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ラグビー コラム 2021年6月30日

ダブリン懐旧旅行 ~ジャパンーアイルランド戦の前後に~

be rugby ~ラグビーであれ~ by 藤島 大
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メリオン通りを折れた小道の音楽パブ、『オドナヒューズ』ではこんな出来事に遭遇した。1階のメイン酒場でなく脇の階段を昇った小さなスペースで、浦和高校ラグビー部出身、東スポこと東京スポーツ新聞の記者と黒ビールのギネスをストンストン胃袋へ落下させていると、同じ色のブレザーをまとった精悍な男どもが入ってきた。5人くらいだったか。なんとオールブラックスの面々だ。

コーチで熊のようなアレックス・ワイリーが先導、ほぼ無言で確か2杯ずつ飲んで、すぐに帰った。準決勝のためにダブリン到着、ホテルに荷を放ってそのままやってきた。そんな風情である。狭い空間に日本のふたりの記者とニュージーランドで最高のラグビー選手たちとバーマンしかいなかった。幻のような時間だった。

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8年後のワールドカップで再訪すると階段の手前が封鎖されていた。店にたずねたら「あそこはごくまれにしか開けない」と首をひねった。やはり夢なのか。

旅は帰ってからも旅である。どんどんアイルランドのラグビーに興味がわいた。書籍や新聞雑誌で逸話の数々を楽しんだ。このコラムのために資料を読み返すと、ある名選手の好きな言葉と再会できた。

「熟練の怠慢」

ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズとアイルランドの往年の名ウイング 、トニー・オライリーがそう述べている。

「ゲーム中、私は長いことじっとしている。熟練の怠慢とでもいうのか。ここで動けばスコアできるという瞬間までエネルギーはためておく。手の内を見せず、相手が対応できなくなる機会に大勝負をかける」(74年、ピープル誌=一部略)

これ、実はビジネスの奥義を語っている。前段は「(仕事でも)ラグビーと同じような駆け引きを用いるんだ」。現在85歳のオライリーは、43歳で巨大食品メーカー「ハインツ」の最高経営責任者となり、のちに会長も務めた。同社の英国法人社長であった33歳のときにイングランドとのテストマッチに出場している。ロンドンで負傷者が出て急に呼ばれ、役員会議を抜け出して運転手付きの大型車で練習に向かった。

現在のラグビーのウイングに「熟練の怠慢」はなかなか許されない。左右前後上下に大忙しだ。しかし「手の内を見せず」防御の対応不能の瞬間に「大勝負」を仕掛けるのがスコアの不動の秘訣だろう。土曜のテストマッチ、若き日に陸上のスパイクなしに100mを10秒7で駆け、怪物的な資産家でもあったアイルランド屈指の名士も、きっと公共放送RTEの中継を追うはずだ。

文:藤島 大

藤島大

藤島 大

1961年生まれ。J SPORTSラグビー解説者。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。 スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。第1回からラグビーのW杯をすべて取材。 著書に『熱狂のアルカディア』(文藝春秋)、『人類のためだ。』(鉄筆)、『知と熱』『序列を超えて。』『ラグビーって、いいもんだね。』(鉄筆文庫)近著は『事実を集めて「嘘」を書く』(エクスナレッジ)など。 ラグビーマガジン、週刊現代などに連載。ラジオNIKKEIで毎月第一月曜に『藤島大の楕円球にみる夢』放送中。

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