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ワクチン接種が進みつつあるとは言え、米社会の新型コロナウィルスの脅威は依然予断を許さない。しかし、そんな中でもベースボールシーズンはやって来る。各球団とも、すでにスプリング・トレーニングに突入している。これをひとつの区切りとして、このオフをレビューしてみよう。以下は、個人的チョイスのオフの5大ニュースだ。
ニグロリーグのメジャー認定
昨年12月、MLBは1920年から48年までに活動した二グロ・アメリカン・リーグ、ニグロ・ナショナル・リーグら計7リーグを「メジャーリーグ」として認定すると発表した。ちなみに、それまでもアメリカン・リーグとナショナル・リーグ以外の「メジャー」はあった。19世紀に存在したアメリカン・アソシエーションや1914−15年に活動した「フェデラル・リーグ」ら4つのリーグも「メジャー」とMLB機構に認定されている。
今回の主要ニグロリーグの認定で、3400人ものメジャーリーガーが後付けで誕生した。やっと彼らが日の目を見た、とポジティブに捉える声も少なくないが、これをMLBによる欺瞞とする見方も根強い。全米でマイノリティの人権が大きな社会問題になっていることを背景に、ニグロリーグ誕生から節目の100年目となる2020年に合わせたスタンドプレーではないか?というのだ。そもそも、ニグロリーグが存在しなければならなかったことに根本的な問題あった。今になって上から目線?で、「認定してあげる」ことではなく、全く別のものとしてリスペクトのうえ認知し、その歴史を語り継ぐことこそ大切ではないか、との思いは拭えない。
マイナーリーグ改革強制執行
この空恐ろしい?MLBの計画が明らかになったのは2019年の10月だった。MLBとマイナーリーグを統括するNAPBL(National Association of Professional Baseball Leagues)との提携契約が失効する2020年一杯で、それまで162あった傘下のマイナーリーグ球団を120に縮小する、というものだった。この動きには、米国プロ野球の草の根を支えるマイナーリーグ文化に大きな影響を及ぼすと反対の声も多く、若者に絶大な人気を誇る上院議員バーニー・サンダースらも異を唱えた。
その後、米国は世界最悪の新型コロナウィルス感染拡大に呑み込まれ、2020年のマイナーリーグは1試合も開催されなかった。しかし、MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーは改革断行に何の怯みもなく、結局2020年シーズンを流した状態のまま、多くの球団は提携を打ち切られ、大学生のサマーリーグや、ドラフトから漏れた選手による敗者復活戦リーグなどでの再出発を強いられた。残った120球団(一部、独立リーグからメジャー傘下に「昇格」した球団もある)は、MLBのファームとして地理的に最適化するよう再編成され、「パシフィックコースト・リーグ」などの伝統の名称も消滅、3Aウェスト(イースト)などの無味乾燥な呼称に変更された。
感情的には怒りや同情が先行するが、第二次対戦後最大のマイナー再編成を成し遂げたマンフレッドの実行力には舌を巻かざるを得ない。そして、彼はマイナーも含めた(独立リーグを除くと)米プロ野球界ただ一人の統治者になったのだ。
初の女性GM誕生
11月にキム・アンがマーリンズのGMに就任した。史上初の女性GMの誕生だった。また、彼女は史上2人目のアジア系GMである。
「遅すぎた」というのが率直な感想だ。彼女は、ドジャースのGM補佐だった2005年にはすでに正GM就任の噂があった。しかし、その後複数の球団での面接を経ながらも、実現には至らなかった。それには様々な要因があったと思われるが、他の北米4大スポーツに比較しても重要ポストに女性やマイノリティが少ないと言われる野球界の閉鎖性が全く影響していない、とは言い切れないだろう。
野球殿堂入り1960年以来の選出なし
1月26日に発表された全米野球記者協会(BBWAA)の殿堂入り投票結果では、どの候補者も規定の得票率75%に達せず、2013年以来の選出なしとなった。成績だけなら「鉄板」のバリー・ボンズやロジャー・クレメンスに限りなくクロに近い薬物疑惑がついて回ること、同じくその実績は十分選出に値し、前年は70%もの得票を得たカート・シリングが、今まで以上に政治的・社会的に問題視されるべき言動を繰り返しているからだ。
そして、もうひとつのルートである時代委員会による選出は、郵便投票のBBWAA選出とは異なり、16人の委員(毎回高齢者が多い)による合議も伴うため、今回は選出自体が行われなかった(オンラインでやれば良い、という意見は当然あった)。そのため、61年ぶりの両ルートでの選出者ゼロという事態になった。
なお、毎年7月に殿堂近くのクラーク・スポーツセンターの広大な広場に数万人のギャラリーを集め開催される記念式典は、昨年は中止となった。今年は選出者がいないため、デレク・ジーターら昨年の選出者のみを対象に行われるが、「密」を避けるため屋内の別会場に変更される。
パドレスの積極補強とタティス・JRとの驚愕契約
パンデミックによる減収で多くの球団が補強資金を縮小する中、昨季14年ぶりのポストシーズン進出を果たしたパドレスのAJ・プレラーGMは、一気に勝負に出た。まずはトレードで2018年ア・リーグサイ・ヤング賞投手のブレイク・スネルをレイズから、昨季のナ・リーグ最多勝投手(8勝)のダルビッシュ有をカブスから獲得した。さらには、韓国球界のパワーとスピードを兼ね備えた遊撃手キム・ハソンと4年2800万ドルで契約した。
トドメは、2月22日に発表された22歳のスターであるフェルナンド・タティス・JRとの契約延長だった。それは、史上3番目の高額となる14年総額3億4000万ドルという超弩級で、それが年俸調停権獲得前の(言うなれば、球団側の言い値を押し付けることができる)選手との契約であることはさらなる驚きだ。
なおこのオフは、昨季の無観客開催による大減収やその後の不透明感により、当初は一向に燃え盛らないストーブリーグとみなされていたが、その終盤になって最大の大物FAで昨季のサイ・ヤング賞投手トレバー・バウアーのドジャースとの3年1億200万ドルでの契約や、タティスの契約延長などの大型契約が成立し、それなりに帳尻が合った?形だ。
文:豊浦彰太郎
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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