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スキー コラム 2022年12月26日

スキージャンプ日本チーム 決して低迷にはあらず

鳥人たちの賛歌 W杯スキージャンプ by 岩瀬 孝文
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今シーズン日本チームで唯一表彰台に上がっている中村直幹

なかなか成績が出てこない。どうしたのか日本チーム。
シーズン序盤戦は、一桁入りがようやく。昨シーズンの序盤では、しばしば頂点に立つなど表彰台を獲得し、小林陵侑のジャンプ週間制覇と五輪での金・銀メダル獲得、そしてチームメダルにも王手をかけていた日本。
ただ、今シーズンはそう簡単にはいかず、表彰台は遠い状況にある。

しかし、そこで短絡的にダメな日本チームと言い出すのはよろしくない。希望を持って考察してみることが望ましいだろう。メダルを得ることだけがスキージャンプではないのだ。もう少し欧州の強豪チームのごとく大らかなスタンスを持ち、選手に愛情をかけながら応援するという好ましいスタンスを持ちたい。
なにもあくせくすることはない。勝つときはしっかりと勝つ、その実力が日本チームの各選手にはちゃんと備わっているのだから。

■ルール改正にあえぐ佐藤幸椰

「考えてみて貰えますか、普通、スキーが6cmも切られたら飛べますか?」
雪印メグミルクの敏腕サービスマン鈴木彰さんと、名寄で久しぶりに話をすることができた。いつも口数少なくしかも実直な彼と、静かにあれこれと話しをするのは実に楽しいひと時となる。もちろん常日頃から忙しく素晴らしい集中力を持ってチューンナップしているため長時間とはいかない。ほんの一言から三言くらいだ。

佐藤幸椰(雪印メグミルク)

でも長年のつきあい。鈴木彰さんが名門北海学園大学スキー部で活躍していた時代に、当時爆発的に売れていた月刊スキーグラフィック編集部のアルペン担当として現場に出ていた1980年代後半の話だから、どれくらいになるのだろう。いまだ現役でさらに腕を磨き上げる鈴木サービススマン。その頃の若い笑顔と姿は何ら変わらない。
あまり内情を言えないのと、そこまでは聞かないのが礼儀でもあるから。とはいえ、そのとおりの6cmカット、いや、これで飛べというのは無理でしょう。

このような状況下で、当事者の佐藤幸椰(雪印メグミルク)は健気にSNSに書き記す。
『くさらず、ひたむきにやっていれば、きっと良いことがあります。だからいまは歯を食いしばって飛び続けるだけです』
この理由が不透明なルール改正は、ライバルにあたるスキーメーカーの所業という噂もあるが、それには確証が乏しい。本当にいい加減にして欲しいところだ。
ひたむきに前を向いて進むだけである。礼儀礼節ある佐藤幸椰選手に幸あれと、しっかりと見守り、そっと、背中を押してあげたい。

あとは五輪金メダリスト岡部孝信監督(雪印メグミルク)の神がかりな手腕である。かつて長野五輪後にスキーを4cm切られて思い切りふてくされ、自暴自棄となり途方に暮れた。その後、そこから這い上がり、見事にフィンランドのクオピオW杯で優勝を遂げ『ざまあみろ!』と現地で雄叫びをあげた。
その岡部監督にすべてを任せていくと活路は見えてくる。いまは、そのいくらかの猶予時間である。

昨シーズン王者の小林陵侑(土屋ホーム)は、このままの順位で終わるわけはないと当然のように欧州中から見られている。彼自身そこに焦りはひとつもない。
望むのは地元札幌W杯3連戦でコンスタントに表彰台に立ち、ファンに笑顔を見せること。そして2月のプラニツァ世界選手権で、緊張することなくリラックスして伸びやかに飛び抜けるといい。そうすると結果はおのずとついてくる。あのゼーフェルド世界選手権、名門インスブルックLHにおける緊張と堅さにつぶれかけたことは、もう過去のこと。今季のターゲットはこのふたつである。

この秋に南ドイツのバイエルン地方、ミュンヘン近郊へ居を構えた中村直幹(フライングラボラトリー)は、いつもにこやかに過ごし、得意の語学で海外有力選手との交流も盛んに、新しい形の選手活動にあたる。欧州各地の空気感に慣れ、移動もお手のもののジャンプ週間で、いよいよ本領発揮といきそうだ。

■群雄割拠のランキング情勢とジャンプ週間の展望

現在、W杯ランキングは混とんとしている。
地元の開幕戦に勝利したクバツキ(ポーランド)が、夏の好調さを維持してイエロービブを保持するが、クラフト(オーストリア)、グランネルー(ノルウェー)さらに気鋭のラニセク(スロベニア)などが僅差で追っている。

昨シーズンのジャンプ週間を制した小林陵侑

年末年始にドイツとオーストリアで開催されるフォーヒルズトーナメント、「ジャンプ週間」はJSPORTSで完全中継される。予選の結果をチェックしてノックアウトシステムで25組の対戦を予想、ラッキルーザーの5人を加えた2本目30人。そのトップ選手達の優れたジャンプを堪能したい。

開幕の12月29日は電車の駅からゆっくりと丘の上へと道を歩いていくオーベルスドルフ(ドイツ)、路途中には屋台などの出店が並び、チームグッズなどが揃う、それと焼きソーセージやグリュネワイン(赤ワイン)を飲みながらも楽しい。ただし飲み過ぎは禁物だ。
ここでは地元出身のガイガー(ドイツ)の活躍が期待される。

年明けの1月1日ガルミッシュ・パルテンキルヘン(ドイツ)は、平場の五輪コロシアムにそびえる壮大な台。ガル-パル駅を境に旧市街の東側と、富裕層が居住する西側で街の様相は大きく変わるが、ジャンプ観戦時は一緒になり結果に一喜一憂する。かつては葛西紀明選手や船木和喜選手が得意としており、それだけに日本チームのファンもたくさん来ていた。

1月3日はインスブルック(オーストリア)のせり上がり台。有名なザハデザインで観景に慣れるのに10年もの歳月を要した。気象条件に大きく左右され、吹く風がいびつとなり、それをいち早く掴むことが勝利への近道。地元観衆はもちろん英雄クラフト(オーストリア)の優勝を願う。

1月6日の最終戦ナイトゲームのビショフスホーフェン(オーストリア)は小さな町で小学校がプレスセンターとなる。そこの売店でもらえるグラシュスープが絶品だった。ここへはザルツブルクから40分くらいかけて南下するのが常套だが、複合W杯会場のラムサウにある横山久美子さん夫妻が営むアパートメント・ガストハウスから通うのもなお楽しい。

優勝者は試合毎に入れ代わり立ち代わりになりそうな気配がする。そこでバランス良いポイント獲得者が個人総合優勝に輝くだろう。それもクラフトやクバツキが2トップかと思いきや、勢いにあふれる若手の存在も気になる。そうなると元々のひいきの選手や、我らが日本選手に頑張れと熱気がこもった風を現地に送りたい。

文・岩瀬 孝文

岩瀬 孝文

ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。

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