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ボーデン・バレット
「アイルランドが37フェーズ攻撃したあの試合」――。
ラグビーワールドカップ(RWC)2023フランス大会の準々決勝。
世界ランキング1位のアイルランド(プールB・1位)と、同4位のニュージーランド(プールA・2位)の一戦は死闘になった。
戦前評はニュージーランド不利。それもそのはず、昨年本国ではシリーズ1勝2敗と負け越し。
しかし。
2本のペナルティゴール(PG)で6点を先制したニュージーランドは、前半19分だった。
今季トヨタヴェルブリッツでプレーするFBボーデン・バレットが防御裏へのショートパントを再獲得。ここでモメンタム(勢い)を生み出し、WTBレスター・ファインガアヌクが両軍最初のトライ(ゴール成功)。
下馬評を覆す猛攻で、ニュージーランドが開始20分で13点をリードした。
バンディー・アキ
アイルランドも1分後(前半22分)、今大会での引退を表明している38歳、SOジョニー・セクストンのPGで3点。絶好調のCTBバンディー・アキのトライも加え、前半30分までにスコアを3点差(10-13)まで縮めた。
息を呑むハイレベルな応酬は続いた。
アイルランドのNO8ケーラン・ドリスがジャッカルでエリアを押し戻せば、ニュージーランドのWTBウィル・ジョーダンがキック「50:22」で前進。
ここからニュージーランドは前半33分NO8アーディー・サヴェア(今季よりコベルコ神戸スティーラーズ)の2トライ目に繋げてみせた。
しかし前半37分に転換点。
ニュージーランドのSHアーロン・スミス(今季よりトヨタヴェルブリッツ)が、故意のノックオンによりシンビンに。
14人の間にニュージーランド出身のSHジャミソン・ギブソンパークにトライを奪われ、アイルランドはビハインドを1点(17-18)に縮め、後半へ向かった。
ラグビーワールドカップ2023 フランス大会 準々決勝
【ハイライト動画】アイルランド vs. ニュージーランド
ここでオールブラックスは粘った。
後半開始から追加点を許さない。守り切り、SHスミスが戻って15人となると後半13分。
リッチー・モウンガ
ニュージーランドは大会後に東芝ブレイブルーパス東京出プレーするSOリッチー・モウンガの俊足が閃き、ラインアウトの一次攻撃でビッグゲイン。フォローしていたWTBジョーダンのトライに繋げた。
キック成功でリードを8点(25-17)に広げたこのトライが大きかったと、今大会後に退任するニュージーランドのイアン・フォスターHCは振り返った。
「長い距離を走られてトライを取られるとチームは意気消沈するもの。このトライの結果、私たちは(リードを)8点に広げることができました。勝敗を分けた大きな瞬間でした」
しかし世界ランク1位、17連勝中のアイルランドは気迫をみせる。
過去9大会中7大会で準々決勝敗退。一度も決勝トーナメントでの勝利がない過去を変えるべく、後半23分にモールで攻勢。
ここでアイルランドにペナルティトライ。反則でトライを防ごうとしたニュージーランドHOデイン・コールズがシンビンとなった。
が、その後、アイルランドは得点を重ねられなかった。
「2枚のイエローカードをもらいましたが、粘り強く戦いました。今夜はディフェンスが際立っていました」(ニュージーランド・FLサム・ケイン主将)
14人のニュージーランドはPG加点でリードを4点(28-24)に広げると、後半30分だった。
ゴールラインを背負ったが、CTBジョーディー・バレットが会心のトライセーブ。グラウンディングを許さぬ巧みなボディコントロールで、勝利を手繰り寄せた。
試合終盤、4点ビハインドのアイルランドは逆転トライを目指し、37フェーズにわたる連続攻撃を重ねた。「37次」はテストマッチでまず見ない数字だ。
ニュージーランドのFLケイン主将は「今までに見聞きしたことがないほどの連続攻撃だった」と振り返り、チームの守備を誇った。
「今夜はディフェンスのおかげで勝利を勝ち取りました。ワールドカップで優勝するチームはディフェンスが優れていることは歴史が証明しています。これを今後の私たちのスタンダードにします」(FLケイン主将)
最後は途中出場していたサム・ホワイトロックがジャッカル成功。アイルランドの38フェーズ目はなかった。
オールブラックスは歓喜に湧き、前半シンビンを受けたSHスミスはしゃがみ込み、目頭を押さえた。これでアイルランドは8度目の準々決勝敗退となった。
アイルランドのアンディ・ファレルHCは試合後、勝負について「微々たる差」と語り、敗着の決定的プレーにニュージーランドのCTBバレットによる「モールの後に相手に抱えられた場面」を挙げた。
「アイルランドラグビーに関わる全ての人のことを誇りに思います。スタッフも過去4年間、素晴らしい仕事ぶりでした」
無念の結末で引退を迎えたSOセクストン主将。最後の37次攻撃を振り返って「あれだけ多くのフェーズを重ねたことが、このチームが何でできているかを表しています。全てを出し切りました」と語った。
そしてアイルランド代表の未来について話した。
「本当に素晴らしいチームです。彼らは私以外の誰かによって率いられ、また立ち上がり、今後素晴らしい功績を成し遂げるでしょう。私はその時、皆さんと同じようにスタンドでビールを飲みます」
ニュージーランドのフォスターHC。不振による解任騒動まであったが、大一番を乗り越えた。
「ひとつのミスで試合が逆の展開になっていた可能性もあります。このような試合を経験しなかったらワールドカップに出場したとは言えません」
次戦は南半球4カ国対抗戦で毎年対戦しているアルゼンチン。
「アルゼンチンのことはよく分かっていますし、相手も私たちのことをよく理解していると思います。南半球のチーム同士の試合なので、もの凄い試合になるでしょう」
「もの凄い試合」の鉄笛は、日本時間10月21日の午前4時に鳴る。
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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