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「壁」を越えてスプリント。ポール・マニエが今大会3勝目を挙げ、最終マリア・チクラミーノへ大きく前進|ジロ・デ・イタリア2026 レースレポート:第18ステージ
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかポール・マニエが区間3勝目でマリア・チクラミーノ奪還
長く耐えてきた甲斐があった。ステージ最終盤の「壁」をよじ登り、スプリントフィニッシュに持ち込んだ。ブルガリアで最後に勝ってから18日後。ポール・マニエが今大会3つ目のステージ優勝を手に入れた。2度失ったマリア・チクラミーノも、改めて取り戻した。
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「この3勝目を心から満喫したい。僕はすでにマリア・ローザを着たし、チクラミーノを何日間も楽しんだ。こんなことが起こるなんて、想像もしていなかった。だからこそ、勝者としてこの場にいられることを、本当に誇りに思う」(マニエ)
逃げ切りか、スプリントか
果たしてスプリンターは生き残るか否か。フィニッシュ手前9.3kmに待ち構えるムーロ・ディ・カデル・ポッジョ、つまり全長1.1km・平均勾配12.3%の「壁」を巡る疑問が、プロトン内に渦巻いていた。逃げ切りか、集団スプリントか。
スタートフラッグが振り下ろされ、複数の選手が動きを見せると、すぐに各チームの思惑は明らかになる。中でもリドル・トレックが強い意思表示を行った。逃げの試みを厳しくチェック。スプリントエースのジョナタン・ミラン自らも、集団最前列で睨みを効かせた。
「大きな逃げが行ってしまう危険性があったし、集団スプリントに持ち込める可能性も100%ではなかった。でも僕らはスタート直後からコントロールすることに決めた」(ミラン)
制御は簡単ではなかった。小さな波がとめどなく押し寄せる。マリア・ローザと共に穏やかな1日を望んだチーム ヴィスマ・リースアバイクが、プロトン最前列で蓋を閉じた時でさえ、新たな挑戦者たちはどんどん脇をすり抜けた。一時は2選手が1分近くの差をつけたこともあった。しかし20kmほど奮闘を続けた先で、いまだ仁義なき戦いを繰り広げるプロトンに引きずり降ろされた。
スタート直後に「無印」ながらも、厳しい上りが登場したのも、争いを激化させた理由だった。ピュアスプリンターの多くが……特にマニエが苦しんでいるのを察するや、2日連続の逃げでポイント賞首位を奪取したジョナタン・ナルバエスのために、UAEチームエミレーツ・XRGがスピードを上げた。
「この2日間、脚の調子があまり良くなかった。今日だって最初の上りで脱落してしまったから、グルペットで過ごす長い1日になりそうだと考えていた」(マニエ)
4人だけが抜け出すことに成功した
それでも35kmほど走った先で、 チーム ポルティ・ヴィジットマルタの2人、マッティア・バイスとアンドレア・ミフスッドが、前に出る権利を勝ち取った。撃ち合いをかいくぐってジェームズ・ショーも逃げ出し、ヨナス・ヘーンスも後を追いかけた。そして、スタートから65km、とうとう4人が合流する。約1時間半も続いたアタック合戦は終わり、本日の逃げが完成した。
副賞収集タイム、猶予は壁まで
ようやく静かな時間が訪れた。リドルはプロトン最前列に2選手を配置し、淡々とタイム差制御を行った。UAEとNSNサイクリングチームからも1人ずつ、牽引作業に人員を送り込んだ。逃げる4人には、しばらく1分半〜2分ほどの余裕が与えられた。
おかげでミスフッドは、27回目の誕生日を最前線で満喫した。また今大会すでに何度も逃げてきたバイスは、途中の中間ポイントで、目論見通りに首位通過。「中間ポイント賞」で4ポイント差の総合2位に浮上し、ローマの最終表彰台を狙える位置につけた。
残り35.6km、その中間ポイントでは、ナルバエスがきっちりメイン集団内先頭通過=全体5位通過を果たす。残された1ポイントを回収し、マニエに対するリードを、この時点で8ポイントに開いた。
そこから再び緊迫の時間帯に突入する。ステージも残り30kmを切ると、逃げとの差は急速に縮まっていった。「フーガ賞」の距離を112km加えたポルティの2人は、ショーと仲良く、残り22kmでプロトンに回収された。ヘーンスだけは単独で粘り続けたが、残り11km……つまりムーロの突入直前、スピードの上がりきったプロトンに飲み込まれていった。
計画通りのミラン、想像を超えたマニエ
そして問題の壁へ──。美味しいプロセッコとなるぶどう畑に覆われた丘へ、ミランは望み通り先頭で突入する。もちろんパンチャーやクライマーたちが、ここぞとばかりに勢いを増し、ピュアスプリンターはゆっくりと集団内の位置を下げていく。おそらく、これは計画通り。
大変な盛り上がりを見せたムーロ・ディ・カ・デル・ポッジョ
ヨナス・ヴィンゲゴーハンセンにとっては、「色々と想定外だった」という。それでもマリア・ローザ姿で、ひどく楽々と、最前列のど真ん中に位置取った。さらには頼れる山岳補佐役セップ・クスに、高速リズムを刻ませた。後輩のダヴィデ・ピガンゾーリに「新人賞ジャージを着て欲しい」と願うヴィスマのエースは、マリア・ビアンカのアフォンソ・エウラリオのアタックを無効化しつつ、小さな3級岳のてっぺんでは、マリア・アッズーラ首位として新たに3ポイントさえ積み重ねた。
先頭で壁を抜け出したのはたったの15人。ただほんの数秒後には、50人ほどの大きな集団も上り終えた。ミランは極めて好位置で試練を抜け出した。細く長く伸びた集団の、ほぼ最後尾付近まで後退してはいたものの、複数のチームメイトに守られたマニエの姿もあった。
「上り始める前は、勝てるなんて考えてもいなかった。でも山頂にたどり着いた時、チャンスがあることを理解した。あれほど険しい上りを生き残れるなんて、チームのみんなが僕を信じてくれたおかげだ」(マニエ)
前方の15人のグループ内では、俊足コービン・ストロングが猛然とスピードを上げていた。さらにヨハネス・クルセットがアタックに転じ、再び元気よくエウラリオが飛び出した。ただし激坂を終えれば、あとはフィニッシュまでひたすら下り基調。生き残ったスプリンターチームは、心置きなくスピードを極限まで上げた。リドルはもちろん、今度はスーダル・クイックステップも追走に加わった。前に乗り遅れた新人賞2位ダヴィデ・ピガンゾーリも、夢中で穴を埋めにかかった。
残り1.2km、2つの集団は1つになった。60人ほどの大きな塊で、フィニッシュへ雪崩込んだ。
最高の発射台と、最速のエース
「たしかに今朝話し合ったプランとはまるで異なる展開になった。でも最後の上りで、エーススプリンターが生き残ったんだから、だったら僕は最後のコーナーで彼を最適な位置に導くだけだった」(ヤスペル・ストゥイヴェン)
目まぐるしくポジションは入れ替わった。ロータリーやコーナーが、チームの隊列の邪魔をした。しかし、カオスの中で互いを見失っていたストゥイヴェンとマニエは、残り600m、「最高のタイミング」(ストゥイヴェン)で再会を果たす。
そのまま頼もしい発射台は、力づくで最前列への扉をこじ開けた。若きエースを引き連れて、ラスト250mのコーナーへと先頭で飛び込んだ。そして、わずかに左に蛇行する最終ストレートで、マニエを勝利へと解き放った。
「ヤスペルが素晴らしい仕事をしてくれた。残り600mから200mまで引っ張ってくれて、あとは僕が自分の力を披露するだけで良かった」(マニエ)
ミランも瞬時に反応した。しかしマニエの後輪につけていたはずが、250mのコーナーで、エドアルド・ザンバニーニに居場所を奪われた。しかも、うねりの内を突いたマニエに対して、ミランは外側からストゥイヴェンを追い越す必要があり、時間も距離も大幅にロスをしてしまった。
「チームは1日中仕事をしてくれたから、本当にみんなに対して申し訳なく思っている。最終コーナーで前から4番目にいたのは、僕のミスだ。マニエの後輪につけていなければならなかった」(ミラン)
スプリント3戦3勝、マリア・チクラミーノに王手
ブルガリアでの第1ステージ、第3ステージに続き、マニエにとっては嬉しいステージ3勝目。ジロがイタリア国内に入って初めての勝利であり、実に15ステージぶりの歓喜を味わった。
そもそもピュアスプリンターが問題なくスプリント勝利を争えたこと自体、第3ステージ以来初めて。第6ステージのナポリでは、フィニッシュ直前に大落車が起こり(抜け出した2人の背後で、マニエは3位フィニッシュ)、第15ステージのミラノでは、4人がまさかの逃げ切り(マニエは集団トップの5位)。その貴重なチャンスを、グランツール3週目初体験の22歳は、しっかりとつかみ取った。
「去年、初めてのジロは、疲れ切って2週間しか走れなかった。でも今は3週目に入って、区間3勝を上げて、ジャージも取り戻せた。ナルバエスとのバトルは厳しかった。でも今日で大きなアドバンテージを得られたと思ってる。だから今は、マリア・チクラミーノを着て、ローマでスプリントができるよう願ってるし、もちろん勝てたら最高だ」(マニエ)
マリア・チクラミーノを着て、ローマでスプリントができるよう願っているマニエ
フィニッシュで大量50ポイントを積み上げ、マニエは再びナルバエスを逆転した。両者の差は37ポイント。残り3日間で最大116ポイント収集可能だからこそ、マリア・チクラミーノの行方はいまだ確定していない。ただ例えば3日連続で中間ポイントを首位通過したとしても、トータルでは36点にしかならない。
目まぐるしい動きは見られたものの、総合上位の順列には一切変動はなかった。ヴィンゲゴーは5回目のマリア・ローザ表彰式を楽しみ、12枚目のマリア・アッズーラを手に入れた。総合2位に対する4分03秒のリードを手に、いよいよ2026年ジロのクライマックス、最終難関山岳ステージ2連戦へと向かう。
「まずは明日のことを考える。1日、1日を大切に過ごすだけ。とにかく脚の調子が良いことを願ってる」(ヴィンゲゴー)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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