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メジャーでは、ベーブ・ルース以降も、二刀流で行けばそれなりに結果を残したであろう強打の投手は数多く存在した。比較的近年でも、1999年にマイク・ハンプトン(アストロズ)は、リーグ最多の22勝を挙げ打率.311&OPS.806を記録したし、通算132勝で2006年には最多勝(16勝)のタイトルを獲得したカルロス・ザンブラーノは通算24本塁打で、打率3割以上のシーズンが3度もあった。現役選手でも、マディソン・バンガーナー(ダイヤモンドバックス)やザック・グレインキ(アストロズ)は、大谷のように登板しない日はDHで出場すれば(残念ながら、バンガーナーはナ・リーグ球団にしか所属したことがないが)、20本塁打前後でOPS.800くらいは期待できたかもしれない。しかし、ここに名を挙げた強打の投手たちに対し、本格的に二刀流を求める声はほぼなかったと言って良い。それは、ひとつにはMLBでは、特に近年は分業の概念が浸透しているためであり、スター選手の年俸がNPBとはケタ違いに高く、故障のリスクを簡単に冒す訳には行かないことも影響していたと思う。
しかし、それだけではない。彼らは実力に関しては(ある意味では大谷以上に)優れた投手で、恐らく打者としても完成度という観点では大谷にヒケを取らなかったと思う。しかし、ひとつ決定的な違いがある。それは、実力以前の「ツール」だ。大谷は先発投手として時速100マイル(161km)の豪速球を投げ、打っては470フィート(143m)の大ホームラン(6月8日のロイヤルズ戦での今季17号)をかっ飛ばすパワーがある。そして、走塁ではカモシカのように走る。「100マイルを投げ特大のホームランを放つ」という極めて分かりやすく見ている者の胸をすく「ツール」、これこそが彼らとの決定的な違いだった。
だからこそ、毎年故障を繰り返して簡単には「どちらかに」とはならず、本人も首脳陣もメディアもファンも、二刀流へのロマンを抱き続けてきたのだと思う。
文:豊浦彰太郎
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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