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現地10月3日のア・リーグのワイルドカード・ゲームは一戦必勝の一発勝負である。
ヤンキースは去年も同ゲームに出場し、ツインズ相手に8対4で勝っている。今年は後半激しく追い上げたアスレチックスが相手になる(「マネーボール続編」が創造するペナントレース台風の目 参照)
両者の公式戦での対戦成績は3勝3敗の互角である。5月11日からの地元ニューヨークでの3連戦では2勝1敗。9月3日からの敵地オークランドでの3連戦は1勝2敗だった。
メジャーリーグをきちんと見ている人なら、それだけでピンとくると思う。
5月のアスレチックスは18勝19敗でア・リーグ西地区4位、9月のシリーズが始まった当時の彼らは82勝56敗で同2位だった。ヤンキースは5月の同時期は26勝11敗でア・リーグ東地区首位、9月の同時期は86勝51敗で同2位である。得点と失点は5月のシリーズがヤンキースから見て18対18で、9月のシリーズが10対15で、合計28得点対33失点だ。
つまり、9月のアスレチックスは5月の彼らとは別のチームと言ってもいいぐらいの状態まで調子が上がっており、9月の勝ちっぷり(16勝10敗で勝率.615)を見る限り、その勢いをほぼ維持している(ちなみにヤンキースは9月、15勝12敗で勝率.556だった)。
両者の対戦は「打撃戦」を連想させるが、それはヤンキースにはジャンカルロ・スタントン(38本塁打)やアーロン・ジャッジ、アーロン・ヒックス、ミゲール・アンドュハーの「27本塁打カルテット」がいて、アスレチックスにア・リーグ最多の48本塁打を放ったクリス・デイビス、マット・オルソン(29本塁打)、ステフェン・ピスコッティー(27本塁打 ダルビッシュがピスコッティー基金に寄付した本当の理由 参照)、マット・チャップマン(24本塁打)、ジェッド・ロウリー(23本塁打)らがいるからだ。
だが、両チームの先発投手が発表されて、自然とそっちの方に興味が注がれることになった。
ヤンキースは今季19勝8敗、防御率3.39のルイス・セベリーノ、アスレチックスは今季0勝1敗、防御率4.13のリアム・ヘンドリクスが先発する。
すでに方々で書かれているだろうから割愛させて頂くが、このヘンドリクスという投手、実は救援投手である。
救援投手を先発させる奇策は今季、レイズを始め幾つかのチームがトライし、成功とも失敗とも取れる微妙な結果を残した。それは何を以って「成功」と呼ぶのかを、今のところは誰も知らないからで、その奇策をアスレチックスのメルビン監督は、一戦必勝のワイルドカード・ゲームでやるという。
同監督は2日の共同会見でこう言っている。
「リアム(・ヘンドリクス)はその役割をうまくやった。彼を先発させるのは理に適ってると思う。リアムの後に誰を投げさせるのかは決めている最中だよ」
日本が2度目の優勝を果たした2009年のWBCオーストラリア代表でもある29歳は、先発の重圧など何のその、逆に中継ぎから解放されたことについて、のん気にこう話している。
「準備していたようで、準備していなかったような。いつもと違わないようにしていただけ。昨日、救援したみたいに普通に過ごしていただけなんだ。六回や七回や八回に投げないんだから、安心したよ」
英語版ウィキペディアによると、ヘンドリクスの父はオージー・フットボールの選手だったそうで、リアム自身も同じチームの選手になるチャンスがあったのにツインズとマイナー契約。2011年にメジャー・デビューを果たした。当時の彼は先発投手で、ロイヤルズからブルージェイズと移籍する過程で救援に転向したそうだ。現在、メジャー通算12勝22敗で防御率4.72である。245試合に投げて先発は42試合のみだ。今季は9月1日のマリナーズ戦に始まり、計8試合(すべて9月)に先発して最長でも1.2イニング、そのほとんどが1イニングで降板している。アスレチックスが当時から、ワイルドカード・ゲームを意識して彼を先発させていたとは思わないが、実はその内の1試合は9月4日のヤンキース戦である。
その日、ヘンドリクスは1番ガードナー、2番スタントン、3番マカッチェンを空振り三振、右飛、二ゴロに仕留めて序盤の「流れを作った」。ヤンキースは2番手ダニエル・メンデンにも苦戦して、六回途中までわずか2安打に抑えられた。結果的には終盤に5点を奪ったヤンキースが逆転勝ちしたのだが、七回に同点に追いつくまでの間、ヤンキース打線は沈黙し続けた。
アスレチックスは、メンデン降板後に送り込んだ6人の救援投手が2本塁打を含む7安打5失点したことで「奇策」に失敗したわけだが、彼らがこういうことにトライできるのは、アスレチックスの救援投手陣が彼らの「武器」だからだ。
救援投手陣のチーム防御率はアスレチックスの3.37に対して、ヤンキースが3.38とほぼ互角。しかし先発投手陣のチーム防御率はアスレチックスが4.17、ヤンキースが4.05と差があるため、この「奇策」も納得できる。
アスレチックスはきっと、8月のヤンキース戦同様、ヘンドリクスを1イニングで降板させて、残る8イニングを左腕ライアン・ブッチャー(防御率2.75)やルー・トリビアノ(防御率2.92)、メッツから途中加入したセットアッパーのヘウリス・ファミリア(移籍後の防御率3.45)、そしてクローザーのブレイク・トレイネン(防御率0.78)に継投したいところだが、前述の通り、9月のヤンキース戦では救援投手が打ち込まれて失敗に終わった。
最後になるが、実はアスレチックスのヘンドリクス起用以上に驚かされたのが、ヤンキースが先発にセベリーノを立てたことだった。
今季の対アスレチックス戦で好投(6回2安打1失点5三振)の左腕J.A.ハップや、今季、同カードでの登板こそなかったものの、通算5試合32.0回に投げて3勝2敗、防御率2.52という数字を残している田中将大投手ではなく、今季の同カードで2試合8回と2/3を投げて11安打7失点(自責点6)のセベリーノを立てたことは、ブーン監督の大英断だと言っていい。
どちらも失敗すれば「なぜ?」と叩かれる起用法である。もしかしたら、昨季のア・リーグ・ワイルドカード・ゲームのような打撃戦になって、「今日の試合って、いったい誰が先発したんだっけ?」というような展開になるかも知れないが、どうにも落ち着かない「立ち上がり」になりそうな予感がする。
ナガオ勝司
1965年京都生まれ。東京、長野、アメリカ合衆国アイオワ州、ロードアイランド州を経て、2005年よりイリノイ州に在住。訳書に米球界ステロイド暴露本「禁断の肉体改造」(ホゼ・カンセコ著 ベースボールマガジン社刊)がある。「BBWAA(全米野球記者協会)」会員
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