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サイクル ロードレース コラム 2016年4月26日

【リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ/レビュー】 雨のち晴れのちブリザード… めまぐるしく変わる天候に翻弄されたアルデンヌクラシック最終戦で、ポエルスがキャリア最大の勝利!

サイクルNEWS by 寺尾 真紀
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メイン集団でコモーションが起きるのとほぼ同時に、先頭を行く8人にも動きがあった。まずメカトラブルでブリュットが脱落したところに、マキザール峠(残り48.5km)の頂上付近でデマルキがアタック。これに反応できたエデ、デヘント、遅れてラエンゲンも加わり、先頭4人でラ・ルドゥット(残り36.5km)に向かう。4人の40秒後ろには、ティラロンゴとロワ、そのさらに後ろにはヴォクレールがいる。ただ、モビスタを先頭に進むプロトンは、もうそのすぐ背後に迫っている。

ラ・ルドゥットの斜面で再び雨が激しく降り始め、みぞれに変わり、白い大粒の雪が舞い始めた。往年のレースでは勝負を左右する決戦地だったラ・ルドゥットは冬景色に早変わりし、色とりどりのカサとレインコートに声援を受けながら、選手たちは草原の道を通りぬけていく。

映画のシーンを行ったりきたりするように、天気はめまぐるしく変わり続ける。ラ・ルドゥットを抜けた選手たちの頭上に、こんどは太陽がさんさんと輝き始めた。レース残り30km、メイン集団からアンドレー・グリブコ(アスタナ)がアタックをかけるが、最後まで逃げ続けていたデマルキ、エデ、デヘントとともにラ・ロッシュ・オ・フォーコン(残り20.5km)の上りが始まる手前で、メイン集団に吸収された。

レース残り21km。勝負は、ラ・ロッシュ・オ・フォーコン、サン・ニコラ、そして今年新しく新設されたラ・リュ・ナニオの3つの上りを残すのみ。

これまで何回も勇敢な(そして勝利につながる)アタックの舞台となってきたフォーコンの急坂は、アラフィリップとダニエル・マーティンを擁するエティックス・クイックステップが先頭で上り始めた。そのすぐ後ろには優勝候補に名を挙げられる有力選手たちが続く。モビスターのアレハンドロ・バルベルデ、オリカ・グリーンエッジのミハエル・アルバシーニ、アスタナのヴィンチェンツォ・ニバリ、ランプレのルイ・コスタ。チームスカイも、クリス・フルームこそ少し後方だが、Z セバスティアン・エナオ、ラーシュペテル・ノルダーグ、ワウテル・ポエルスらが前方につけている。すでにハイペースの集団からアタックはなかったが、集団は40人程度まで絞られた。いくつもの小グループが遅れ、後方に取り残されていく。

ラ・ロッシュ・オ・フォーコンを下り、残り18kmの地点で、カルロス・ベタンクール(モビスター)がアタックをかけた。膝小僧が見えるハーフ丈のパンツは見るからに寒そうだが、気にする様子もなく、サドルから腰を上げ、ペダルを踏んでいく。まだ5人を残す(アラフィリップとマーティンを含めだが)エティックス・クイックステップが先頭に立ち、小柄なベタンクールの姿を追う。

そしてここで、『グランドホッグデー(映画『恋はデ・ジャヴ』をご参照ください)』の時間ループのような執拗さで、雪まじりの雨がまた吹きつけはじめる。

エティックス・クイックステップのローレンス・デプルスが先頭に立ってペースをあげ、ベタンクールを吸収。ヒット・ミス・ヒット・ミスとアタックが続くのがこのレースの常であるが、すかさず、今度はアスタナのグリブコ、スカイのクヴィアトコウスキーがアタック。ここに引き戻されたばかりのベタンクールも加わり、10秒程度のアドバンテージを作り出す。

右左とテクニカルなターンが続く市街地で、ようやく集団は3人を吸収することに成功する。サン・ニコラの足もとにたどりつく集団には、もう30名ほどの選手しか残っていない。

昨年まで最終の上りだったサン・ニコラの斜面でまずベタンクールがアタック。続けてロメン・バルデ(Ag2r・ラモンディアル)がアタックを試みるが、その左側からディエゴ・ゴーザが抜け出す。イルヌール・ザッカリン(チームカチューシャ)が猛加速で追いつき、色鮮やかな赤と水色のジャージがそれぞれ前になり、後になりしながら、サン・ニコラの頂上を越えていく。

一方後方では、グランツール覇者のニバリ、リエージュ優勝経験者のゲランスらが、集団から遅れ、上位争いから脱落していく。

レース残り5kmのゲートのあたりで、ワレン・バルギル(ジャイアント・アルペシン)、バルデを先頭にした集団が2人に追いつき、そのままのペースでコード・ドゥ・ラ・リュ・ナニオ(ナニオ通りの坂)への急な右カーブを曲がりこんでいく。

今年2月に発表されたリエージュの新しい「最終の上り」は、全長600m、平均勾配10.5%という、石畳の、短くハードな上り。250kmというロングレースのゴール前2.5kmに登場し、ここで離されたらアンスのフィニッシュラインまでにそのギャップを取り戻すのは困難だ。

昨年のフレッシュ・ワロンヌとリエージュでは、初出場ながら2位に入賞、水曜のフレッシュ・ワロンヌでも2度目の2位入賞を果たしているアラフィリップが、リュ・ナニオの坂道をまっさきに駆け上がる。頂上から300mの地点でアルバシーニが前に回りこみ、サドルから腰を上げず、力強いペダリングで加速する。これにコスタが続き、すばやく反応したサムエル・サンチェス(BMCレーシング)とポエルスがダンシングで2人を追う。4人と後続との間にあったバイク2〜3台分のギャップが、みるみるうちに広がる。坂道の頂上で石畳が途切れ、4人はアンスへの2.5kmを走り始める。

街路樹の間からは青空がのぞき、陽射しがきらめいている。雨が落ちる心配はもうない。ところどころに水たまりが残る道を進んでいく。ゴール前1kmのフラムリュージュを抜けたところで、4人は互いに顔を見合わせるが、集団からはザッカリンも飛び出し、いつまでもお見合いを続けている訳にはいかない。意を決したように、再びアルバシーニが先頭でゴールを目指す。

ゴール前250mの左コーナーを曲がりきったところで、アルバシーニの背後からポエルスが飛び出した。アルバシーニ、コスタも続いてスプリントをきる。サンチェスはスプリントをきり始めたが、あきらめてスピードをゆるめた。ゴール前50mでポエルスの後輪からアルバシーニが飛び出し、ラインめがけてハンドルを投げるが、届かない。ポエルスは両手を広げ、右手を突き上げてフィニッシュラインを越えた。

間断をおいて繰り返し天気が崩れ、ただでさえハードなルートで知られるレースは、想像を超えた消耗戦になった。それでも154人がフィニッシュラインに辿りつき、雨風だけでなく、吹雪にも負けない、自転車選手のタフさを印象づけた。

トレック・セガフレードの別府史之選手も、ポエルスのタイムから14分6秒遅れの134位で完走している。6℃以上に上がることのない寒さの中、6時間38分35秒に及ぶ戦いだった。

これまでにツアー・オブ・ブリテンやティレノ〜アドリアティコで区間優勝、今年に入ってからは、バレンシア一周で区間・総合優勝、カタルーニャで区間一勝、直前のフレッシュ・ワロンヌでは4位に入賞しているワウテル・ポエルスにとって、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでの優勝は、キャリア最大の勝利。これまでワンデー・クラシック(セミクラシックでの勝利はすでに経験している)での勝利がなかったチームスカイに、初のクラシック優勝、それもモニュメントにおける勝利をもたらした。

オランダ人によるリエージュ優勝は、ポエルスが生まれた翌年の、1988年のアドリ・ファンデルプール以来。 「ワンデーでいい成績を残して、リオ五輪行きのへの切符を手に入れたい」と控えめにアルデンヌへの抱負を語っていたタフなオランダ人が、もっとも格式高いクラシックレースで勝利を手にした。

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