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大いなる快挙を達成した小林陵侑
2度目 W杯個人総合優勝を達成した小林陵侑
ついに成し遂げた2度目のスキージャンプW杯個人総合優勝。
それも年末年始に行われる4ヒルズトーナメントを制し、続く2月の五輪で金と銀メダルを獲得した勢いそのままに、大いなる快挙達成となった。
「日本に帰られずに欧州を転戦して、じつにタフなシーズンになりました。それでもW杯個人総合と五輪金メダルを取れた、それが嬉しくて」
いつもながらの落ち着いた微笑みで応えた小林陵侑(土屋ホーム)は、何が起きようとそのクールな姿勢を崩しはしなかった。
今季の序盤は、新型コロナウイルス陽性判定の影響で3試合を欠場したが、隔離中の孤独にさえ負けず、最終的にはW杯8勝をあげた。そして、日本へ帰国できないチームメイトと一緒に踏ん張りをみせて北京五輪で勝利。W杯後半戦は、頭脳派らしく、現状の体調を加味しながら、安定した力で持続優先のジャンプに徹した。
一時、イエロービブを奪回したライバルのガイガー(ドイツ)は、彼の絶妙な戦略に終盤のW杯フライングシリーズでは、いささか諦めに近い飛びを見せるに至った。そういった勝ち運と好い風は、つねに勇者陵侑へ吹き寄せてきたのだ。
後半、対抗してきたクラフト(オーストリア)は、国別タイトルを得て満足そうにシーズンエンド。さらにチームで追い上げの激しさをみせてきたスロベニア勢の手も陵侑に届かずであった。
北京五輪に現場レポーターとして入っていた葛西紀明(土屋ホームスキー部監督兼選手)は愛弟子ROYの快挙に喜びの色を隠せず声のトーンも上がりっぱなしとなった。
「しっかりと個人総合優勝を貰うと思っていました。W杯開幕立ち上がりのスーツ失格や感染症による隔離があり、苦しさはあったでしょうが、たいしたもの。まだ自分としては、TVコメンテーターよりは選手の方が楽しいです。もちろん監督としての重責がありますから。次の五輪を狙いつつですね、さらに気を引き締めて指導にあたります」
いつものにこやかさは変わらず、W杯海外試合復帰へのプランを練り上げるノリさんだ。
最終戦で花咲いた佐藤幸椰と有終の美を飾った伊東大貴
最終戦で欧州ファンの度肝を抜いたのは、佐藤幸椰(雪印メグミルク)が記録したパーソナルベスト242.5m。スロベニアのプラニツァで尻上がりに好調の波に乗り、身体を低くしてたたみ込むアプローチから爆発力を持って弾丸のごとく飛び出し、地元スロベニア勢の追随を許さず、見事に2位表彰台へと昇った。これは雪印メグミルクチームのベテラン鈴木彰サービスマンと、長年一緒に前を見据えて考え歩む道、それが一気に開花した結果であろう。
そして忘れてならないのは、今季限りで引退を表明した伊東大貴(雪印メグミルク)。札幌市内で引退記者会見を行い、国内最終戦の伊藤杯ファイナル札幌大倉山で飛んだ後、W杯プラニツァ大会団体戦で有終の美を飾るジャンプを見せてくれた。
引退後は雪印メグミルクのコーチに就任する。「チーム間の垣根を越えてなんでも聞いてきて」という人望の厚さや故障に悩んだ自身の経験は、今後のコーチ人生に活かされるに違いない。
伊東大貴(雪印メグミルク)引退記者会見
この冬、困難を乗り越えた日本チーム。小林陵侑の活躍に目が行きがちだが、卓越したリーダーシップが光る小林潤志郎(雪印メグミルク)の存在は大きかった。弟・陵侑のサポートもさることながら、長期欧州遠征で気がめげそうな選手に盛んに声をかけて上手くチームをまとめあげていた。このような功績も見事なものである。
またマイペースながら賢明に飛ぶ中村直幹(フライングラボラトリー)は、W杯初優勝を飾り“複合女子クロスカントリースキーベストスキーヤー賞”に輝いた妹・安寿の活躍に良い刺激を受けていた。若き佐藤慧一(雪印メグミルク)は惜しくも五輪を逃したが、これから伸び盛りを迎える。故郷の北海道下川町へと休息に戻り、慣れ親しんだ地元のジャンプ台を見つめながら軽くランニング。気持ちを入れ替えて、前向きな姿勢で次のシーズンへと進んでいる。
楽しみな国内のジャンプシーン
一方2030札幌五輪が望まれる国内のスキーシーンに目を移そう。
感染症下で静まり返る地元札幌の商店街を何とか活性させたいと願う市民の想いもある。そこに小中学生の子供たちの夢が重なり、指導育成を担う五輪金メダリストの阿部雅司氏(札幌オリンピックミュージアム名誉館長)らオリンピアンの方々の地道な活動も脚光を浴びてくる。そこに引退した伊東大貴コーチが加わり、2030におけるメダル獲得の目標と素晴らしいパフォーマンスを目指そうという熱い思いに包まれる。スポーツは人と豊かな人間性を作り上げる一助に成り得るのだ。
国内では、坂野旭飛(下川商)や工藤漱太(雪印メグミルク)、二階堂連(NSC札幌)、実力派の金子祐介監督(日大OB)率いる東京美装チームの岩佐勇研に渡部陸太と怪我からいち早く復調を見せた渡部弘晃など実力ある選手たちが控えている。彼らの台頭を含め、次期シーズンの日本チームは本当に楽しみでならない。
海外勢の今シーズンを振り返る
海外勢ではノルウェーのグラネルとリンビクが上位につけ、大怪我から復帰したタンデは引退。ヨハンソンは髭を落としてから少しばかり下降線、そこに上昇機運にあふれるフォルファンが戻りチーム力を上げた。
強豪ドイツチームにおいては、個人総合2位のガイガーと気迫のアイゼンビヒラーを中心にライエらでチームの底上げを果たした。ただ、実績あるフライタクとフロイントが引退。
同じく強者揃いのオーストリアチームは、クラフトが孤軍奮闘かとみられたが、ベテランでいぶし銀のごとく活躍を見せてくれたフェットナーに、若いフーバーとヘールなどでチーム力を維持、ここに2トップのひとりハイバックが故障明けで戻ってきた。
スロベニアにはペーターとセネ・プレフツ兄弟を筆頭に若手のラニセク、ザイチ、コスらが切磋琢磨している。今季の目覚ましいチーム力アップは、念願となった2023プラニツァ世界選手権を目指して強化予算がふんだんに用意された効果が結びついたものだった。
ポーランドは、エース格にあるストッフとクバツキ、ジラが健在ではあるものの低迷のシーズンを送ってしまった。若手の育成はアダム・マリシュチームコーディネーターの手腕にかかっており、来シーズンの復活に期待したい。
名門チームのフィンランドは大柄で温厚なヤンネ・バータイネンヘッドコーチの足場を固めた強化育成が始まったばかり、いましばらく時間がかかりそうだ。
来季は新ルールの導入が見られそうなだけに、新たな闘いが待つW杯シーンといえるだろう。それには夏場からの入念なトレーニングをかしてもなお、ひたむきに進むことが肝要だ。そして久方ぶりの札幌W杯開催においてエース小林陵侑による連勝と、同僚佐藤幸椰との魅惑のワンツーフィニッシュなど日本チームの活躍に早くも期待をしてしまう。来シーズンのジャンプシーンも目が離せないこと間違いないだろう。
●スキージャンプ2021/2022(男子)全成績
1. 小林陵侑(土屋ホーム)1621
2. ガイガー(ドイツ)1515
3. リンビク(ノルウェー)1231
4. グラネル(ノルウェー)1227
5. クラフト(オーストリア)1069
6. アイゼンビヒラー(ドイツ)950
7. ラニセク(スロベニア)936
8. ザイチ(スロベニア)711
9. ヘール(オーストリア)662
10. C.プレフツ(スロベニア)657
11. フーバー(オーストリア)556
12. ヨハンソン(ノルウェー)531
13. 佐藤幸椰(雪印メグミルク)530
14. ジラ(ポーランド)480
15. P.プレフツ(スロベニア)460
31. 中村直幹(フライングラボ)196
32. 小林潤志郎(雪印メグミルク)179
39. 伊東大貴(雪印メグミルク)88
49. 佐藤慧一(雪印メグミルク)38
文・岩瀬 孝文
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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