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9月29日、ナゴヤドーム阪神戦。「ストライクは全部振る」。そう話し、野本圭は現役最後の打席に向かった。
ベンチ横の通路には2軍で共に汗を流した後輩たちが押し寄せていた。場内アナウンスと同時にスタンドには白い“31”のボードが掲げられる。場内は大歓声に包まれた。
阪神先発、藤浪のストレートに懸命にくらいつく。真剣勝負に身を投じた4球だった。結果はファーストゴロ、タイミングは明らかなアウトだが、野本はヘッドスライディングでベースに飛び込んだ。
「決めていたわけじゃないんですが、やっぱり僕はこれだろ。いったれ!って感じでした」。ファンの声援に、野本の身体がそう反応した。
起き上がった瞬間、意図せず胸から熱い物がこみ上げた。目からは自然に涙がこぼれる。ヘルメットのひさしで顔を覆う。野本は顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
「泣くつもりは全然なかったんですが、ダメでした。ファンの皆さんを見たら…。ベンチに帰っても涙で仲間の顔をまともに見られなかったです」。
2日前の27日、ナゴヤドームでは、野本圭の引退会見が行われた。晴れやかな表情だった。先輩に愛され、後輩に慕われる選手だった。野本がいるだけでチームの空気が変わった。誰よりも野球を愛し、ドラゴンズを愛していた。
野本は9月の中旬、自ら引退の決断を下した。「身体が限界です。振り返れば、あの時こうすればって事ばかりですよ。でも、それも含めて今の自分です。長い間たくさんのご声援を頂いたファンの皆様には心から感謝いたします」。
29日は、同級生・浅尾拓也の引退登板の日でもあった。2人が同じ日に引退を迎えた裏側には、同級生ならではの絆があった。
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