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野球 コラム 2018年11月14日

ヤンキース・ファンよ、黙りなさい! 大谷の新人王獲得に思うこと

Do ya love Baseball? by ナガオ勝司
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ヤンキース・ファンが煩い(うるさい)。いや、煩かったと言うべきか。

理由は簡単だ。ヤンキースの主力2人―ミゲール・アンドゥハー内野手とグレイバー・トーレス内野手―が最終候補3人に残りながら、ア・リーグ新人王をエンゼルスの大谷翔平に持っていかれたからだ。

SNS上で彼らは言う。「アンドゥハーは149試合に出た。(打者として)104試合しか出てない大谷が賞を獲るなんてどうかしている」と。

「大谷が歴史的なこと(1919年ベーブ・ルースの29本塁打&9勝以来となる22本塁打&4勝)をしたって? アンドゥハーだってヤンキース新人最多の47二塁打を記録してる(それまでは1936年ジョー・ディマジオの44二塁打)」

中には「またもやアンチ・ヤンキースの投票だ」とか、大谷支持を打ち出していた同業者のツイッターに「あなたには投票する資格はない」といった投稿をする者までいた。

全米野球記者協会の記者による投票の締め切りは、すでに公式戦終了と同時に締め切られていたが、ワールドシリーズが終わった辺りからそういった投稿がSNS上を賑わし始めた。

おまけにMLBネットワークの各番組でも「接戦にはなるかも知れないが、最終的にはアンドゥハーが勝つのではないか?」という意見が飛び交い始めたため、「あれ? もしかしたらアンドゥハーがア・リーグ新人王になるのかな?」と思った人も多かったはずだ。

トークショー形式の「High Heat」という番組では、何かと口煩いことで知られる司会のクリス・ルッソが「日本のプロ野球で何年も活躍した選手に新人の資格なんてあると思えない」などと今さらのように言い、2003年にそれが論議を呼んで松井秀喜が新人王を逃した事実を持ち出しながら、こんなことを言う者まで出現した。

「そもそも、アンドゥハーやトーレスがいなければ、ヤンキースが100勝するなんてことは有り得なかったんだからね! 大谷は素晴らしい選手だが、彼がエンゼルスの成績にどんな影響を与えたと言うんだい?」

そういう意見はまったくの見当違いで、新人賞の投票には本来、「チーム成績と個人成績の関係」は反映されるべきではないし、実際の投票結果もそうなった。

▽ア・リーグ新人王投票結果
(1)大谷翔平(エンゼルス) 1位25票 2位4票 3位0票 計137ポイント
(2)アンドュハー(ヤンキース)1位5票 2位20票 3位4票 計89ポイント
(3)トーレス(ヤンキース) 1位0票 2位3票 3位16票 計25ポイント

日米野球で来日中のロベルト・アクーニャJr.外野手が、ナ・リーグの同賞に144ポイントで圧勝したのに匹敵する勝ちっぷりである。

結局のところ、新人王の投票権を持っていた全米野球記者協会の諸兄は、やれセイバーメトリクス(野球の統計分析)的視点だの、ランチアングル(打球の飛び出し角)だのと合理主義も甚だしい昨今のメジャーリーグに辟易しているのではないかと思う。

彼らは「誰に投票するのか?」と考えた時、論理的に大谷とアンドゥハーの成績を見比べながらも、主観性や感受性にも頼ったのではないか。古い言い方をすれば、彼らは大谷の「投打二刀流」に「ロマン」を見たのではないかと思う。

論理的には説明できない信じられないことが起きるからこそ、スポーツは面白いはず。統計分析や科学的なアプローチを野球に持ち込むのが普通になっている今、それゆえに「失われた大切な何か」を取り戻したいと思っている人は決して少なくない。

アンドゥハーの地元のニューヨーク・ポストの記者でありながら、大谷に1位票を投じたジョエル・シャーマンが結果発表の翌日、MLBネットワークでこう言っている。

「アンドゥハーのような成績を残した選手は過去にもいましたが、大谷のような成績を残した選手はいなかった。彼は投手と打者のどちらか1つでも成功するのが大変なメジャーリーグで、とてもユニークなことを成し遂げたのですよ」

シャーマン記者のことをヤンキース・ファンはSNS上で攻撃したが、彼のような見方をする人々は、実は球界内部に多かった。

2009年のア・リーグ本塁打王カルロス・ペーニャ元一塁手も、その一人だ。

「僕自身、メジャーリーグで活躍するってのは、とてもつもなく難しいことだと知っている。それをこの選手は打者としても投手としてもやってのけたんだ。そんなことはもう100年近く、誰もやれなかったことであり、とんでもなく、凄いことなんだ。僕にとってはもうそれだけで充分に、大谷は新人王だよ!」

それで「充分」だ。

個人的に熱狂的なヤンキース・ファンに敬意を持っているが、今は「ええ加減、黙らんかい」と言いたくなる。そして、自分たちが「どうして野球というスポーツを好きになったのか?」と思い出して欲しいとも思うのである。

ナガオ勝司

ナガオ勝司

1965年京都生まれ。東京、長野、アメリカ合衆国アイオワ州、ロードアイランド州を経て、2005年よりイリノイ州に在住。訳書に米球界ステロイド暴露本「禁断の肉体改造」(ホゼ・カンセコ著 ベースボールマガジン社刊)がある。「BBWAA(全米野球記者協会)」会員

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