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スキー コラム 2023年1月13日

4ヒルズの憂鬱

鳥人たちの賛歌 W杯スキージャンプ by 岩瀬 孝文
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ジャンプ週間は悔しい結果に終わった小林陵侑

年末年始に、欧州ドイツとオーストリアで行われる伝統のラージヒルジャンプ4連戦。海外ではフォーヒルズトーナメント、日本国内ではジャンプ週間と言われる。

【2022/23 フォーヒルズトーナメント日程】
12月29日オーベルスドルフ(ドイツ)
1月1日ガルミッシュ・パルテンキルヘン(ドイツ)
1月4日インスブルック(オーストリア)
1月6日ビショフスホーフェン(オーストリア)

もともとは通常のラージヒル4試合であったが、ノックアウトシステムの導入をみて予選で50選手に絞られ、1本目には25位対26位~1位対50位というように対戦が25組。各ひとりが勝ち抜き25選手。そこに対戦敗者の中から上位記録の5人が加えられて2本目へ進出の30選手となる。
前年は小林陵侑(土屋ホーム)が悠々と勝利を重ね、自身2度目の4ヒルズ個人総合優勝者となった。そして、その後に彼は北京五輪で金銀メダルを得て、W杯も制覇した。そうなると今シーズンも、と夢を見てしまうが、そう簡単にはいかなかった。今季の小林陵侑は良くて10位前後の位置で、なかなか浮上できないでいるのだ。ここに大きく立ちふさがったのが新しいルール改正、それもスーツに関しての厳密かつ繊細といえる不思議な形状!?日本チームはそこで男女ともに苦境に立たされてしまった。

4ヒルズはグランネルー(ノルウェー)が個人総合優勝に返り咲き、好調を維持したクバツキ(ポーランド)が続いた。グランネルーはジャンプ後半で浮かび上がる技術は安定したオリジナルなものであるが、なにか背景に秘密があるようなイメージに包まれていた。だが勝利は勝利、立派な優勝である。しばらくはこの勇者2人による優勝争いとなりそうなW杯シーズン中盤戦だ。

今回の4試合を観ていて思うのは正直、2本目に残ることができて良かったこと。
かつて長野五輪前後から10数年連続で4ヒルズトーナメントに撮影と取材に出かけて日本チームの連勝そして凌駕を現地で体感していた。

それは船木和喜選手(デサント→FITスキー)、原田雅彦さん(雪印メグミルク総監督・全日本スキー連盟副会長)、斉藤浩哉さん(雪印メグミルク)、岡部孝信さん(雪印メグミルク監督)、現役まっただ中のリアル・レジェンド葛西紀明選手(土屋ホーム)、宮平秀治さん(全日本チーム前ヘッドコーチ)らが、それこそ表彰台の常連で最強の日本代表を形成していた。
ときに表彰台に日の丸が3本立ち昇り、誇らしくてたまらなくなり、それは華々しく頼もしかった。表彰式でのドイツ国楽隊は、ややアップテンポながら君が代を丁寧に奏で、ドイツの観衆は整然と拍手を送ってくれた。あのときの船木選手のクールな眼差しと「勝って当たり前でしょう」と言いたげにちらりと見せたニヒルな笑顔が本当に格好よかった。

それから徐々に戦力がダウンしていき、ついに現実として2本目に日本選手が残られない惨状となった。これは最終戦のナイトゲームで、いつもの荒れる観衆であふれかえるビショフスホーフェン。なんと1本目30位以内にひとりも日本選手がいなくなったのだ。
なぜだとその様子を伺いたく、取材にはならずとも勝手に憤慨しながらシングルリフトに乗り、チームキャビン近くまで昇った。そこにはコーチとチーム通訳の人が、軽口を言ったりしながらのんびりと煙草をふかしていた。
そこに危機感は全然なく、声をかけるのさえあきらめてサッツ横を通り抜けようとしたら、2本目が始まる前に、宿舎へ帰るシャトルバスに選手達に『ほら、早く乗りなさい、帰るよ』と言い放つ往時の岡部孝信選手と目が合う。約10mの至近距離で3秒くらい見つめ合った。『俺が、若い選手らを守る!』との気概が伝わり。いや、もはや取材すらする気持ちはとうに失せており、目礼を交わしサッツ横の階段をゆっくりと下りた。
現在は選手から慕われ、加えて好ましい話がたくさんでき笑い合える岡部監督は良い指導者であるのだが、あの時は違った。
帰りがけ、駅近くの小学校に設けられたプレスセンターの売店で出されるグラシュスープは普段は相当に美味なのだが、もう許しがたいほどにまずくて、どうしようもなかった。

その2本目に残れない日本チームが、今季の前半戦においてはや2回目を記録して、一体どういうことだ?そこに何があったのだとまた憤り。

常に浮力を求めていた佐藤幸椰(雪印メグミルク)

■日本代表に渦巻く、失格の憂き目

これか、よくわかったよ。
年明け直近の試合、札幌女子W杯での出来事だった。

女子代表入りに王手をかけた注目の小林諭果(CHINTAI)が予選を通過した飛距離であるのに1本目にその姿はなく。ウエスト部分の余分でひっそりとスーツ違反によりはじかれていた。さらに新進気鋭の一戸くる実(CHINTAI)も同様なスーツ違反で失格、予選通過ならず。そこに計測する人により一定ではないのでは?との疑念が生じた。いつも秀逸なジャンプスーツをメイクするミズノの担当者がこれで大丈夫と、入念に仕上げ修正を施したスーツが、なぜか失格の憂き目に合うのだ。

また男子ではスーツはもとより、スキーがマイナス6cmとなり見るも定かに翼を奪われた佐藤幸椰(雪印メグミルク)がふうと気を吐き、大倉山のフィニッシュゾーンに静かにたたずんでいた。4ヒルズ直後のザコパネW杯をスキップして急遽帰国した日本チームは国内調整に徹して、続く地元札幌W杯に懸けていこうとしていた。
「なんでしょうね、自分の選択でスキーコントロールしやすい短めなスキーにしました。ですが浮力が大きく違って、空中の感覚から何から。それに慣れてさらに遠くへ進んでいきたく思うのですが、なかなか上手くいかなくて…、でもなんとかしますよ!」

その気持ち、痛いほどによくわかった。

佐藤幸椰(雪印メグミルク)はHBC杯で3位に滑り込んだ

久しぶりに札幌大倉山で出会えた小柄な彼は、淡々と話を進めた。
「スキーを短くしたのは、自分で選択した道なのです。あのストッフのように短めなスキーを使用して空中コントロールを重視してみた結果ですが、手応えを得るには時間がかかります。いまは、その狭間にいて。もう、やるしかないんです」

そこにちょうど岡部孝信監督がコーチボックスからリフトで降りてきた。日陰の通路で声をかけてみる。
「心配というか、要因はわかっていますから。サッツしてすぐに浮力を受けられない本人が一番つらい。アドバイスしながら、その気持ちを汲んでやりながらですね。必ず自分で這い上がってくるでしょう。ユキヤはそれができる選手なのです」
過去にスキーを4cm切られる理不尽なルールに翻弄され、とても苦慮した岡部選手、その復活劇も涙なくしては語られない。

夜半にノルディック複合の英雄ヤリ・マンティラ(FIN)から問い合わせが入り、『サトウはなぜ6cmもスキーカットされたの?』と聞いてきた。どういうことなのだろうと。それに対して言える範囲で応えた。フィンランド国内のテレビ解説者として伝えたいと。ならば、しっかりと日本チームを応援して欲しい、頼むねと付け加えて。

今季はジャンプスーツに始まりブーツやもろもろのスキーマテリアルのルール変更が物議を醸しだしていた。
その検査も試行錯誤にあり、どこに統一感を求める決まりなのか、まだまだ手探り状態なのである。そこに日本流の器用なまでにキメの細やかな抜群のスーツを作ると、それはすぐにチェックされがちだ。もともと技術力ある日本だから、なにか画期的な秘策があるに違いないと厳しい規範や計測の仕方で手を入れられてしまいがちだ。

我らが金メダリスト小林陵侑は幾度となくスーツ失格に遭遇し、いま猛然と耐えている。ひとつの災禍に近いものをやり過ごそうとしながら、ただシンプルに飛距離が欲しいともがいている。
序盤戦のW杯で3位表彰台へと昇った中村直幹(フライングラボラトリー)はこれで勢いの波に乗るとみられたが、一転、静まり返り。
こういった世界の名立たる好選手たちには伸びやかに飛んでもらいたい。

だから、ゲーム運営サイドは本当に何をしたいのだ!
いかん、またまた憤慨の兆候が出てきそうだ。

文・岩瀬 孝文

岩瀬 孝文

ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。

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