬は、当然身体に残るダメージも少なくない。
現役高校生ながら今年日本代表登録選手に選出され、トレーニングや食事の重要性、トップ選手たちの身体に対する意識の高さに触れ、これまで以上に重視するようになっても、非現実的なハードスケジュールではさすがに身体も悲鳴を上げる。
しかも最終日は3セットマッチの準決勝と、5セットマッチの決勝戦が同日に行われる過密スケジュール。試合を終えてから90分のインターバルはあるが、駿台学園との準決勝も1セットを先取されてからフルセットでの逆転勝ち。いくら高い意識を持ってインターハイに臨んでいたとはいえ、決勝終盤では踏ん張りがきかなかった。
だが、それでも言い訳ひとつすることなく前を向く。決勝も2-1とリードしながら逆転負けを喫し、「悔しさはある」と言いながらも、一ノ瀬が口にしたのはそれ以上に得た収穫だ。
「今年は春高優勝を目標に掲げてきました。もちろん、インターハイも日本一になれたらそれは最高ですけど、でもそれ以上に、最後に勝つためのチームになることのほうが今は大事。1年生も多く出場した中で、ここまでできたのはむしろよかったと僕は思います」
鎮西バレーといえば、おそらく多くの人たちが「エース勝負」を思い浮かべる。宮浦健人や水町泰杜(ともにウルフドッグス名古屋)に象徴されるように、背番号「3」を背負ったエースで主将、チームの軸となる選手が攻撃の大半を担ってきた。
背番号3を背負った一ノ瀬
1年時から出場した一ノ瀬もまさにエースの系譜を継承する選手として期待を集め、最高学年になった今年、主将になった。しかも繰り返すようだが、高校3年生で日本代表に選出され、アルゼンチンとの親善試合も経験した。爆発的な攻撃力で、インターハイでも一ノ瀬が無双するのではないか。多くの人たちが想像するであろう中、鎮西が見せたのは新たな戦い方だった。
セッターの岩下遼大、ミドルブロッカーの柳千翔、アウトサイドヒッターの田中雅輝、リベロの竹脇銀、4人の1年生が長い時間コートに立ち、セッターの木永青空(3年)と岩下がツーセッターで入り、一ノ瀬だけでなくミドルやライト、さまざまな攻撃を織り交ぜる。
準決勝の駿台学園戦はまさに象徴的で、1セットを失った後、2セット目からはライトの田中の攻撃を多く使い、田中が決める。
駿台学園の落合康陽主将(3年)が、「一ノ瀬選手に3枚ついて最初はタッチを取ったり、レシーブで拾えていたけれど、ライトからの攻撃が止まらなかったのでブロックを1枚入れなければならず、一ノ瀬選手が2枚になったところで上からも脇からも決められた」と明かしたように、一ノ瀬『だけ』ではなく、さまざまな攻撃がある中で、ここぞという時に決めるエースがいる。
今年1月の春高で東山に敗れてから、新たに「春高優勝」を掲げてスタートするチームに向け、宮迫竜司監督は「攻撃を幅広く変えることにチャレンジしてきた」と明かす。
「今の高校バレーはかなりレベルが高くなっていて、データを取るのは当たり前だし、戦術もハイレベルです。その中で、どういう戦い方をするか。めちゃくちゃ迷いましたけど、でもコンビバレーのバリエーションを増やすことは必要だし、チーム内の競争を激化させることも必要。
たとえば今回もセッターで岩下が前半出て、エースだけでなくクイックやライトを使って仕掛けてくれた。そこに途中から木永が入って安定させる。いろいろな攻撃を使っても、最後、大事なところは一ノ瀬、というのは変わらないですけど、そこまでの持って行き方が違う。負けて、泣いている選手もいましたけどまだこれからなので、泣くな、と。負けた悔しさよりも、インターハイで大きな収穫を得ることができました」
宮迫監督だけでなく、手応えを示すのは一ノ瀬も同じだ。
「高校もデータバレーが主流で、鎮西はエースバレーではありますけど、それだけじゃなくディフェンス力も上がったし、今回そこからいろいろな攻撃ができたことも含めて、またひとつ、鎮西のバレーが成長できる年になるんじゃないかな、と思っています」
春高バレー優勝を目指す鎮西
エースとして得点を取ることはもちろんだが、インターハイではもう1つ、キャプテンとして、3年生としても心がけていたことがある。自分が1年生の頃に先輩たちから助けてもらったように、後輩たちがのびのびとプレーできるように、声をかけ、背を押し、「楽しくやればいい」と促すこと。
準決勝も決勝も、劣勢や拮抗した場面で相手に得点が入ると、「切り替え、切り替え」と声をかけ、周りの選手たちに過去ではなくこれからを見ればいい、とばかりに声をかけた。
その姿を、ミドルブロッカーで一ノ瀬と同じく1年時から出場を重ねて来た平川陽翔(3年)は、「自分も今まで以上に声をかけることを意識してきたけれど、漣は常に周りのことを考えて、自分で得点も取る。本当に頼もしいキャプテンだと思った」と言うように、エースとして、主将として、コートの中で圧倒的な存在感を発揮していたが、一ノ瀬自身は「むしろ自分がやることがないぐらい後輩たちがしっかりしていた」と笑みを浮かべる。
入学直後から『スーパー1年生』として注目を集めた一ノ瀬も最終学年を迎え、最後のインターハイを終えた。昨年は優勝の歓喜を味わい涙した。今年はまた違う、別の喜びをかみしめていた。
「観客の数がものすごくて、本当に1プレー1プレー終わるたび、どの角度からも歓声が起こるので、自分たちも常に楽しみながらプレーすることができました。応援に後押しされながら、こういう舞台でチームとしてもアップデートすることができたのは、全員にとって、本当に大きな経験になりました」
一度見れば誰もが魅了される大エースの存在だけでなく、チーム内競争で刺激を与えあい、切磋琢磨しながら、さらに進化を遂げる鎮西が、次はどんなバレーを見せるのか。楽しみしかない未来が、広がっていくはずだ。
文/写真:田中夕子
田中 夕子
神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。WEB媒体、スポーツ専門誌を中心に寄稿し、著書に「日本男子バレー 勇者たちの奇跡」(文藝春秋)、「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。「夢を泳ぐ」「頂を目指して」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」、凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること」(カンゼン)など、指導者、アスリートの著書では構成を担当
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