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現地時間4月15日は、恒例のジャッキー・ロビンソン・デーだ。短縮シーズンだった昨季は8月28日だったが、今年は本来の日程に戻る。1947年のこの日、ブルックリン・ドジャースの一塁手として、ロビンソンがエベッツ・フィールドでのブレーブス戦にデビュー。19世紀から黒人選手に門戸を閉ざしていたメジャーのカラーラインが破られたのだ。
その歴史的な日から半世紀後の1997年の4月15日には、彼の背番号42は全球団の永久欠番になった。2004年にはジャッキー・ロビンソン・デーがMLB全体の記念日として制定され、2009年からはこの日は全選手が42番を背負うことになった。いまや、MLBの年間カレンダーの中でも、ロビンソンデ・デーは欠くことのできないイベントとなっている。
個人的には、近年の盛大なロビンソン・デーにはやや違和感を抱いていた。「彼の功績により、多くの黒人選手のみならず、ラテンアメリカをはじめとする多くの国や地域からも優秀な選手が集まるようになり、メジャーの人種的多様性が飛躍的に拡大した」というメッセージ自体は事実なのだけれど、反面メジャーでの人種問題は、特に日本のような異国のファンには、過去完了であるかのような印象も与えていたと思う。
しかし、実際にはロビンソンのデビューはメジャーの人種差別の終焉ではなく、闘いの始まりであった。1960年代では、黒人選手はたとえスター級であっても、南部フロリダでのキャンプにおいては宿泊施設の確保に苦労した。1963年にヤンキースのエルストン・ハワードがア・リーグでは初の黒人選手としてのMVP(メジャー初は49年のロビンソン)に選出されると、「黒人がMVPになるなんて」というひどいバッシングに遭った。74年にハンク・アーロンがベーブ・ルースの通算本塁打記録714本を更新した際には、多くの脅迫が寄せられた。その後も人種差別に関するエピソードは事欠かない。近年では、2017年に、現在オリックスに在籍するアダム・ジョーンズが、ボストンのフェンウェイ・パークで観客から人種的侮辱行為を受けたとメディアにぶちまけたことが大きな反響を呼んだ。カラーラインが破られてから74年もの年月が流れたが、まだ人種差別問題は進行形なのだ。
昨年5月、ミネソタ州での白人警官による黒人男性への暴行死事件をきっかけに、それまで各地で燻っていたBlack Lives Matter(黒人の生命を軽視するな)運動が全米規模で爆発した。9月の全米オープンテニスでは大阪なおみ選手の、黒人への襲撃事件での犠牲者名を記した黒いマスクによる主張で、「人種問題への無関心は悪である」、「具体的な行動こそ大切である」ことが再認識された。メジャーでも、試合前の国歌斉唱時に片膝をついて抗議の意を表明するニーリングなど、人種差別是正を訴える動きが相次いだ。8月にウィスコンシン州で白人警官による銃撃事件が起きた際には、複数のチームが抗議のため公式戦をボイコットした(コロナ禍で無観客開催であればこそ実現したとも言えるが)。
今年のロビンソンデーを前に、南部ジョージア州では黒人をはじめとするマイノリティの投票権行使を妨害することを目的としたとしか思えない選挙法改正があった。MLBはただちに、7月に同州のアトランタで開催予定だったオールスターゲームを他都市(最終的にデンバーとなった)に移転させるとし、抗議の意思を表明した。
この一件は、黒人差別とそれに反対する正義という単純な図式ではない。昨年11月の大統領選、およびその結果に大きなな影響を及ぼした同州上院2議席の選挙で民主党が勝利したことに対する共和党の戦略的な報復であり、野球離れが指摘される若年層や、企業イメージを重視するスポンサーから人種差別是正に弱腰との反発を恐れるMLBの極めて政治的な判断でもあった。また、今回のMLBの決断は、20世紀前半を中心に存在した非白人のプロ野球リーグ、通称ニグロ・リーグの一部を、その誕生100周年に合わせ昨年12月に「メジャーリーグ」として認定するという、やや偽善的とも取れる発表を下したばかりということもあり、それとの整合性を取ったものとも解釈できる。現在の人種問題は、単に倫理的な観点のみからでは解釈できない複雑なものであることを象徴する出来事でもあった。
今回のロビンソンデーは、これまでが「ロビンソンの偉大さ、彼の登場の歴史的意義を褒めちぎってさえいればOK」という免罪符的イベントであり、MLBのパブリシティ戦略のひとつだった(ように見えた)のとは必然的に異なる。
いまもメジャーに、そして米社会のみならず世界中にはびこる人種差別をわれわれに再認識させてくれる極めて意義深いものになるのではないか。
文:豊浦彰太郎
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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