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サイクル ロードレース コラム 2025年4月16日

凄まじい死闘を制したのは大会3連覇のファンデルプール、ポガチャルは「ここでの勝利を目指す」【Cycle*2025 パリ~ルーベ:レビュー】

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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パリ〜ルーベ

3連覇を果たしたマチュー・ファンデルプール

荒れた石畳が、凄まじい死闘を演出し、たったひとつのミスが、巨頭2人の運命を分けた。クラシックの女王は、3年連続でマチュー・ファンデルプールに微笑んだ。北の地獄の手厳しい洗礼を浴びながらも、タデイ・ポガチャルは初出場2位と堂々たる成果を持ち帰った。前者はルーベスペシャリストとして歴史に名を刻み、後者は完全なる全地形型チャンピオンへと、また一歩近づいた。

「単純に3回勝てただけでも最高にスペシャルなこと。自転車レースを始めた頃には、想像さえしていなかった。このレースを3年連続勝ち取るためには、運も必要だから、本当に特別な出来事さ」(ファンデルプール)

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残り38kmで、ついにファンデルプールが独走態勢に持ち込む前に、すでに無数のドラマがあった。時速50km超で突っ走った序盤のアスファルト区間では、落車が多発した。小さな石畳なら2つ手にしたことがあるワウト・ファンアールトも、2年連続2位のヤスペル・フィリプセンも、前夜の雨の影響でいまだ湿った舗装路に勢い良く滑り落ちた。

いよいよ全長55.3km・全30ヶ所の石畳セクターに突入すると、次々とメカトラブルが襲いかかった。真っ先に犠牲者になったのがフィリッポ・ガンナで、イネオス・グレナディアーズ隊列に導かれ、先頭で最初の石畳=第30セクターに飛び込んだ直後のパンクだった。

すかさずファンデルプール擁するアルペシン・ドゥクーニンクと、マッズ・ピーダスン率いるリドル・トレックが主導権を握った。プロトン随一のスペシャリスト集団は、集団を力づくで細く長く伸ばし、分断を誘発。朝から逃げ続ける8人とのタイム差を急速に縮め、力のない者たち、不運に見舞われた者たちを、非情にもどんどん切り捨てていく。どうにかガンナを先頭に連れ戻したいイネオスにも、約30kmにもわたり、たっぷりと追走の脚を使わせた。

一方のポガチャルは、チーム一体となってレースを先導したわけではなかった。たしかにフロリアン・フェルミールスだけは常につかず離れず側にいたが、本人がむしろ、ファンデルプールの後輪に留まるほうを選んだ。果てしなく繰り返されるカオスの中でも、ロードのマイヨ・アルカンシェルは、シクロクロス世界チャンピオンの背後から決してはぐれない。

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【ショートハイライト】パリ~ルーべ|Cycle*2025

パリ〜ルーベ

巨頭2人は常に互いの近くに位置していた

残り104km、強い風が吹き付ける第20セクターに差し掛かると、途端にエースたちの殴り合いが始まった。この春のヘント〜ウェヴェルヘムで56kmの独走勝利を披露し、自らが単なるスプリンターではないことを証明したピーダスンが、まずは横風区間で最前線に躍り出る。途中でカーブを曲がり、追い風に変わったタイミングで、ポガチャルも強烈なジャブを繰り出す。それに呼応するようにファンデルプールもスピードを上げる。

急激に小さくなった集団を、なんとかイネオスが再統合に持ち込んだ。開催委員会が仕込んだ「直角コーナー × 4」も効果を発揮。今大会最初の5つ星、第19セクターのアランベールには、集団は比較的節度を保って滑り込めたはずだった。

ただ、素早く、ポガチャルが秩序をぶっ壊した!先頭をすかさず奪うと、鬱蒼とした森の湿った一本道で、ライバルたちに高速を強いる。続いてファンデルプールが加速に転じ、集団を完全に破壊した。

パリ〜ルーベ

アランベールの石畳で2度のスピードアップを強行

ディフェンディングチャンピオンは、しかもアランベールの石畳で、2度のスピードアップを強行。朝からの逃げを回収し、先頭集団を16人にまで小さくした。石畳を抜け出した先でも、さらに執拗に2度、3度と畳み掛ける。ほんの数十メートル背後から追いかけてくるファンアールト集団を徹底的に振りほどくためであり、いまだフェルミールスを残していたポガチャルを、完全に孤立させるためだったのかもしれない。続く第18セクターの直後の舗装路でも、少し気を緩めていたメイン集団に、この日何度目かのパンチを振り下ろした。

実はポガチャルは「石畳セクターには本当にたくさんの観客がいて、おかげで横風や向かい風を和らげてくれるんだね」と、初出場の発見を語っていたが、逆を言えばアスファルト道路には、風除けになる観客もいなければ、多くの石畳セクターで見られるような小高い土手もない。森の切れ目を狙うように放たれた、ファンデルプールの長く強烈な加速。なんとか耐え抜いたのは、ポガチャルとピーダスン、フィリプセン、そしてシュテファン・ビッセガーの4人だけだった。

パリ〜ルーベ

初出場でも数多くの応援バナーが掲げられていたポガチャル

フィニッシュまで87kmを残して、早くも5人になった先頭だが、均衡はやはり、ポガチャルの一撃で崩れ去ることになる。15kmほど先の第15セクターの、左右にうねるコースを利用して、再び鋭い加速が切られた。

ピーダスンにとっては最悪のタイミングだった。すぐに反応できたものの、同時に前輪がパンク。大急ぎで遠ざかっていくライバルたちの背後で、自らの不運を嘆くしかなかった。

「パンクしていなかったらどうなっていたかなんて分かりっこないけど……これこそが、このレースの美しさなんだ。見ている分には最高さ。あらゆることが起こり得るのだから。そして今日は、残念なことに、僕の身にそれが降り掛かった」(ピーダスン)

しばらく粘ったものの、距離を詰められぬままずるずると後退していったビッセガーもまた、どうやらメカトラにたたられていた。ニュートラルサービスの助けを借りたが、ホイール交換に手間取り、決定的な遅れを喫することになる。

「ポガチャルのアタックまで、すべてがうまく行っていた。でもあの瞬間にパンク。おかげで僕のレースは台無しになった」(ビッセガー)

またもやファンデルプールは楽々とポガチャルとの距離を埋めた。その上でフィリプセンの再合流を待つ余裕さえあり……アルペシンにとって理想的な展開を作り上げた。2vs1という数的にも、脚質的にも。過去2大会連続でファンアールトは独走勝利を収め、過去2大会連続でフィリプセンは小集団スプリントを制して2位を射止めている。3週間前のミラノ〜サンレモを、三つ巴スプリントで落としたポガチャルにとっては、ひどく悩ましい状況だった。

「僕らで表彰台を争うことになるだろうと考えた。同時に、もしも彼ら……世界最速のスプリンター2人と一緒に自転車競技場に到着することになれば、極めて困難な状況に追い込まれるだろうことも理解した」(ポガチャル)

皮肉にも、フィリプセン脱落のきっかけは、ファンデルプールが見せた加速。すでにルーベを4度走ってきた男は、第11セクター「5つ星」モン=サン=ペヴェルの最終盤1kmが、今大会唯一の石畳の上り坂(といっても勾配1.5%程度)であることを知っていた。しかも強い向かい風のせいで、この日の体感レベルは間違いなく激坂だった。サンレモでも、ロンドでも、上りのたびに攻撃に転じたポガチャルに、最大限の警戒を払わなかったはずがない。奇襲を避けるために、ファンデルプール自らが最前列に立ち、高速テンポを刻んだ。

パリ〜ルーベ

ポガチャルは何度も攻撃を仕掛ける

……これがフィリプセンを大いに苦しめることになる。朋友の危機を知り、エースはすぐにスピードを緩めたが、ポガチャルがその様子を見逃すはずもなかった。突如として全速力に振り切った。抜け出した先に待っていたアスファルトの短い坂道でも、サドルから立ち上がり全力で踏み抜いた。残り45km、厄介な俊足にとどめを刺した。

「落車のせいで腰に少し痛みがあった。理想的な状態ではなかったけど、なんとか前線に留まった。とにかくマチューに付き添いたかったし、できる限り前を引こうと努力した。でも、ゆっくりと限界に近づいていることに、気がついていた。スピードがあまりにも速すぎた」(フィリプセン)

とうとうファンデルプールとポガチャルは2人きりになった。それぞれの思惑は当然ながら違った。後ろを振り返り、しばらく先頭交代も拒否した前者だが、もはやフィリプセンを待つことは不可能だと悟ってからは、できる限りポガチャルと長く協力体制を保とうと考えたという。コース最終盤で、再び強い向かい風にさらされることになると、分かっていたからだ。

対するポガチャルは、どんなわずかな機会も見逃すつもりはなかった。だから第9セクターでは、すぐ目の前を走る数台のレースモトのスリップストリームを利用して、勢い良く加速した。スピードは時速50km近くまで上がっていた。

「モトが目の前に見えた。コーナーに止まっていたんだと思う。見えてはいたけれど、僕の頭の中では、モトは曲がらずそのまままっすぐ走っていたように錯覚していた。そしてコーナーに差し掛かった。すごく、すごく、すごくスピードが出ていた。だって追い風だったからね。僕はアタックして、とにかく全速力だった。うん、とにかく、速すぎた」(ポガチャル)

曲がりきれなかったわけではなく、ポガチャルはそもそも曲がろうとしていなかったのだ。右コーナーの存在に気がついた時には、すでに遅すぎた。痛恨の落車。チェーン脱落でバイク交換を余儀なくされ、30秒近くを失った。それでも停車中のモトをぎりぎりで避け、柔らかい芝生の上で衝撃を最大限に和らげたのは、不幸中の幸いだった。

パリ〜ルーベ

残り38km1人で先を急ぐことに決めたファンデルプール

ライバルの後輪に張り付いていたファンデルプールもまた、軌道を大きく外れたが、シクロクロス仕込みのテクニックで素早く難局を切り抜けた。そして、2度、後ろを振り返ると、残り38km、1人で先を急ぐことに決めた。

「最初は待とうと考えた。タデイが落車したと知らなかったからでもあった。でも差が大きいと悟ったし、ある時点で、僕も全力に切り替えなきゃならなかった。なによりミスも、自転車レースの一部なのだから」(ファンデルプール)

世界チャンピオンはすぐに白旗は上げなかった。全力で追走に乗り出した。その後の長いアスファルトゾーンを利用して、一時は前を行くファンデルプールに15秒差にまで詰め寄った。ただ第7セクターから、再び、石畳の地獄に引き戻された。1区間抜け出すごとに、1秒を失い、1つコーナーをこなすたびに、さらに1秒を失い……しかも差が30秒に広がった時点で、この日2度目の自転車交換。

「追いつけると信じていた。でもブレーキに問題が発生して、うまく集中できなくなった。自転車を交換したけど、気持ちが切れてしまった。一刻も早くレースを終えたい。それだけを願っていた」(ポガチャル)

もはやサイクルコンピュータもついていない自転車で、ポガチャルは孤独にフィニッシュを目指した。再び走り出した時点で45秒差。最終的にこの差は、1分18秒にまで広がることになる。

先頭のファンデルプールも、実はパワーメータも無線ももはや作動しない中で、己の経験と感覚だけを頼りに突き進んでいた。だからこそ今大会最後の5つ星、第4セクターのカルフール・ド・ラルブルで自らもパンクの犠牲となり、自転車交換を余儀なくされた際には、心穏やかではいられなかった!

「まるで手探りの状態だった。タイム差も、後ろでなにが起こっているのかも分からなかった。そもそもパンクしたことを無線で伝えることもできないから、すごく苦労した」(ファンデルプール)

パリ〜ルーベ

向かい風に耐え独走を続けた

幸いにもすでにタイム差は1分以上広がっていたし、バイク交換も10秒程度で素早く済ませた。もはやファンデルプールの3連覇を阻むものなどなかった。本人が予想していたとおり、もちろん最後の2セクターは向かい風がきつかった。歯を食いしばり、ひたすら苦しみに耐え続けた。

「まるで石のひとつひとつにぶちあたっているような気分だった。普段なら、十分にスピードを出しさえすれば、まるで石畳の上を飛んでいるような感覚を得られるのに」(ファンデルプール)

鄙びたヴェロドロームの、フィナーレの1周半だけは、ファンデルプールは悠々と楽しんだ。フィニッシュラインでは3本の指をアピール。オクターヴ・ラピーズ(1909〜1911年)、フランチェスコ・モゼール(1978〜1980年)に続く、史上3人目のパリ〜ルーベ3連覇を成し遂げた瞬間だった。

また、この春のポガチャルとのモニュメント対決は、2−1で勝ち越し。トータルのモニュメント数は、前週8勝目を上げたばかりのポガチャルに並び、揃って21世紀最多勝利を誇る。

単独2位として自転車競技場にたどり着いたポガチャルは、1981年のベルナール・イノー以来となる「ツール・ド・フランス優勝経験者によるルーベ優勝」こそ成功させられなかったものの、1988年のローラン・フィニョンに続く「ツール優勝経験者によるルーベ表彰台」は達成した。同時に5大モニュメント全表彰台乗り(サンレモ3位、ロンド優勝、ルーベ2位、リエージュ優勝、ロンバルディア優勝)の快挙と、出場した7モニュメント連続表彰台という離れ業さえやってのけた。

「今回タデイが最後まで前線に残ったのは、それほど驚くことじゃない。彼は現在最高の選手のひとりなだけでなく、おそらく史上最高のひとり。彼の成し遂げてきたことは並外れたことだし、間違いなく、勝つためにこのレースに戻ってくるだろう」(ファンデルプール)

ほろ苦い思いで、ルーベ初体験を終えたポガチャルも、必ずここに戻ってくると誓う。

パリ〜ルーベ

表彰式を待つ3選手

「再び協力なチームとともに戻ってくる。この先数年間は、ここでの勝利を目指して、モチベーション高く戦っていきたい」(ポガチャル)

3位争いは3人のスプリントにもつれこんだ。1年前は2位争いのスプリントに破れ、3位に泣いたピーダスンが、この日はファンアールトとフェルミールスを退けて先頭を取った。つまり2年連続のルーベ表彰台であり、前週のロンド2位に続く2モニュメント連続の表彰台。2019年世界王者は、いまだ初モニュメントタイトルを追い求めている。

表彰台にはロード世界チャンピオン経験者が並び、前週のロンドと順番こそ違うが、全く同じ顔ぶれが、ルーベのトップ3の座についた。やはり2週連続の4位ファンアールトも加えると、2023年世界選手権グラスゴー大会で激戦を繰り広げた4人でもあった。

そしてポガチャル以外を除く3人は、ルーベで、この春のモニュメント転戦は打ち止め。一方で現役世界チャンピオンにしてツール総合覇者は……次なるモニュメントへ向かう。リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでは、また別の怪物、五輪ロード&TT金メダリストのレムコ・エヴェネプールとの直接対決が待っている!

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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