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木村貴大選手
ポジティブなエネルギーを発する27歳だ。
リーグワン(前トップリーグ)1部の東京サントリーサンゴリアスに新加入したSH木村貴大(たかひろ)。
2度にわたる所属チームの活動中止(2020年のサンウルブズ、21年のコカ・コーラ)など、多くの困難を経験したが、そのたびにフィジカリティ溢れるパサーは持ち前の行動力、コミュニケーション能力で乗り越えてきた。
主将も務めた東福岡時代は3年間無敗で、花園3連覇を経験。フランカーとして高校日本代表、U20日本代表に選出された。
筑波大学3年時にスクラムハーフに転向し、卒業後は豊田自動織機で3季プレー。しかし日本代表で活躍するために、クラウドファンディングを活用してニュージーランド(ワイカト)に短期留学。サンウルブズ、コカ・コーラを経て、東京サンゴリアス入りを果たした。
サンウルブズでは英語力を活かしてチームの潤滑油となり、チーム内表彰の「チームマン・オブ・ザ・イヤー」を受賞。人間力、発信力も魅力のチームマンに現在、過去、未来を訊ねた。
「スクラムハーフの競争が一番激しいチーム」で切磋琢磨
――所属していたコカ・コーラの年内廃部が20年4月に公表され、同年7月に東京サンゴリアス入りをしました。
コカ・コーラの年内廃部が決まってからチームを探していましたが、その中でサンゴリアスからオファーを頂きました。一番ワクワクしたのですぐに「行きたいです」と返事をしました。
――チームからどんな貢献を期待されていると思いますか?
サンゴリアスはスクラムハーフの競争が一番激しいチームだと思うんですが(所属SHは2019年W杯日本代表の流大、21年度日本代表の齋藤直人、年代別代表経験の大越元気)、そこに食い込むことを期待している、と言ってもらいました。サンゴリアスで競争に勝てば日本代表になれると思っています。まずは先発としてチームに必要とされることを目指したいです。
あとはフィジカルの強いスクラムハーフという点、またラグビー以外の人として部分、ポジティブな発信を評価してもらった、ということは伺いました。
――東京に住むのは初めてですか?
初めてですね。食に関して言えば、東京は醤油が薄いのでびっくりしました。福岡の醤油は濃くて甘いんですよ。
――東京での暮らしはいかがでしょう?
普通に1LDKで一人暮らしをしています。作業机とストレッチ用のスペースがあるくらい、という感じです。グラウンドまでは自転車通勤で、いまは自宅と往復しかしていない生活です(笑)。
東京で過ごすには車はなくていい、と思っていたんですが、最近車がほしくなっています。チームメイトがあまり近くに住んでいないので、みんなでご飯を食べに行く、という時に僕だけ行けないんですよ(笑)。みんなとご飯に行くために車を買いたいなと思ってます。
東京サンゴリアスの魅力とは?東京五輪は同期に刺激
――東京サンゴリアスというチームの魅力は?
2時間ぐらい語りたいくらいですが(笑)――ひとつはチームの仲が良いことですね。年齢の上下、日本代表など関係なく、みんな仲が良いんです。僕が最初合流した時も「よく来た!」という感じで温かく迎え入れてくれました。
まだ合流して7週目なので(取材日は8月第1週)、まだチームのことは深く分かっていません。ただ若手選手と一緒にスキルトレーニングをした時、年齢関係なくお互いに話し合っている姿を見て、お互いに素直だなというイメージを持ちました。
木村貴大選手
――東京サンゴリアスで仲の良い選手は?
1学年上の流選手は同じ福岡出身で、小学校の頃からずっと知っています。同期では森谷(圭介/CTB)、田村(熙/SO)、小林(航/LO)、須藤(元樹/PR)、中村(駿太/HO)ですね。彼らとはジュニア・ジャパンやサンウルブズなどで一緒にプレーしていて、すごく仲良しです。
生まれてこの方、人見知りをしたことがないので、誰とでもすぐ仲良くなれると思います。得したこともあれば損したこともありますが、すぐ馴染めるところは特技かもしれません。
――「損したこと」とは?
人見知りの人にガンガン行き過ぎて引かれる、みたいな(笑)。森谷とかそうでしたね(笑)。
――同期で言うと、東福岡高で同期だった藤田慶和選手(埼玉パナソニック)が、男子7人制代表として東京五輪に出場しましたね。
オリンピックの7人制代表が決まった時も最初に報告してくれましたし、オリンピック中も毎日のようにLINEをしていました。
いやー、クラブハウスで試合を観ながら、もう胸がいっぱいで(笑)。本人じゃないのに緊張していました。親目線で「ミスするなよ」と思いながら観ていました。同じ7人制代表の合谷(和弘)も本村(直樹)も同期なので、彼らの活躍は刺激になりました。
クラウドファンディング挑戦、サンウルブズ志願…。道なき道を開拓してきた挑戦者
木村貴大選手
――発信力ということで言うと、2019年のニュージーランド留学にあたりクラウドファンディングを利用されていましたね。
豊田自動織機の2年目に、チームの留学プログラムでニュージーランドに行かせて頂いたんですが、そこで世界と視野が広がって「プロとして海外でもプレーしたい」「一回きりの人生で後悔なくワクワクするようなチャレンジをしたい」と思い、3年目に退職を決めました。
日本代表を目指すためにもニュージーランドのマイター10カップ(同国内最高峰大会)に出て結果を残したいと考えたんですが、会社を辞めますといった直後に足首の脱臼骨折してしまいました。
その入院中にいろんな勉強をするうち、当時流行りだしていたクラウドファンディングを利用して、これからプロ選手として生きていく自分を多くの人に知ってもらいたいと思って、認知を広げるためにもクラウドファンディングに挑戦した、という経緯です。
――そうした行動力、積極性は昔からあったのですか?
もともとあったような気がしますが、“行動力マックス”になったのは筑波大学の3年生の時、フランカーからスクラムハーフに転向してからだと思います。
僕はフランカーでU20日本代表にも選んでもらい結果は出してきたつもりでしたが、大学では試合に出られませんでした。そこで当時の古川監督(拓生/現同部部長)から、日本代表を目指すなら物理的に173センチのフランカーは厳しい、スクラムハーフなら可能性はある、としっかり言ってもらい、チャレンジすることにしました。
そこからラグビー界の伝手を頼って、日本代表選手にプレー映像を送ったり、後藤翔太さん(元日本代表SH/現早大アシスタントコーチ)に毎回練習映像を送って「フィードバックください」とお願いしたり。関係性はそれまでなかったのですが、皆さんに応えて頂いて嬉しかったです。
――さらに2020年はサンウルブズの沢木敬介コーチングコーディネーター(現キヤノンHC)に直接コンタクトして、練習生から契約を勝ち取り、さらにはそのシーズンのチーム内表彰まで受けました。
U20代表の時の監督が沢木さんで、まず練習生として呼んで頂きました。
サンウルブズのチームビルディング賞(チームマン・オブ・ザ・イヤー)を獲りにいったわけではないですが、ちょうど日本人選手と外国人選手の架け橋になれたのが僕でした。英語は日常会話なら喋れるので、日本人選手とはいつでも仲良くなれると思って、初日から外国人選手とずっと一緒にいましたね。
――その英語力はどこで培ったんですか?
2019年にニュージーランド(ハミルトン・マリストクラブ)でプレーをしていた時に英語に触れる機会が多くて、その時に一番英語は使いました。
今は学んだ英語のアウトプットとして、ファンの方も使えるラグビーに関する単語、文法を「ラグふれーず」としてTwitter、Instagramで発信しています。
――東京サンゴリアスでも英語力を活かしている?
監督(ミルトン・ヘイグHC)と1対1のミーティングをしましたが、監督はニュージーランド出身なので、英語で僕が行っていたハミルトンの話をしました。
通訳さんも同席していましたが、基本的に僕が英語で話して通訳の人に修正してもらう、といった作業でした。チームに2人いる通訳さんともできるだけ英語で喋るようにしていますね。
ワクワクを追い求めて。稀代のチャレンジャーがリーグワンへ挑む
――今後のトップ選手は競技力だけでなく、人間的な部分を含めたピッチ外での発信力がより重要になる気がします。生き方や様々な挑戦で、周囲をインスパイアしている木村選手はその筆頭格の一人に見えます。
僕は意識的に自分をブランディングして、そうなるようにしていました。自分の価値をいかに高められるかを常に意識して、どれだけファンの人たちがいてくれるか、どれだけ影響力があるのか、ということを常に考えて発信をしています。
――壁に挑戦をして乗り越えてきた木村選手から、ユース世代の皆さんにメッセージを伝えるとしたら?
僕もまだまだこれからで、やっとスタートラインに立ったところで恐縮なんですが、言うとするならば「意志あるところに道あり」かなと思っています。
壁にぶち当たった時にどういうモチベーション、マインドセットになるかでチャンスが来るか、来ないかが決まる、と思っています。27歳で5チーム目になりますが、いろんなチームを渡り歩いてきたからこそ、そう思います。
不安は未来からくるもので、見えない未来はどうしても不安になるので、そこを見るよりも「今の自分がどうしたいか」「自分が何にワクワクするか」を追い求めてほしいなと思います。
――では最後に2022年1月開幕のリーグワンでの目標を教えてください。
決勝戦のグラウンドに立って日本一を味わいたいです。そのためには、個人としてのハードワークはもちろんですが、「一人ひとりの考動がチームに繋がる」という意味があった去年のチームスローガン「We before Me」のように、チームのために自分が貢献できることをまず考えます。そして、東京サンゴリアスが日本一愛されるチームにもなっていきたいですし、そこを目指すまでの過程を何よりも楽しみたいです。
木村貴大は座右の銘「意志あるところ道あり」の通り、強い意志をもってオフロードを切り拓いてきた。
東京サンゴリアスでは熾烈なポジション争いが待ち受けるが、試練のたびに木村は成長する。逆境に強い27歳は東京サンゴリアスでどんな役割を果たし、どんな成長を遂げていくのだろう。
■木村 貴大(きむら・たかひろ)
・生年月日:1993年12月9日
・出身地:福岡県北九州市
・身長/体重:173cm/82kg
・ポジション:スクラムハーフ(SH)
・経歴:東福岡高校→筑波大学→豊田自動織機(2016-2018)→サンウルブズ(2020)→コカ・コーラ(2020)→東京サントリーサンゴリアス(2021~)
文:多羅 正崇
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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