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かつてのフィンランドの強さは、いったいどこへいったのだろう。
あのクールな王者ヤンネ・アホネンが、にこりともせずに静かに表彰台の中央へあがる。
彼は、ほんとうに笑わなかった。
フィンランドではその前の時代に、あの酔いどれ天使マッティ・ヌカネンが、何度も飲酒によるトラブルを起こしながらも、その勝利と五輪金メダルの数々で、いまでも国民に愛されているのだ。強豪その名のごとくかつては国別対抗において堂々の優勝を飾り、名将ミカ・コヨンコスキとカリ・パタリなどの有能なコーチ陣で、見るからに栄華を誇っていた時代があった。
ところがいまやジャンプやノルディック複合チームのスポンサーが減少、強化合宿や選手育成に支障が出てしまうくらいにまでなってしまっていた。しかもヘッドコーチは国内における調整がつかずオーストリア人にしてしまうくらい、ばらつきのある状況だ。
さらには、将来性ある若手選手で固めていたノルディック複合チームも低迷が続き、あの勇者ハンヌ・マンニネンの復帰に期待をかけるという話さえ浮上している。
またジャンプチームも同様、引退して故郷ラハティで、悠々とカーレースなどに興じていたアホネンを引っ張り出し、これさえもスポンサー対策の末にと言われ、いったい来年2月の地元ラハティ世界選手権2017はどうなるのであろうとの心配も。やはり地元選手の活躍がなければ大会は盛り上がらない。
いまや、冷え込むフィンランドそのものだ。
だが、そこは歴史的なジャンプ強国だ。フィンランド北部クーサモ・ルカでのW杯となると俄然、力が入ってしまうフィンランドの人達だ。
その開幕戦では、こぞってチケットを予約購入、日照時間が少ない白夜のなか、ジャンプ台やクロカンコースに張り付いて、出場各国の選手に大声援をおくり、焼きソーセージのマッカラをほおばり、飲み過ぎに気を付けながらラピンクルタビールを飲んで試合を楽しむ。
そこでもやはり人気選手はリアル・レジェンド葛西紀明だ。
「フィンランドには夏のトレーニング合宿と冬のW杯直前合宿に毎年、来ているのでもう好きなオートミールからサウナやなにもかも、心安らぎますね」
冬、開幕へ抜群の調整力を持つ葛西選手だった。
強風が舞うクーサモとはいえ、ノリさん得意の台である。
そこは熟練の妙で、果敢に攻め込んでいくのみだ。シャープなジャンプをみせる伊東大貴(雪印メグミルク)は過去にルカW杯団体戦で表彰台の経験を持ち、風さえつかめば、とことん飛ばしていける。さらに竹内択(北野建設)もフィンランド留学時代に、あのオーストリアのモルゲンシュテルンが、キリもみ状態で転倒していった狂った風のなかで平然とテストジャンパーを務めた。空中姿勢に張りが出てきた作山憲斗(北野建設)もロングジャンプを狙ってやまない。そして新鋭20歳の小林陵侑(土屋ホーム)はトレーニングで慣れているフィンランドの風、そのソフトなランディングで周囲を魅了してくれることだろう。
海外勢では、ドイツは落ち着きのフロイントといつも強気なヴェリンガーに長身のヴァンクなど、とことん選手層が厚い強豪チームだ。
オーストリアは、柔和な好青年クラフトに気迫のハインバック、ここにきてシュリレンアウナーの去就が取りざたされ、一説にはジャンプ週間から登場との話も聞こえてくる。
ノルウェーはロングジャンパーが揃い小柄なファンネメルから大型選手のフォルファンなど、どこからでも確実に攻めることのできる個性ある選手が揃う。
スロベニアは個人総合優勝を果たしたプレフツと弟のドメンら複数の選手がリードする。
ポーランドは、今季あらたにジャンプ総合コーチに就任したアダム・マリシュの手腕に期待だ。さらにはそのときに指導していたタイナーヘッドコーチもチームの重鎮として復帰をみせた。
また今季からはコーチを兼任する感にある、寒風の台ルカが得意なシモン・アマン(スイス)も見逃すことはできない。
「11月前半の蔵王合宿で20本くらい飛びました。新しいジャンプシューズのテストを兼ねて。W杯を意識した良いトレーニングができたと思います」
この時期、ていねいに技術の確認とマテリアルテストを繰り返していた竹内択(北野建設)だった。
日本チームは、ドイツとスイスを経て、クリスマス前に帰国。万全の調整をもって年末年始のジャンプ週間にアタックする。願うことなら日本チームは開幕のピリオドで各選手が上位に連なり、あとひとつW杯出場枠を増やしたいところ。
さて、強風が舞い上がる北欧フィンランド、冷えるクーサモ・ルカを制するのは!
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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