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今年亡くなった元メジャーリーガーのうち、殿堂入りの6人を含む10人を紹介したい。
ドン・ラーセン(1月1日没 享年90歳)
のべ8球団を渡り歩いたジャーニーマンで、通算成績は81勝91敗。シーズン最多も11勝(56年)だが、史上唯一のワールドシリーズでの完全試合達成者として球史に名を残した。53年のデビューはセントルイス・ブラウンズ(現オリオールズ)で、当時から大酒呑みとして知られた。翌年には3勝21敗というある意味驚愕の記録を残している。54年に17人が絡むトレードでヤンキースへ。56年のドジャースとのワールドシリーズでは第2戦に先発も2回でKOされた。自身も「もう登板はないと思った」が、2勝2敗で迎えた10月8日の第5戦の朝、ヤンキー・スタジアム入りするとロッカーの彼のスパイクにケーシー・ステンゲル監督が置いたボールがあった。これは先発の指示だ。そして、ラーセンは97球でとんでもない快挙を達成した。スリーボールも初回の一度だけだった。7戦まで絡れたこのシリーズはヤンキースが制し、彼はMVPに選出された。サンディエゴのポイント・ロマ高出身で、後輩のデビッド・ウェルズも98年にヤンキー・スタジアムで完全試合を達成している。また、99年に自身が始球式を務めた同球場でのゲームでデビッド・コーンが完全試合を成し遂げた。
トニー・フェルナンデス(2月15日没 享年57歳)
スリムな体型のスイッチヒッターで、ブルージェイズを中心とする17年のメジャーキャリアで2276安打を積み上げ、打率3割以上を4度記録した。晩年(00年)に在籍した西武でも.327をマーク。球宴には5度選出され、遊撃手としてゴールドグラブも4年連続で受賞している。ヤンキース在籍の96年、スプリングトレーニングで右ひじを骨折。その穴を埋めるべく急遽昇格し、そのまま遊撃のポジションを獲得したのがあのデレク・ジーターだった。
アル・ケーライン(4月6日没 享年85歳)
53年に高校から即メジャーへ。すると、20歳で首位打者に輝いた。その後は強打&ゴールドグラブ10度受賞の強肩の外野手としてタイガース一筋に計22年プレーヤーし、「ミスター・タイガー」と呼ばれた。球宴出場は15回だった。キャリア唯一となる68年のワールドシリーズシリーズでは、打率.379&2本塁打OPS1.055と大活躍し、23年ぶりの世界一に大きく貢献した。74年を最後に、通算3007安打も399本塁打で引退。「息子がカレッジに入り親元を離れる前に一夏を一緒に過ごしたい」との想いからだった。80年の殿堂入りを機に、背番号6は球団初の欠番になった。引退後もデトロイト近郊に在住し、球団フロント名誉職、ブロードキャスター、スプリングトレーニングでのインストラクターなどを歴任。最後まで「ミスター・タイガー」だった。
ボブ・ワトソン(5月14日没 享年74歳)
66年にアストロズでデビュー。19年のキャリアで打率.295、184本塁打を記録した。ちなみに内117本はアウェイで稼いだもの。現役時代の大部分の本拠地が広いアストロドームや左中間が広大だったヤンキー・スタジアム(彼は右打)だった影響もありそうだ。これでも十分立派な成績だが、引退後のキャリアではそれ以上の成功を収めた。コーチを経て93年にアストロズでGMに。史上2人目の黒人GMだった。95年オフにヤンキースのGMとなり、翌シーズンにはワールドシリーズを制した初の黒人GMとなった。その後はMLB機構で要職に就いた。
トム・シーバー(8月31日没 享年75歳)
69年奇跡の世界一の立役者でメッツ史上最大のスター。低迷期のメッツ在籍が長いが、通算勝率.603は同時期の300勝投手(他はスティーブ・カールトン、ドン・サットン、ノーラン・ライアン、フィル・ニークロ、ゲイロード・ペリー)中トップだ。「ドロップ&ライド」のフォームでサイ・ヤング3度受賞。9年連続200奪三振以上は今もメジャー記録だ。甘いマスクと74年と78年の2度の来日で日本でもファンが多かった。もっとも、74年は夫人が出産を控え彼自身は難色を示したが、主催者の強い要望に押し切られたようだ。92年殿堂入りの得票率98.84%は昨年まで史上最高だった。2019年に認知症を患っていることが公表された。
ルー・ブロック(9月6日没 享年81歳)
デビューはカブスだったが、本格開花は64年途中にカージナルスに移籍してから。カブスが放出したのは、一説には当時カブスにはブロックを含め黒人選手が多かったためとも。「球団幹部がファンの反発を恐れたんだ、カブスをモナークス(かつてのニグロリーグの名門)にする気か!って言われるのをね」と、当時のコーチで自身もニグロリーグのレジェンドだったバック・オニールは語っている。単年118盗塁(74年)と通算938盗塁はともに一時はメジャー記録で、通算安打も3023本。一方WARは43.2と低い。四球が少なく守備は不得手のためだ。しかし、70年代のスピード野球に先鞭を付けた歴史的意義と64年、67年、68年と計3度のワールドシリーズ(全て第7戦まで絡れ込んだ)での打率.391、OPS1.079、14盗塁という傑出した活躍で、間違いなく球史に残る存在だ。85年殿堂入り。糖尿病で晩年にスピードスターの命とも言える足を切断した。正に断腸の思いだったろう。
ボブ・ギブソン(10月2日没 享年84歳)
同僚ブロックの後を追うように世を去った。投手上位の60年代の象徴で、68年は飛ぶボール導入の1920年以降ベストの防御率1.12を記録。34先発で28完投だった。完投できなかった6登板も7回以降に代打を送られたためで、実質KOはなし。59年から75年までカージナルス一筋で通算251勝。投球後は一塁側に倒れ込む「2時35分を示す時計の針のような」(J.G.テイラー・スピンク賞作家のロジャー・エンジェル)躍動感あふれるフォームで、サイ・ヤング賞は70年にも受賞している。球宴選出は9度。攻撃的な投球で、自伝では「9つの球種を操ったよ。2種類の速球、2種類のスライダーにカーブ、チェンジアップ、それと退け反らせる投球、当てる投球、倒す投球だ」と述べている。81年殿堂入り。
ホワイティ・フォード(10月8日没 享年91歳)
打のミッキー・マントルとともに、「ルースが建てた家」で73年限りで取り壊された初代のヤンキー・スタジアム時代最後のスーパースター。通算236勝はヤンキース史上最多で、勝率.690は近代野球の200勝投手では歴代1位、ワールドシリーズ10勝も史上最多だ。正確無比の制球力と「5番街の銀行の頭取のよう」と評された冷静沈着なマウンドさばきで知られたが、キャリア後半はエメリーボールという不正投球に手を染めていたことを後年告白している。ヤスリで磨いた指輪やベルトのバックルなどでボールホークにこっそり傷を付けていたようだ。74年に殿堂入りし、「16」は球団初の投手としての欠番になった。存命の最高齢ホール・オブ・フェイマーは93歳のトミー・ラソーダで、フォードは彼に次ぐ年長者だったが、91歳での大往生でNo.2は90歳のウィリー・メイズとなった。
ジョー・モーガン(10月11日没 享年77歳)
75〜76年世界一のレッズの中心的存在で、両年ともMVPに輝いた。身長170cmながら最高出塁率4度の選球眼と、通算268本塁打のパワー&689盗塁のスピード、二塁手としてゴールドグラブ受賞5度の守備力と、正に万能だった。78年秋のレッズ来日メンバーから外れたのは残念だった。主としてその出塁率の高さで、21世紀以降普及したセイバーメトリクス的に最も高く評価されるタイプのプレーヤーだったが、自身は統計学より勝負のあやを重視するオールドスクール派で、引退後長く務めた解説者としてはセイバーを毛嫌いしていた。その分、第1回WBCでは日本チームを「基本がしっかりしている」と高く評価した。90年殿堂入り。
ディック・アレン(12月7日没 享年78歳)
64年の新人王で72年のMVP。トラブルメーカーとしても有名だったが、そのキャリアは黒人差別との戦いであったことを忘れてはいけない。守備時もヘルメットを着用したのは、スタンドから物を投げつけられたから。現役生活は15年と長くはなかったが、通算OPS+は156で、あのウィリー・メイズ、フランク・トーマスと並び歴代14位タイだ。「リッチー・アレン」と表記されることもあった。リッチーもディックもリチャードの愛称だが、前者は幼児的なニュアンスもあり、誇り高い彼はこれを毛嫌いした。初の屋根付き球場アストロドームが開場2年目の66年に人工芝を採用した際に、「馬が喰まぬもの上でプレーできるか」という名言を吐いたことでも知られる。
文:豊浦彰太郎
豊浦 彰太郎
1963年福岡県生まれ。会社員兼MLBライター。物心ついたときからの野球ファンで、初めて生で観戦したのは小学校1年生の時。巨人対西鉄のオープン戦で憧れの王貞治さんのホームランを観てゲーム終了後にサインを貰うという幸運を手にし、生涯の野球への愛を摺りこまれた。1971年のオリオールズ来日以来のメジャーリーグファンでもあり、2003年から6年間は、スカパー!MLBライブでコメンテーターも務めた。MLB専門誌の「SLUGGER」に寄稿中。有料メルマガ『Smoke’m Inside(内角球でケムに巻いてやれ!)』も配信中。Facebook:[email protected]
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