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「面白い」ジロが華々しく開幕!初日マリア・ローザはピーダスン|ジロ・デ・イタリア2025 レースレポート:第1ステージ
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸マッズ・ピーダスン(リドル・トレック)が開幕戦で勝利を飾る
第108回ジロ・デ・イタリアが2025年5月9日にバルカン半島のアルバニアで開幕。ドゥラスをスタートして首都ティラーナにフィニッシュする第1ステージ(距離160km)は、リドル・トレックのマッズ・ピーダスン(デンマーク)がチーム ヴィスマ・リースアバイクのワウト・ファンアールト(ベルギー)らをゴールスプリント勝負で制して優勝。ピーダスンはステージ1位のボーナスタイム10秒を獲得して総合成績で首位に立ち、ピンク色のリーダージャージ、マリア・ローザを手中にした。
このステージの大本命だったピーダスン。リドル・トレックチームは、最後の坂道を登る際にロングスパートを試みようとする選手の出現を防ぐためにレースを厳しくした。エースはそんなチームメートの働きを最大限に活かした。最後はファンアールトとの紙一重の勝負に持ち込まれたが、ピーダスンは常に状況を自分の利点としてコントロールし続け、デンマーク選手として初めてジロ・デ・イタリアのマリア・ローザを着用することになった。
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2025ジロ・デ・イタリアはこれまでにないほど面白くなる
ジロ・デ・イタリアが史上初めて、地中海を構成するアドリア海の対岸にあるアルバニアで開幕した。グランツールと呼ばれる3大ステージレースはたいてい土曜日に開幕するのだが、2025年のジロ・デ・イタリアは5月9日の金曜日に開幕し、大会4日目を移動日としてアルバニアから船でイタリア半島の南端に渡る。つまりレースはいつもの日程よりも1日長い24日間となった。
“史上初”アルバニア・バルカン半島で開幕した「ジロ・デ・イタリア2025」
2024年の総合優勝者タデイ・ポガチャル(スロベニア)は欠場したが、UAEチームエミレーツ・XRGは若手のフアン・アユソ(スペイン)をエースに起用した。戦前の予想では、2023年の総合優勝者プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)との一騎打ちとも言われる。今季のアユソはティレーノ~アドリアティコで総合優勝しているが、それに続くスペインのボルタ・カタルーニャではベテランのログリッチに最終日で逆転負けしている。
「ここでレースをするのは、ボルタ・カタルーニャでレースをするのとは違う。ジロ・デ・イタリアはよりハードで、より長いから毎日気をつけないといけない。しかも初日から重要なステージが設定され、得るものよりも失うものの方が多いと思う。大会2日目のタイムトライアルが僕のアドバンテージになることを願っている」とアユソは前日の記者会見で語った。
今大会の特徴はいくつかある。まず、過去の総合優勝者がなんと5選手も参戦していることだ。2014年のナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター チーム)、2019年のリチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト)、2021年のエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)、2022年のジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)、そして2023年のログリッチだ。
首都:ティラーナに向け、山岳コースを走る選手たち
特徴はそれ以外にもある。第1ステージがいきなりの山岳コースであること。距離160kmで獲得標高は1800mで、「市内の山岳ステージ」がキャッチフレーズだ。さらに今回は、第1ステージからボーナスタイムを争う戦いが加味され、ステージ序盤からマリア・ローザをねらうために無視できない新名称のルールが設定された。「2025ジロ・デ・イタリアにおいて総合成績に大きな影響を与える画期的な新ルール」と主催者が掲げる「レッドブルKM」が導入されたのである。
5月9日から6月1日まで開催される21ステージ中、個人タイムトライアルを除く19ステージに、レッドブルが協賛する中間スプリントポイントが設けられ、この地点を最初に通過した3人の選手に、1着6秒、2着4秒、3着2秒のタイムボーナスが与えられ、個人総合成績から差し引かれる。もちろん個人タイムトライアルを除く19ステージのゴールで1着10秒、2着4秒、3着2秒のボーナスタイムはこれとは別にあるのだが、レッドブルKMは総合成績に関わるボーナスタイムを授与する唯一の中間ポイントという位置づけだ。
序盤戦の総合タイムはまだ接戦。たった数秒が各チームの計算を覆し、マリア・ローザの行方を変えてしまうことがある。すべての集団スタートステージに設定された今回のレッドブルKMは、最終日ローマでのフィナーレまで総合優勝争いを面白くさせそうだ。1948年はわずか11秒差で総合優勝者が勝利を修めたこともあるからだ。
「レッドブルKMは、チーム戦略としてブレイクアウェイを試みてボーナスタイムを争うというモチベーションを与える。アタックしたい選手とメイングループの駆け引きは、世界で最も過酷なレースを見守るファンにさらなる興奮をもたらすことになる」と主催者は太鼓判を押す。
「レッドブルKMはうれしい驚きで、うまくいけば楽しく、なんらかのアクションをもたらすだろう」とログリッチもコメント。それに続けて「元チームメイトのファンアールトがこのルールを活用して優勝争いに加わってくる」ことを予測している。
「レッドブルKMのために本当にスプリントする必要がないことを願っているよ。ファンアールトとレースをするのは面白い。彼は私にとって単なるサイクリストではない。彼は間違いなくこのジロ・デ・イタリアでチャンスを得ると思う」とログリッチは冷静に語った。
逃げた5選手を119km地点で捕らえてゴール勝負へ
気温22度の中を184選手がスタートした。5km地点でVFグループ・バルディアーニCSF・ファイザネのマヌエーレ・タロッツィ(イタリア)、アルケア・B&Bホテルズのアレッサンドロ・ヴェッレ(イタリア)、コフィディスのシルヴァン・モニケ(ベルギー)、アンテルマルシェ・ワンティのタコ・ファンデルホールン(オランダ)、チーム ポルティ・ビジットマルタのアレッサンドロ・トネッリ(イタリア)が抜け出し、21km地点でメイン集団に1分53秒差をつけた。
この中からタロッツィがレッドブルKMをトップで通過した。ボーナスタイムを獲得したのみならず、(翌日の第2ステージが個人タイムトライアルのため)第3ステージで青色のナンバーカードを着用することになった。これが今大会のひとつの興味どころとなってくるだろう。結局のところこの逃げは119km地点までにすべての選手が吸収され、フィニッシュ時点では大きく遅れたためにレッドブルKMで獲得したボーナスタイムで総合成績の上位に変動することはなかった。
アルバニアのファンの大歓声を受けて走る選手たちは、残り20kmでリドル・トレックがメイン集団を力強くペースメーク。最後は少人数のゴール勝負となり、チームメートにうまく牽引されたピーダスンがファンアールトの逆転を許さず優勝。2023ジロ・デ・イタリア第6ステージのナポリに続くステージ2勝目を飾った。プロサイクリストとしては通算51回目の勝利。デンマーク選手の大会ステージ勝利は2023年の第10ステージでのマグナス・コルト以来で、これで15回目。スロベニアと米国に並んだ。
ラストでピーダスンとスプリント勝負したワウト・ファンアールトは惜敗
こうしてピーダスンはマリア・ローザを手にした最初のデンマーク選手となった。4年連続で第1ステージの勝者が初めてマリア・ローザを着用することになり、表彰台で笑顔を見せた。2022年のマチュー・ファンデルプール、2023年のレムコ・エヴェネプール、2024年のジョナタン・ナルバエスに続いたピーダスン。リドル・トレックチームは2022年にフアン・ロペスがマリア・ローザを10日間保持したが、それ以来となるピンク色のリーダージャージだ。
ポイント賞もピーダスン。モニケが山岳賞を獲得したが、コフィディスチームとしては2006年にスタフ・シェアリンクスが1日だけ山岳リーダーになった実績がある。ベルギー選手としては、2016年第9ステージのティム・ウェレンス以来の獲得。ヤングライダー賞はアンテルマルシェ・ワンティのフランチェスコ・ブザット(イタリア)がステージ4位でフィニッシュしてこのクラスのトップに立った。
グランツールで初めてリーダージャージを手に入れた(ピーダスン)
「初日のステージで勝利し、マリア・ローザを獲得するのは本当に素晴らしいこと。チームがこれほど一生懸命に働いたことが信じられない。彼らに勝利で恩返しできてうれしい」とピーダスンが優勝者会見で語っている。
「チームの具体的な計画は、登りで非常に強くプッシュし、スプリントに向けて人数を減らすことだった。ファンアールトを常に警戒する必要があった。彼は本当に優れたサイクリストだ。彼がグループにいると勝利は簡単ではない。そんな実力を尊重し、少し恐れを持って対処しなければならなかった。でも今日はチームのためにやり遂げる脚力があった。グランツールで初めてリーダージャージを手に入れた」
ピーダスンはチームディレクターから「ファンアールトが上り坂で苦戦している」という情報を得ていたが、それでも警戒していたという。一方で、総合優勝を争う強豪選手がこの日アタックをすることはないと分析。チームメートのジュリオ・チッコーネ(イタリア)が上り坂をハイペースで走ることで完璧に有力選手の動きを封じ込めたことも功を奏した。
デンマーク人選手として初のマリア・ローザに袖を通すピーダスン
「残りの20ステージを楽しむだけではいられない。もっと勝ちたい。明日はマリア・ローザを守るために全力を尽くすつもりだが、距離の短いタイムトライアルは得意。うまくいかない場合は、チームメイトのマティアス・ヴァチェク(チェコ)が引き継いでくれることを願う」とピーダスン。
36選手がピーダスンとタイム差なしの第1集団でフィニッシュしたが、総合優勝候補はほぼすべてがこの中にいて、全日程を通しての戦いは2日目以降に持ち越された感があった。有力選手としてはイスラエル・プレミアテックのデレク・ジー(カナダ)が57秒遅れ、イネオス・グレナディアーズのテイメン・アレンスマン(オランダ)が1分35秒遅れとタイムを失った。かつて表彰台に立ったミケル・ランダ(スペイン、スーダル・クイックステップ)と山岳賞のジョフレ・ブシャール(フランス、デカトロン・AG2Rラモンディアル)は落車してリタイア。
優勝候補のアユソも途中で落車に遭ったが、フィニッシュまでに復帰してタイム差なしで切り抜けた。
「2022年と2023年のブエルタ・ア・エスパーニャで総合優勝できなかったのは年齢が若かったかもしれないが、これが4回目のグランツール。最後の1週間で脱落したらいいわけができない」とアユソ。
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴30年超のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、東京中日スポーツ、ダイヤモンド・オンライン、LINEニュース、Pressportsなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)、講談社現代新書『ツール・ド・フランス』。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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