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英雄たちのラストマッチは、プライドのぶつかり合いになった。
ラグビーワールドカップ(W杯)の3位決定戦が11月1日(金)、東京スタジアムで行われ、「オールブラックス」ことニュージーランド代表が、「レッドドラゴン」の愛称を持つウェールズ代表と激突した。
W杯3連覇を狙ったオールブラックスは、準決勝でイングランドに7-19で完敗した。
今大会で代表を引退するNO8(ナンバーエイト)キアラン・リード主将は「いろいろな感情は週の初めに出し切って、今日はプレーに集中した」。必勝態勢で代表ラストマッチに臨んだ。
ニュージーランドはNO8リード主将のほか、指揮官のスティーブ・ハンセンHC(ヘッドコーチ)、先発するソニー・ビル・ウィリアムズ、ライアン・クロッティ、ベン・スミスといった英雄たちが代表引退となる。是が非でも勝利で最後を飾りたい状況だったろう。
一方のウェールズもチームを4度の欧州王者に導いた名将、ウォーレン・ガットランドHCの代表最終戦。レッドドラゴンを再興させた立役者のラストを、1953年以来66年ぶりのニュージーランド撃破という、最高の花道で送り出したかった。
ただウェールズは日程面で不利。ニュージーランドの中5日に対し、ウェールズは準決勝から中4日。先発9人を変更して臨んだが、立ち上がりで苦戦した。
ニュージーランドはキックよりもランを重視。チームは「ボールを保持して走るメンタリティー」(SOモウンガ)により波状攻撃を仕掛け、前半5分にオフロードパスを繋げ、最後はPRジョー・ムーディーが先制トライ。
前半13分にはFBバレットが薄くなった内側の相手ディフェンスを切り裂き、難なく2トライ目を挙げた。
しかしラグビーを国技とするウェールズは簡単には諦めない。
0-14点で迎えた前半16分。
14回の攻撃を重ね、左隅から突破して1トライを返した。スコアラーとなったFBエイモスが「ガット(ガットランドHC)が言っていたことの一つが『我々のアイデンティティーは諦めないこと』だ」と言う通り、諦めないメンタリティーを示した。
スクラムでも優勢になったウェールズだが、ニュージーランドはWTBスミスが代表引退試合を飾る連続トライ(33分、41分)。2本目のトリアはSHアーロン・スミスからのロングパスを受けて右隅を突破。「ダブル・スミス」の連係で獲り切った。
前半を28-10とリードして折り返したニュージーランドは、後半2分、代表引退のCTBウィリアムズが十八番のオフロードパス。
これに反応していたCTBクロッティがそのままインゴールへ飛び込み、リードを25点差(10-35)に広げた。
劣勢に立ったウェールズだが、後半19分にはWTBジョシュ・アダムズがラックサイドに突っ込み1トライを返す。WTBアダムスは大会トライ部門の暫定1位となる通算7本目。ビハインドを18点(17-35)に縮めた。
しかしニュージーランドは後半36分、相手ゴール前スクラムでボールを受けたSOモウンガが、ワンステップでダン・ビガーを振り切りトライ。途中出場のビガーは準決勝の南アフリカ戦に続き、またしてもタックルミスからトライを献上した。
ウェールズも最後まで誇りを胸に意地を見せたが、40-17でノーサイド。
ウェールズのガットランドHCは「ハーフタイム直前にトライを許したのは残念。南アフリカ戦から5日後で(怪我で)選手も失っており、休息の短さに明らかに苦しんだ」と敗因を語った。
また今後のウェールズについては「ここ12年間で成し遂げたものの上に積み上げてほしい」と期待を込めた。
退任試合で勝利したニュージーランドのハンセンHCは「(今日は)カムバックして、本当のメンタルの強さと(オールプラックスの)ジャージーに対する約束をある程度示せたので、たくさんの同胞の自尊心を満足させられたのならいいと思う」とサポーターへの思いを語った。
そして今後のオールブラックスについて、こう展望した。
「オールブラックスはもっといいチームになるため努力し続けるだろう。私の場合はリッチー(・マコウ)や(キーラン・)リードといった偉大なキャプテンがいたから幸運だった」
「コーチ陣や経営側からも大きな支援をもらった。一人ではできないことだ。われわれの挑戦は、今後の4年間でチームを再編成してリセットすることだ」
ニュージーランドは2007年大会の準々決勝でフランスに敗れて屈辱を味わったが、敗戦を糧にその後W杯連覇(2011、2015)を成し遂げた歴史を持つ。
これからラグビー王国はどんな再生物語を紡ぐのか、それとも――。ジャージーへのプライドを後進に託し、英雄たちはW杯日本大会を去っていった。
文/多羅 正崇
【ハイライト】ラグビーワールドカップ 3位決定戦 ニュージーランドvs.ウェールズ
(c) Rugby World Cup Limited 2019
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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