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今季初優勝を遂げた小林陵侑
今季のW杯開幕シリーズは雪を求めてロシアのニジニ・タギルでの連戦、そしていつものノルディック複合とクロカンスキーが同時に開催されるフィンランドのクーサモ・ルカと続いた。
どちらもすこぶる寒さに包まれるジャンプ台である。クロスカントリースキーでは、気温の上昇を見越してスタート時間を遅らせるほどクーサモは極寒となった。
小林陵侑(土屋ホーム)は、この開幕シリーズでアクシデントが続いた。
初戦で2位表彰台に昇り意気揚々としていたが、翌日の予選でよもやのスーツ規定違反で失格。ベルト位置の部分に余裕があるとの理由だが、これは極寒での移動疲れにより食が細くなっていたことが原因としてあげられていた。
ただその他にも要因があるような気がしてならない。この時は4位に気鋭の中村直幹(フライングラボラトリー)、10位佐藤幸椰(雪印メグミルク)、11位小林潤志郎(雪印メグミルク)、15位には伊東大貴(雪印メグミルク)が入ってきたこともあり、一応、日本チームをチェックしておこうとの思惑があったのかも…しれない。
日本のジャンプファンとしては『また強い日本を狙い撃ちしている』と、真実とも憶測とも捉えられかねない意見は出てしまうだろう。
その後一転、小林陵侑は気を取り直し、慣れ親しんだフィンランドの食事をしっかりと摂ってルカでの第3戦で今シーズン初優勝を遂げた。ただ、その後におけるCOVID-19陽性反応から次の試合以降の2試合を欠場となったのだから、もうどうしたことか。
だが、それでめげて落ち込んでしまう小林陵侑ではない。体力を整えながら静かに移動し、じっくりとその先のW杯に思いを馳せていることだろう。その小林陵侑の復帰はクリンゲンタールとなりそうだ。
中村直幹(フライングラボラトリー)
小柄なファイター佐藤幸椰(雪印メグミルク)は、好ましい調整をしながら、一桁入りを繰り返しており、12月のゲームに期待を寄せた。
いきなりの4位に自信を得た中村直幹(フライングラボラトリー)が、いよいよ表彰台へ、その時期が待ち遠しい。
お兄ちゃん気質がありチームリーダーの素養にあふれる小林潤志郎(雪印メグミルク)は、安定路線を貫きつつ、どこからでも一桁入りを目指せる気運に満ちている。
注目の大型選手で道北の名寄育ちの佐藤慧一(雪印メグミルク)は、スキーの滑りに苦慮している状況、そこからの奮起がみられそうだ。
ヨーグルトを食べると笑顔に包まれる伊東大貴(雪印メグミルク)は、さすがベテランの妙で15位や14位を記録するなど、ここ一番で下降気味にあったチームを立て直してくれた。
SNOW JAPANを牽引する佐藤幸椰(左)、小林陵侑(中央)、小林潤志郎(右)
海外勢では、ジェットコースターのように優勝してから次に予選落ちを喫したグラネル。いぶし銀の存在ヨハンソンがコンスタントに上位につけ、そこにタンデが復調してきたのは嬉しい。
ドイツは強者ガイガーとアイゼンビヒラーの二人が引っ張り、ケガが癒えたライエが確実に続いている。
オーストリアは、開幕戦でクラフトが風により予選落ちとなり驚いたものの第2戦ですぐに3位入った。そこに若手フーバーなどが上昇、さらには個性派フェットナーが果敢に飛ばしつつ、相変わらずスキー王国の心意気を有する。
またスロベニアは若手のラニセクが第4戦で優勝を遂げ、それもまだまだ余力に富むジャンプを見せている。
ところで極寒の開幕シリーズで、有力チームのポーランドが鳴りを潜めているのは不可思議、ストッフは初戦の予選において首位となったが、そこまで。有力選手のクバツキはまだまだこれから。夏に強さを見せたジラは、はてさてどうしたことか。
12月5日には大勢の地元ジャンプファンを前に、せり上がりのフィニッシュエリアが特徴的なビスワ(ポーランド)が開催をみる。ポーランドチームはここで前日4日の団体戦で好成績を残したいと切に願っているだろう。
ジラ(ポーランド)は夏の好調を活かすことができるのか!?
その翌週11日と12日、新型シャンツェで名高いクリンゲンタール(ドイツ)では、ドイツ注目のガイガーとアイゼンビヒラー、ライエがともに上位を狙ってくる。
クリスマス休暇前の18日と19日には、つねに強烈なバック風が吹き抜ける難儀なエンゲルベルグ(スイス)。ここでは地元ベテランのアマンと復調したキリアンが上昇してきそうだ。当地は日本人のスイス在留ジャンプファンの皆さんが、ルツェルンあたりから登山電車を乗り継いでやってくるスキーの保養地で、かつては船木和喜選手がその逆風を逆手に取りランディングバーンを低く舐めていくような飛行で大活躍したジャンプ台である。
その後、年末年始のジャンプ週間へとなだれ込むことになる12月のW杯。各大会で目が離せない展開となりそうだ。
さてW杯出場が569試合と、まだまだ世界記録を更新できそうな葛西紀明(土屋ホーム)はフィンランドのロバニエミ市オーナスバラスキー場にあるジャンプ台で熱心にトレーニングしている。やはり天然雪ではジャンプスキーの滑走感覚が素晴らしく、そこに長野県飯山市でジュニア育成のジャンプイベントを主催した竹内択(チームタク)を呼び寄せ、ともに入念な練習にあたっていた。
欧州の状況が混とんとしてきているが、日本選手は安全第一に移動し、堂々とおおらかに各ジャンプ台を攻め込んでいって欲しい。
文・岩瀬 孝文
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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