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もはや、「ほほぅ、今日もか」くらいの感覚だ。現地時間5月19日、ヤンキースのコリー・クルーバーがレンジャーズ戦でノーヒット・ノーランを達成したが、不謹慎を承知で言うなら「快挙」という表現を用いることに若干の抵抗すら感じてしまう。なにせ、開幕から約1ヶ月半強ですでに6度目。クルーバーの前日には、タイガースのスペンサー・ターンブルがマリナーズ戦で達成しているので2日連続なのだ。さらに外数としては、ダイヤモンドバックスのマディソン・バンガーナーによる、ダブルヘッダーゆえの7回戦制での参考記録のノーヒッター(4月25日)もあった。仮にこのペースが閉幕まで続くと、今季は20度くらいになってしまう。さすがにそれはないだろうが、2015年の年間7度のメジャー記録(継投での達成を含めれば、他にも7度のシーズンはある)を更新する可能性は十分だ。
今季は確かに異常だが、単独ノーヒッターは2000年代には14度だったのに対し、2010年代は34度、そして2020年代(短縮シーズンの昨季とまだ2ケ月に満たない今季)はすでに8度も達成されている。この10数年で頻度が高まっていることは事実だ。
その理由として、まずは近年三振数が異常なまでに増えてきていることが挙げられる。9回平均の三振数は、2000年には6.5だったが、今季は9.2(現地5月20日時点、以下同様)。もはや、「イニング数を上回る奪三振数」というのは、投手にとって特に誇れるものではなくなっている。
BABIP(Batting Average on Balls in Play)の法則という考え方がある。本塁打と三振を除いた打率は強打者もそうでないものも、長いスパンでは概ね3割前後に落ち着く、というものだ。この考え方に立てば、三振数が増えれば増えるほど平均打率は低下する理屈になる。実際、今季の平均打率は.236で史上最低だ。
三振増の理由としては、トレーニング法の進化等で球速が目に見えて増していることが第一だ。フォーシームファストボールの平均球速は、セイバーサイトのfangraphsによると、2010年には92.3マイル(148.5km)だったが、今年は93.8マイル(150.9km)だ。今や150kmでは、「並以下」なのだ。その一方で、チャンジアップなどのいわゆるオフスピードピッチはより多用される傾向にある。剛速球と組み合わされると、ちょっと打てるものではない。
また、打者も「フライボール革命」の波に乗り、従来以上に長打を狙い、その代償として三振を厭わなくなっている。メジャーでは昔から「ホームランバッターは(アメリカの高級車の象徴であった)キャディラックに乗る、シングルヒッターはフォード(ここでは大衆車の意味で用いられている)に乗る」という格言があるが、それに対する信奉が強まった?のだ。
低打率化傾向には、三振増だけでなく、近年すっかり普及した極端な守備シフトも貢献しているかもしれない。本来なら、野手の間を抜けていく打球が凡打になるケースは多い。性急な判断は禁物だが、「長い目で見れば3割」のはずのBABIPが今季は.288で、これは1993年以降では最低だ。
そして、今季から採用されている低反発と言われている公式球の影響もあるかもしれない。ただし、本塁打数は減っているとはいえ、ひと昔前と比較すると依然高水準にある。
ここに紹介した要素の総合が、やたら多いノーヒッターという現象に繋がっているのだと思う。しかし、ここで本当に問題視すべきは、ノーヒット・ノーランのインフレとそれによる価値の低下ではない。
真の問題は、投手と打者の対戦の結果に対し、本塁打と三振(さらに言えば四球)の構成比が高くなったことなのだ。ある程度数が抑制されている限り、本塁打はやはり野球の華だと思うし、奪三振シーンもエキサイティングだ。しかし、それらは四球も含めアクションの停止をもたらしてしまう。打球を追いかける野手、メジャーならではのダイビングキャッチ、スリルに満ちた走塁、これらがどんどん減少しているのだ。野球はよりアクションの少ない退屈な競技になりつつある。
われわれは、ノーヒッターの大安売りという直接的な現象だけでなく、その背後に潜む野球の魅力の本質への危機にも目を向けるべきだろう。
文:豊浦彰太郎
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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