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野球 コラム 2021年5月27日

野球への冒涜?それとも救世主?米独立リーグで試される投手・本塁間の延長

MLB nation by 豊浦 彰太郎
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米独立リーグのアトランティック・リーグ(ALPB)

米独立リーグのアトランティック・リーグ(ALPB)|筆者撮影

現地時間5月27日に開幕する米独立リーグのアトランティック・リーグ(ALPB)では、球宴明けの8月から、MLBとの契約に基づいた型破りなルールの試みが行われる。何と、投手プレートを後方に1フィート(30.48センチメートル)移動させるのだ。

なぜか不可侵だった投手・本塁間
野球はとても妙な競技だ。フィールドの形状やサイズが一定ではない。両翼までの距離、右中間・左中間の膨らみ、外野フェンスの高さ、ファウルエリアの広さ、全てが異なっている。しかし、金科玉条のごとく不変なものもある。そのひとつが投手プレートと本塁間の距離だ。それは、野球の黎明期においては変更を繰り返したが、1893年に現在の60フィート6インチ(18.44メートル)と規定されてからは不変だ。そして、これは塁間の90フィート(27.43メートル)とともに、攻守バランスを保つ上で神聖にして不可侵と認識されてきた。

この夢のような(悪夢のような?)実験を行うALPBを2年前にぼくは訪問取材した。MLBからの要請による彼らの新ルール実験プロジェクトはその年にスタートしており、ストライク・ボールの判定においてAIの判断を参照する通称「ロボット審判」、三振でなくても打者は隙を見て一塁に走れる「一塁盗塁」などが試行されていたからだ。

実は投手プレートの後方移動も、2019年後半から実施される予定だった。しかも、移動距離は1フィートではなく2フィートで計画されていた。しかし、実際にはこの新ルールは運用されなかった。今回メール交換でインタビューした同リーグのリック・ホワイト会長によると、「所属の選手(特に投手)から、長い距離を投げることが故障を誘発するのではないかとの声が少なからず上がった」という。しかし、その後MLBとALPBはスポーツ医療の専門家による実験を行い、故障のリスク増大はないとの結果を発表した。それでも1フィートに短縮されたのは、ソフトランディングを図ってのことだろう。

リック・ホワイト会長

リック・ホワイト会長

野球はどんどん退屈に
投手プレートと本塁間の延長は、実は荒唐無稽ではない。実際に、リトルリーグなどのアマチュア野球では短縮されたディメンジョンが採用されている。選手の体躯、体力によって距離を変えることは、そもそも理にかなっている。プロの世界でも、まだ肉体が成長過程にあるティーンエイジャーが多い下部リーグにおいては、メジャーや3Aとは異なる距離でも良いのではないか。したがって、将来このALPBの実験結果に基づいて、MLBで距離の延長が行われたとしても、低いレベルのマイナーリーグは従来のままで決して不合理ではない。

最初に距離延長が発表された際、この試みにはメディアやファン、関係者のリアクションは反対や動揺が主流だった。しかし、今季のMLBは開幕後2ヶ月弱の段階ですでに6度のノーヒットノーランが達成されたように極度の投手力上位だ。特に三振の過剰さは野球という競技の持つスリリングな要素を奪い去る結果になっており、大いに懸念されている。

しかし、三振の急増と低打率化という傾向にありながら、本塁打は決して少なくない。ツインズやヤンキースがシーズン300発という途方もない記録を残した2019年よりは若干低いレベルにはあるが、史上最低打率の今季にしても1チーム1試合あたりの本塁打数は1.15で30年前の約5割増だ。メジャーリーグからどんどんインプレー打球が減少し、三振と本塁打が増えているのだ。本来それらは野球の華かもしれないが、発生した瞬間にフィールドからアクションを奪ってしまう。野球は退屈な競技になりつつある。

狙いはモア・アクション
ぼくが2年前にALPBを取材した際にも、各球団のGMたちは「新ルールの多くは、より多くのアクションを取り戻すこと、ダルなアイドリング時間を可能な限り排除することを目的にしています」と語っていた。その時は「ロボット審判」が注目を集める中で、ワンポイントリリーフ禁止(投手はイニング完了か打者3人への投球を終えねば交代できない)、投手交代時以外のマウンドビジット禁止、攻守交代時間の短縮、なども導入されたため、「MLBは時短にやっき」との印象を与えたが、目指すことはモア・アクションなのだ。

そう考えると、投手の体格が年々向上し、速球のスピードがかつては想像もできなかったレベルまで上がってしまった現代においては、投打バランス是正にこの距離延長の試みは大いに意味がある。忘れてはいけないのは、申告敬遠も、ワンポイントリリーフ禁止も、ALPBでの試行を経てMLBに正式採用されている、ということだ。ロボット審判も、将来MLBでの導入の可能性はかなり高いと見られている。このリーグで試されることは、将来のMLBでの採用を念頭に置いているのだ。

MLBが距離延長を行うとどうなるのか?ホワイト会長は、あくまで私見としながらも、「少なくともMLBと協調体制にあり選手の人的交流も盛んなNPBや韓国のKBOや台湾のCPBLはそれに倣うのではないでしょうか。また、WBCなどの国際大会もそうなる可能性は高いでしょう」と語った。距離延長は前述の通り、同リーグの開幕からではなく、後半戦から導入される。これにはさまざまな理由があるが、最重要なのは同一シーズン内で比較データを取得することだ。

もうひとつの新ルール「ダブル・フック」
なお、距離延長は後半戦からだが、開幕から採用される注目の新ルールもある。それは「ダブル・フック(Double hook)」というもので、先発投手が降板するとスタメンDHも退かねばならない、というものだ。(Hookには、交代させる、という意味もある)。そのDHに次の打順が回ってくると、救援投手が打席に入るか、代打を送らねばならない。これは、DH制の有無で異なるMLBのア・リーグ、ナ・リーグのルールの折衷案と位置付けられているのだが、ファンがその試合を見たいとする主要な要因である先発投手をなるべく長く試合に留めておくことも目的としているという。ホワイト会長は「より代打のスペシャリストが重視されることになるでしょう」とも期待している。

われわれは数年のうちに、歴史の証人になるかもしれない。

文:豊浦彰太郎

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豊浦 彰太郎

1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]

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