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今シーズン2勝目を飾ったKEIHIN NSX-GT
早くもシーズンの折り返しを迎えた2020年のSUPER GT。第4戦栃木県のツインリンクもてぎを舞台にして9月12日(土)~13日(日)に行なわれた。
今回も新型コロナウイルス感染防止対策として無観客での開催となった。例年はオーバルコースのピットエリアだった場所に仮設スタンド「ビクトリースタンド」が設けられ、ファンの熱気を近くで感じることができた1戦だった。今回はその仮設スタンドはなく、オーバルコースの外に設置された大きなグランドスタントも人の気配はなく“寂しさ”というよりも“空虚感”に似た心境となった。しかし、シリーズを運営するGTアソシエイションは第5戦富士大会から観客の動員を認めることを発表している。多くのファンが作り上げてくれるあの熱気が次戦帰ってくるのを楽しみに待ちたい。
入場制限はあるものの次戦から熱いファンの熱気がSUPER GTに戻ってくる。
さて、レースの方だが、シーズンも中盤に突入している。そのためGT500・GT300クラスともにランキング上位のチームはウェイトハンデが積み重なり始め、なかなか上位に食い込むのが難しい状況。GT300クラスでは首位を快走している平中克幸/安田裕信組のNo.11 GAINER TANAX GT-Rが積載ウェイトの上限である100kgに到達。GT500クラスでも開幕3戦連続で表彰台を獲得しランキングトップにつけている関口雄飛/サッシャ・フェネストラズ組のNo.36 au TOM’S GR Supraが82kgのウェイトハンデを背負って今回のラウンドを迎えた。
その中でGT500クラスは予選ではウェイトハンデが軽いマシンが速さをみせ、立川祐路/石浦宏明組のNo.38 ZENT GR Supraがポールポジションを獲得した。序盤3戦は思うように結果を残せていなかった38号車。ここで復活の狼煙をあげる勝利を手にするかと思われたが、いざ決いざ決勝レースが始まってみると強さを見せたのはホンダNSX-GT勢だった。
ウェイトハンデの軽さもあり、見事にポールを獲得した38号車 ZENT GR Supra
なかでも印象的だったのが2番手からスタートした塚越広大/ベルトラン・バケット組のKEIHIN NSX-GTだった。スタートを担当したバケットは1周目から立川が乗る38号車に仕掛けていくというアグレッシブな走りを披露。そこで前に出ることはできなかったがGT300クラスの集団が絡み始めた8周目に突破口を見出し、バックストレートでトップを奪った。
そこからは、まるで彼らが今季初勝利を飾った第2戦富士を見ているかのように後続を着々と引き離していく走りを披露。25周目にピットインし塚越広大にバトンタッチしても、その勢いは衰えなかった。特に圧巻だったのがレース終盤。ランキング首位を争う36号車のNo.37 KeePer TOM’S GR Supraが接触した際に落下したパーツを回収するためにセーフティカーが導入されたのだ。この時点で17号車は38号車に対して7秒以上のリードを築いていたが、このSC導入で差がリセットされることに。さらにチェッカーまで周回数が少ないこともあり、稀に見るスプリントバトルが展開される様相だった。
しかし、51周目に再スタートが切られると17号車はそれまでの勢いをすぐに取り戻し独走を開始。わずか12周で7.7秒の差をつけて今季2勝目をマーク。ランキング上位陣が下位に沈んだこともあり、第4戦終了時点で塚越/バケット組が首位に躍り出ることとなった。
圧巻の速さを見せた17号車KEIHIN NSX-GT
特筆すべきなのは、今回の17号車は46kgを積んでおりGT500クラスの中で比較的ウェイトハンデが重めだったということ。これだけのハンデを背負いながらライバルを圧倒する走りを見せていたのだ。これには38号車のドライバーふたりも「今回17号車は速かった」と負けを認めるほどだった。
実は塚越とバケットのコンビは昨年から速さをみせており2019シーズンは予選で2度のポールポジションを獲得するなど、際立った速さをみせていながら、決勝では展開に恵まれなかったり、不運なアクシデントやトラブルに見舞われることが多く、1勝も挙げられないままシーズンを終えていた。
「昨年は速さを見せられていたのに作戦ミスとかがあって、なかなか優勝できませんでした。(昨年は)考え過ぎてゴチャゴチャさせ過ぎていた部分があったので、今年はあまり気をてらわずに王道の作戦でレースをしようと決めて、そこは自信を持ってやっています」
そう金石勝智監督が語るように、今年の17号車は戦略面での対策を徹底し、事前に入念な準備をしてシーズンに臨んでいる。それでも結果が出なかった第1戦富士や第3戦鈴鹿では迷う場面があったというが、逆に自信を持って戦略を遂行できている他の2レースではきっちりと勝利を手にしている。
あとは何より塚越とバケットのコンビネーションが速さの原動力になっている部分もあるようだ。ホンダのSUPER GTプロジェクトと指揮する佐伯昌浩ラージプロジェクトリーダーは17号車の強さをこのように見ている。
「ドライバーのマッチングだと思います。ふたりとドライビングスタイルと、選んでいるタイヤ、セットアップもそれに合わせて(他とは)変わっていると思います。他の(ホンダ系)チームも決して悪いわけではないが、17号車はドライバー、チーム、タイヤがうまくハマっているなという感じですね」
実際にふたりのドライビングスタイルがマッチしていることについては第2戦富士で優勝したときにバケットも認めていた。そこに昨年うまくいかなかった戦略面が機能してきたことで、17号車の力強さにつながっているのだろう。特に今回の第4戦もてぎでは、何か“ゾーン”に入り始めているようなレース運びが印象的だった。
シーズン前半で2勝をあげるという結果をみると、17号車のチャンピオン獲得への期待も高まるのだが、塚越とバケットは“勝負はこれから”と冷静だった。
優勝会見では浮かれることなく、冷静にレースを振り返る姿が印象的だった塚越広大。
「目標はやはりチャンピオンです。今回の2勝目も通過点でしかないと思っています。荒れた天候などに翻弄されるのではなく、それを味方にするような強さを、チームとドライバーで手に入れたいですし、チャンピオンを獲るためにベストを尽くしたいですね」(塚越)
「今の時点でポイントリーダーになれたことは非常にポジティブだ。しかしウェイトハンディも増えて第5戦と第6戦は非常にタフな戦いになると覚悟している。だから優勝だとか表彰台を狙うのではなく、着実にポイントを稼ぐようなレースを心掛けたい」(バケット)
勢いに乗る17号車が、後半戦も着実にポイントを重ねチャンピオン獲得に向けて歩を進めていくのか。それとも彼らの快進撃を止めるライバルが出現するのか……。ますます目が離せない後半戦となりそうだ。
文:吉田 知弘
吉田 知弘
幼少の頃から父親の影響でF1をはじめ国内外のモータースポーツに興味を持ち始め、その魅力を多くの人に伝えるべく、モータースポーツジャーナリストになることを決断。大学卒業後から執筆活動をスタートし、2011年からレース現場での取材を開始。現在ではスーパーGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久、全日本F3選手権など国内レースを中心に年間20戦以上を現地取材。webメディアを中心にニュース記事やインタビュー記事、コラム等を掲載している。日本モータースポーツ記者会会員。石川県出身 1984年生まれ
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