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W杯で初の表彰台を獲得した中村直幹
■風に負けず躍動した中村直幹
猛烈に寒く冷え込みが厳しい、いつものフィンランド、クーサモ・ルカだった。
スタート台の頭頂部にある2本の大型なフィンランド国旗が風に吹かれて、右から左へとバタバタと揺れている。それも毎度の光景、しかも白夜、とにかく寒い土地柄だ。
ここは、突如として横風が吹き抜けてくる。
ノルディック複合の強豪で優勝候補のリーベル(ノルウェー)は、その風に左スキーをあおられ、転倒こそ巧く避けたものの飛距離を伸ばせずに着外へと去った。
かつては、オーストリアの英雄トーマス・モルゲンシュテルンが強風と荒れた風に叩かれ大転倒して奈落の底に沈んだこともある。
その風に充分に気を付けながらサッツを切り、空中へ飛び出さなければならない。そういう落ち着いたジャンプが望まれるシャンツェがクーサモ・ルカだ。
ここにきて、W杯開幕戦ヴィスワの10番代から尻上がりに調子の波に乗ってきていた中村直幹(フライングラボラトリー)が3位表彰台に入った。それも144mと139.5mと風に負けることなく、特に120mあたりの小さな吹き上げの風を上手く捉えていた。
今季から、拠点をドイツのバイエルン地方ミュンヘンへ移した中村直幹。クレバーさが持ち味、そしてテストを繰り返して手にした青いフリューゲのスキーで見事に成功を収めた。
もとから熱心に語学を学び、英語とさらにドイツ語をマスターしようという才覚にあふれる好選手。キャビンあたりで他国チームやコーチ、地元テレビクルーらと談笑する姿も見られる。今後の上位定着と念願の初優勝がいよいよ現実を帯びてきたと感じさせる活躍ぶりだ。
■SNOW JAPANそれぞれの現在値
現在、マテリアルの調整から復調の道にある佐藤幸椰(雪印メグミルク)。これがいまの実力と現実なのだと謙虚に受け止めながらも、これ以上は下がらないと歯を食いしばり、ポジティブに前へ向かっていくと心に決め、じっと雪のシャンツェを見上げていた。頼りになるのは雪印メグミルクの師匠、岡部孝信監督と若き伊東大貴コーチ、そして敏腕の鈴木翔サービスマンであろう。孤独な精神修行が欧州でしばらく続いている。
そして五輪金メダリストながら、少しだけ鳴りを潜める形にある小林陵侑(土屋ホーム)はスーツのルール変更と対峙しながら、こうなればこのようになりそうだとの予測を組み入れた冷静なジャンプに終始する。勿論、これからの攻めの展開が楽しみだ。それも闇雲に勝利だけを目指すのではなく、いまの自分にできること、やらねばならないことをしっかりと心に見据えているに違いない。まずは、ジャンプ週間で勝利すること。そして久々に開催される札幌W杯3連戦で連日表彰台に上がること、願うことなら3連勝である。つねに強敵がひしめき合うハイレベルなW杯シーンにおいて手堅く表彰台に絡んでいくことが連覇に向け肝要である。さらに2月には、普段のチーム合宿で慣れており良いイメージが掴めているスロベニアのプラニツァ世界選手権で、メダル獲得を狙い突き進む。
■好調さが光るオーストリア勢
海外勢では、オーストリアチームが良い状況だ。ルカで2位と優勝を獲得したクラフト、前年好調のフェットナーは好位置につけ、ハイバックが復活を果たした。マイペースで夏場を過ごしたクラフトは心にゆとりがあり軽やかな飛行が冴え渡っている。日本でも人気の高いクラフト。札幌W杯では、大倉山にクラフトファンが大挙駆け付けるであろう。
ノルウェーは順当そのまま年明けの試合に向け足場を固めている。ルカで同率優勝したグランネルー、快調なリンヴィーク、髭のヨハンソン、にこやかなフォルファング、タンデという硬軟織り交ぜての攻勢に出てきそうな予感さえある。どこからでも攻め込める分厚い選手層は他国にとって脅威であろう。
ドイツは嬉しいことに五輪金メダリストのベリンガーが、時間は掛かったがルカでの2戦目で7位に入り復調の兆しが見えてきた。
逆に上位安定かと思われたポーランドは、ルカでの最高位がクバツキの4位とトーンダウン。サマー仕様ごとく緑の様相となった開幕戦2連勝はフロック扱いなのか、やはり真っ白な雪の上が本当のスタートであろうとの声もあり、一瞬、躊躇の状態。ただ、個性派のズィラは我関せずとルカで3位に昇った。
また世界選手権を控えるスロベニアは、ラニセクが豪快に飛ばし、そこにはベテランのプレフツが堅実にリードして、若手選手たちを伸びやかに飛ばせてあげる気風にある。
W杯は欧州内陸部へと場所を移し、ドイツ南部の黒い森シュワルツワルド地方の北向きで大きなシャンツェ「ティティゼー=ノイシュタット」での3連戦≪12/9(金)~11(日)≫となる。ここは雪が少なそうでいくらか濡れ雪になりそうな気配もしている。そこからスイスへ入り、山風と谷風でつねにバック風が吹き降ろす「エンゲルベルグ」≪12/17(土)~18(日)≫。その風をかつての船木和喜選手のように美しく攻略せしめて欲しい。そこに、日本ジャンプの美学がある。
W杯ジャンプの立ち上がりは混戦模様となり12月へ突入する。
開幕大会で目覚ましい活躍を見せた山本涼太(長野日野自動車)
■山本涼太の快挙
W杯開幕戦のルカでは、山本涼太(長野日野自動車)が2位と4位、続くマススタートで3位に入る進撃をみせた。この快挙は、クロカンスキーの丁寧な快走、そしてバランス良いジャンプの強化および、シェルブルさんとエサさんの信頼ある熟練のサービスマンワークが行われているからこそ。山本涼太は、今後もベストジャンパーのビブは、簡単に渡しはしないという気概で、虎視眈々とW杯優勝を狙って欲しい。
若き久保貴寛ヘッドコーチがまとめる快調著しいノルディック複合で心強いのが北村隆テクニカルコーチ。日本チームウエアにマッチする黒色のイカ帽を取り出してコーチボックスからセンスよく旗を振り下ろしている。ここ一番における青色のイカ帽は先の大一番に取っておくつもりのようだ。
ノルディック複合の山本涼太(長野日野自動車)
また、複合チームでは山本涼太の弟・山本侑弥(早稲田大学)がひたむきに続いており、いずれ山本兄弟の時代がやってきそうな雰囲気があるのだから楽しみでならない。
文・岩瀬 孝文
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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