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レッドソックスがドジャースを4勝1敗で下して、2018年のワールドシリーズ王者になった。
「こんなにつまらないシリーズは久しぶりやなぁ」と思ってしまうほど、圧倒的な力の差を見せつけてのワールドシリーズ優勝だった。
球団史上9回目のワールドシリーズ優勝は、同27回のヤンキース、同11回のカージナルスに次ぐメジャーリーグ3位タイ(アスレチックスも9回優勝している)であり、2004年に「バンビーノの呪い」を解いて86年ぶりの優勝を果たして以来、4回目である。
特筆すべきは、今世紀4回の優勝の間にチーム編成のトップに立つ人物が何度も代わっていることかも知れない。
2004年や2007年は、昨今の「名門大学出身でプロ野球経験なしGM」の流れを作ったセオ・エプスタイン(現カブス編成本部長)GMだった。
2013年に頂点に立った時には、ベン・チェリントン(現ブルージェイズ副社長、ベースボール部門)GMだった。
今年はデイブ・ドンブロウスキー編成本部長である。
2004年と2007年の優勝時のチームを構築したエプスタインは2011年に辞任しているが、それは事実上、カブスに移籍するためだった。
一部にはパドレスの研修生時代にエプスタインの才能を見い出した共同オーナーの一人、ラリー・ルキーノとの「父子みたいな関係」に、エプスタイン自身が辟易していたという報道もあるが、事実が何であれ、「現役最高の編成トップ」の一人を失ったのはチームにとっては大きな痛手だった。
後任のチェリントンは、エプスタインの「右腕」として働いていた人材で、エプスタインが「個人的な理由」で辞任した2005年のオフにも共同GM(もう一人は現カブスGMのジェド・ホイヤー)として一時的に同職に就いている。
エプスタインが松坂大輔や岡島秀樹を獲得したように、チェリントンも上原浩治の獲得や田沢純一の先発から救援への転向を後押しするなどして2013年にワールドシリーズ優勝を果たした。
しかし、その後の低迷の責任を負わされて2015年のシーズン途中に任を解かれている(メジャー球団のトップが代わる時 参照)。
だから、ドンブロウスキー編成本部長がこれから何かを間違えて、今後何年も低迷するようなことになれば、彼とて安泰ではないだろう。
ドンブロウスキーは、レッドソックス共同オーナーの一人であるジョン・ヘンリーがマーリンズのオーナーだった時代に同球団のGMだった人物だが、「旧知の間柄」が通用しないのはチェリントンのケースでも明らかで、そもそも不人気球団のマーリンズと人気球団のレッドソックスでは事情が違う。
ボストンやニューイングランド地方の「レッドソックス熱」は一過性のものではなく、サイヤングやベーブ・ルース、あるいはテッド・ウイリアムスやカール・ヤストレムスキーの時代から続く、長い伝統の上に成り立っている。
拡張球団マーリンズや地元のマイアミにそんな伝統があるはずはなく、たとえ彼らが1993年のナ・リーグ加入以来、すでにワールドシリーズに2回も優勝していても、そこにある物語性はレッドソックスやボストンにあるそれとは比較にならないほど薄い。
おまけにレッドソックスは、2004年の優勝までは「Lovable Loser≒愛すべき負け犬」だったのが、優勝経験を何度も重ねていく内にファンもメディアも「負け犬根性」を排除してしまった。今のレッドソックスには、いつ、いかなる時でも「チーム再建」など許さず、「いつでも勝つ」ことが要求されている。
エプスタイン政権の時代、彼は「ワールドシリーズに優勝する近道は、プレーオフに出場するチャンスを可能なだけ増やすこと」と語っていたが、レッドソックスはそれを可能にするため、エプスタインが去った後も(1)まず何よりも優れた編成トップを確保すること。(2)次代の編成トップを担える人材をその下に数多く、確保することを実践してきた。
だから、エプスタインやジェド・ホイヤーらを筆頭に、2000年代にレッドソックスに関わっていた人々が、他球団の編成部門で活躍しているのは偶然でも何でもない。
優秀な人材は自ずと他球団から「次世代のGM候補」として狙われる運命にあるが、彼らが抜けてもレッドソックスが競争力を維持することが出来るのは、いつでも「ガチ」で勝ちたいオーナーが、編成トップをいつでもアップデートして、最適化してきた証なのだと思う。
ナガオ勝司
1965年京都生まれ。東京、長野、アメリカ合衆国アイオワ州、ロードアイランド州を経て、2005年よりイリノイ州に在住。訳書に米球界ステロイド暴露本「禁断の肉体改造」(ホゼ・カンセコ著 ベースボールマガジン社刊)がある。「BBWAA(全米野球記者協会)」会員
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